財産事件で逮捕された場合、今後どうなるのか、長く身体を拘束されてしまうのかと不安に感じる方も多いでしょう。他人の財産に被害を与えたからには、被疑者の家族も、検察官の処分や裁判所の判断が少しでも被疑者に有利になることを願い、被害弁償に頭を悩ませることでしょう。
財産事件とは、他人の財産を侵害することにより、財物や利益を得ることを基本とする犯罪です。
財産事件には、さまざまなものがありますので、その中の主な犯罪について取り上げることにします。
以下では、主な財産事件の内容や態様、主な財産事件の刑罰、よくある事例などについて説明します。
主な財産事件の内容や態様
以下、主な財産事件の内容や態様について説明します。
なお、刑法の該当条文のみを表記します。
窃盗罪
窃盗罪は、他人の財物を盗み取ることによって成立します(235条)。
- スーパーやコンビニ、書店などの商店において、買い物客を装い、店員が見ていない隙に、売り場の商品をこっそり盗み取る万引き
- 家人のいない留守を狙って家屋内に侵入し、財物を盗み取る空き巣
- 職業的な手口による犯行(スリなど)
- 金庫破りなどの大金を目的とする犯行
- 盗みの七つ道具を携行しての犯行など
強盗罪
強盗罪は、相手の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行または脅迫を加えて他人の財物を取得し、または財産上不法の利益を得、もしくは他人に得させることでも成立します(236条)。
- いわゆる銀行強盗などの金融機関を狙う強盗
- 通り魔的かつ無差別的に、通行人を狙う連続強盗
- 他人の家に押し入って、家人に暴行を加えたり、脅迫を加えたりして、金品を奪い取る押し込み強盗
- 路上で通行人に暴行を加えたり、脅迫を加えたりして、所持金を奪い取る路上強盗
- 乗客を装い、強度の暴行や脅迫を加えて売上金を奪い取ったり、あるいは、移動手段としてタクシーを利用し、強度の暴行や脅迫を加えて料金を踏み倒すタクシー強盗など
事後強盗罪
事後強盗罪は、窃盗犯人が、財物を得てその取り返しを防ぎ、逮捕を免れ、または罪証を隠滅するために、相手の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行または脅迫を加えることによって成立します(238条)。
- 盗んだ財物を被害者側から取り返されるのを防ぐために、強度の暴行や脅迫を加える場合
- 被害者や警察官から取り押さえられ身柄を拘束されるのを防ぐために、強度の暴行や脅迫を加える場合
- 罪証を隠滅する意図で、身元が明らかになる物を現場に落としたため、それを被害者から取り返そうとするために、強度の暴行や脅迫を加える場合など
昏睡強盗罪
昏睡強盗罪は、人を昏睡させてその反抗を抑圧し、財物を盗み取ることによって成立します(239条)。
- 睡眠薬や麻酔薬などの薬物を飲み物に混入し、財物を盗み取る場合
- 睡眠導入作用のある薬物を混ぜた料理を食べさせたりして、それぞれ人の意識に一時的または継続的な障害を生じさせ、反抗できない状態にして財物を盗み取る場合など
詐欺罪
詐欺罪は、人をだまして、財物を交付させ、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させることによって成立します(246条)。
- 交通事故を偽装して保険金をだまし取る保険金詐欺
- 結婚する旨相手をだまして、お金を出させる結婚詐欺
- 息子になりすまして電話をかけ、息子と信じた相手をだまして、指定した口座にお金を振り込ませるオレオレ詐欺
- 拾った他人のクレジットカードを使って、商品を不正に取得するクレジットカード詐欺など
恐喝罪
恐喝罪は、人に暴行や脅迫を加えて財物を交付させ、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させることによって成立します(249条)。
- 些細なことから相手に因縁をつけて、お金を脅し取る恐喝(いわゆるカツアゲ)
- 暴力団の組を表示した名刺を出して、この界隈での客とのもめごとを解決してやると称してみかじめ料を脅し取る恐喝
- 追突事故にあった際、少し接触した程度でほとんど損傷がないにもかかわらず、示談金を支払えば警察へ通報しない旨言って相手を困らせ、その場でお金を脅し取る恐喝など
横領罪
横領罪は、自己の占有する他人の物を横領することによって成立します(252条)。
- 他人から借りた書籍を売却する横領
- 他人から商品の買い付け資金として現金を預かり、これを自己が開設した銀行の預金口座に預け入れたが、生活費に困ったため、銀行のATMを利用して、預金全額を引き出す横領
- 自己の占有する不動産を他人に譲渡した後、所有権移転登記が未了の間に、その不動産を他の第三者に譲渡して所有権移転登記を了する横領など
業務上横領罪
業務上横領罪は、業務上自己の占有する他人の物を横領することによって成立します(253条)。
- 金融機関の預金担当者が顧客の預金口座のお金を着服する横領
- 会社の経理担当者が、保管している会社のお金を着服する横領など
主な財産事件の刑罰
主な財産事件の刑罰は、以下の罪名に対応するとおりです。
なお、刑罰に記載されている懲役は「拘禁刑」、有期懲役は「有期拘禁刑」と表記されるようになります。この変更は、令和7年(2025年)6月1日(改正刑法施行日)から適用されます。
罪名 | 刑罰 |
窃盗罪 | 10年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金 |
強盗罪 | 5年以上の有期懲役(有期拘禁刑) |
事後強盗罪 | 同上 |
昏睡強盗罪 | 同上 |
詐欺罪 | 10年以下の懲役(拘禁刑) |
恐喝罪 | 同上 |
横領罪 | 5年以下の懲役(拘禁刑) |
業務上横領罪 | 10年以下の懲役(拘禁刑) |
よくある事例
主な財産事件でよくある事例は、以下のとおりです。
万引きの犯行が後日発覚するケース
万引きでは、盗み自体の犯行が見逃されても、後日犯行が発覚する場合があります。
それは、客の不自然な動きに疑いを持った店員、万引きGメンや警備員の情報、あるいは商品の数と売り上げが一致していないことなどを受けて、防犯カメラの映像や監視カメラの画像をチェックして、万引きの犯行が確認できた場合です。
犯人については、被害店舗から被害届が提出されて捜査が開始され、万引き犯がすぐに判明して特定される場合と、街中にある複数の防犯カメラや監視カメラの追跡から、万引き犯が店を出た後の足取りを把握して特定される場合があります。
ひったくりのケース
ひったくりは、被害者の虚を突き、あっけに取られている隙にバッグ等を奪うもので、被害者にいくらかの有形力の行使がされたとしても、それが被害者の反抗を抑圧する程度のものでなければ、窃盗罪に問われるにすぎません。
たとえば、被害者が自転車の籠にバッグを入れていて、バイクに乗った犯人がすれ違いざまにバッグを籠から取り去る場合は、通常窃盗罪になります。
しかし、女性が肩からバッグを提げて歩いていた際に、犯人の男性が走りながら後ろから女性のバッグに手をかけて奪おうとしたのに対し、女性がこれを奪われまいとして、バッグの紐を掴んで離さなかったため、犯人が無理やりバッグを引っ張って奪い取る行為は、女性がこれ以上抵抗すれば、転倒を招きその身体に重大な危害が生ずる可能性があるため、反抗を抑圧するに足りる暴行にあたり、強盗罪が成立するといえます。
受け子のケース
特殊詐欺は、通常、被害者に電話をかける「架け子」、口座から現金を引き出す「出し子」、現金等を受け取る「受け子」、架け子などに指示を出す「指示役」といった役割分担のもと、組織的に行われています。
「受け子」は往々にして、何も事情を知らされずに、現金等を受け取るだけにしか関与していないため、だます意思や他の者との共謀があるといえるかが問題となります。
そして、この点につき、受け子に対する下級審の判決が、有罪、無罪に分かれていました。しかし、最高裁は、特殊詐欺事件の「受け子」について、有罪とする判断を示してこの争いに決着をつけました。
その理由は、おおむね、指示を受けて詐欺の被害者が送付した現金入りの荷物を名義人になりすまして受け取るのは、他に詐欺の可能性の認識を排除するような事情も見当たらず、自己の行為が詐欺に関与するかも知れないと認識して荷物を受け取ったものと認められるから、だます意図や他の者との共謀も認められるとするものです。
まとめ
財産事件で逮捕された場合、不安や疑問が募ることと思います。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すためには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
特に財産事件では、被疑者の処分結果に最も影響を与えるのが、被害が回復されているかどうかということです。そして、被害者との折衝、示談交渉などは、法律のプロである弁護士に委ねるのが望ましいのです。
弁護士は、事件の内容に応じた最適な戦略を立て、捜査機関や裁判所に対して適切に働きかけます。経験豊富な弁護士であれば、起訴・不起訴の見通しについても具体的なアドバイスを受けることができ、被疑者に有利な結果を引き出す可能性が高まります。財産事件でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。