麻薬及び向精神薬取締法で逮捕されたら

麻薬及び向精神薬取締法で逮捕されたら

麻薬および向精神薬取締法(以下「麻向法」といいます)違反で逮捕された場合、犯罪の性質上、逮捕後の身柄拘束が長引き、有罪判決を受けるのではないかと不安に感じる方も多いでしょう。

また、逮捕された被疑者のご家族も、被疑者のために薬物犯罪に強い弁護士を頼りたいと望んでいることでしょう。

麻向法は、多様な薬物を規制対象としています。

以下では、麻向法の主な規制対象麻薬や麻薬原料植物、向精神薬の内容麻向法違反で逮捕された場合に問われる罪麻向法違反の罰則よくある事例などについて説明します。

なお、以下の麻向法における条文は、単に条文番号のみを掲げています。

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目次

麻薬および向精神薬取締法の主な規制対象

麻向法の主な規制対象について説明します。

麻薬について

麻向法は、別表第一で規制対象となる麻薬を1号から78号まで列挙し、さらに別表第一の77号において「前各号に掲げる物と同種の濫用のおそれがあり、かつ、同種の有害作用がある物であって、政令で定めるもの」も麻薬と定めています。それに基づき、政令1条では、別表第一の77号に基づき、1号から163号までを麻薬として指定しています。

ただし、ジアセチルモルヒネ、その塩類、またはこれらを含有する麻薬(12条1項、以下「ジアセチルモルヒネ等」といいます)や、あへん末(同条2項)であるか、またはこれらの麻薬以外の麻薬であるかが不明な場合、76条に基づき、ジアセチルモルヒネ等およびあへん末以外の麻薬とみなされ、ジアセチルモルヒネ等およびあへん末以外の麻薬に対する罰則が適用されることとされています。

下記の「麻薬の主な内容」に掲げる麻薬のうち、ヘロイン、コカイン、モルヒネは2条1項1号の別表第一の麻薬として規制され、大麻は2条1項1号の麻薬として規制され、あへん末は12条2項の麻薬として規制され、ケタミン、MDMA、LSDは2条1項1号の別表第一および政令の麻薬として規制されています。 

麻薬原料植物について

麻向法は、別表第一の78号のニにおいて麻薬原料植物を麻薬とし、別表第二において規制対象となる麻薬原料植物を1号から4号まで列挙し、さらに別表第二の4号が「その他政令で定める植物」も麻薬となる旨規定していることから、それを受けて政令3条が、別表第二の4号の規定に基づき、1号と2号を麻薬原料植物に指定しています。

麻薬原料植物は、別表第一、2条1項4号の別表第二および政令の麻薬原料植物として規制されています。 

向精神薬について

麻向法は、別表第三において規制対象となる向精神薬を1号から12号まで列挙し、さらに別表第三の11号が「前各号に掲げる物のほか、麻薬または向精神薬の原材料となる物であって政令で定めるもの」も向精神薬となる旨規定していることから、それを受けて政令4条が、別表第三の11号の規定に基づき、1号から79号までを向精神薬に指定しています。

向精神薬は、2条1項6号の別表第三および政令の向精神薬として規制されています。

麻薬の主な内容

麻薬の主な内容は、以下のとおりです。

ヘロイン

ヘロインは、けしを原料とした薬物で、けしからあへんを採取し、あへんから抽出したモルヒネを精製して作られ、白色または茶色の粉末のほか、固形状のものもあり、鼻からの吸引または吸煙のほか、液体に溶かして注射するなどの方法により摂取されます。

ヘロインは、別表第一の16号にジアセチルモルヒネ(別名ヘロイン)と規定されています。

コカイン

コカインは、南米原産のコカの木の葉を原料としたもので、無色の結晶または白色の結晶性粉末であり、鼻からの吸引または吸煙のほか、液体に溶かして注射するなどの方法により摂取されます。

コカインは、別表第一の13号に規定されています。

モルヒネ

モルヒネは、あへんから生成される麻薬性鎮痛薬であり、依存性が高いものです。

モルヒネは、別表第一の72号に規定されています。

大麻

大麻は、法律上、大麻草(その種子および成熟した茎を除く)およびその製品(大麻草としての形状を有しないものを除く)のことをいいますが、大麻草の葉を乾燥させたものはマリファナ、樹脂を固めて塊状にしたものはハシッシュ、液体状にしたものはハシッシュオイルと呼ばれ、吸煙のほか、食品に混ぜて喫食するなどの方法により摂取されます。

大麻は、2条1項1号に規定されています。

あへん末

あへん末は、けしから得たあへんを均質な粉末にしたもの、またはそれにデンプンもしくは「乳糖水和物」を加えたもので、黄褐色~暗褐色の粉末です。

あへん末は、12条2項に規定されています。

ケタミン

ケタミンは、「K」、「スペシャルK」などと呼ばれ、液体または粉末であり、経口摂取または鼻からの吸引のほか、液体に溶かして注射するなどの方法により摂取されます。

ケタミンは、政令1条30号に「2-(2-クロロフェ二ル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサノン(別名ケタミン)」と規定されています。

MDMA

MDMAは、合成麻薬(化学薬品から合成された麻薬)の一種であり、エクスタシーと呼ばれ、文字や絵柄の入った錠剤やカプセルの形で密売されることが多く、経口摂取または鼻からの吸引のほか、液体に溶かして飲用するなどの方法により摂取されます。

MDMAは、政令1条60号に「N・α-ジメチル-3・4-(メチレンジオキシ)フェネチルアミン(別名MDMA)」と規定されています。

LSD

LSDは、合成麻薬の一種であり、水溶液を染み込ませた紙片のほか、錠剤、カプセルなどがあり、経口摂取のほか、飲み物とともに飲用するなどの方法により摂取されます。

LSDは、リゼルギン酸ジエチルアミド(Lysergic acid diethylamide)の略称です。

LSDは、政令1条163号に「リゼルギン酸ジエチルアミド(別名リゼルギド)」と規定されています。

麻薬原料植物の主な内容

麻薬として指定されているサイロシビン(政令1条55号)またはサイロシン(政令1条56号)を含有する幻覚性きのこ(いわゆる「マジックマッシュルーム」)は、麻薬原料植物に指定されていることから、麻薬として取り扱われます。

マジックマッシュルームは、麻薬成分であるサイロシビンやサイロシンを含有するきのこ類の俗称で、これを摂取すると幻覚症状が現れます。

向精神薬の主な内容

向精神薬は、鎮静、興奮の精神機能に影響を及ぼす薬の総称です。

最近問題となっている「トリアゾラムを含有する睡眠薬」は向精神薬の一つです。

麻向法違反で逮捕されたら問われる罪

麻向法は、規制対象となる薬物を犯罪の客体とし、主に、その輸入、輸出、製造、製剤、小分け、譲渡、譲受、所持および施用が罪に問われます。

以下では、麻薬について説明します。

麻薬の輸入および輸出

麻薬の輸入とは、国外から国内に麻薬を搬入することをいいます。

麻薬の輸出とは、国内から国外に麻薬を搬出することをいいます。

麻薬の製造、製剤、調剤および小分け

麻向法によれば、麻薬の製造は、麻薬以外の物から麻薬を抽出しまたは作出するという本来の意味での製造のほか、麻薬を精製すること(麻薬から不純物を除去して純粋の麻薬にすること)および麻薬に化学的変化を加えて他の麻薬にすることを含みます(2条12号)が、製剤(麻薬に化学的変化を加えないで他の麻薬にすること。同条13号)、調剤および小分け(他人から譲り受けた麻薬を分割して容器に収めること。同条13号)は含まないとされています。

このうち製剤とは、麻薬粉末を錠剤にしたり、水に溶かしてアンプルに入れた注射液にするなど、一般人が薬品として使用するにふさわしい効能、形態および分量を備えた麻薬を作ることをいい、麻薬を分割して容器に収める行為一般を指す小分けとは区別されます

一方、調剤とは、一定の処方に従い、特定人の特定の疾病に対する薬剤を調整することをいい、一般的に禁止されている製剤からは除外され(2条13号)、麻向法に基づく禁止や制限は行われていません

麻薬の譲渡、譲受および所持

麻薬の譲渡とは、相手方に対し、麻薬についての法律上または事実上の処分権限を付与し、かつ、その所持を移転することをいいます。

麻薬の譲受とは、相手方から、麻薬についての法律上または事実上の処分権限を付与され、かつ、その所持の移転を受けることをいいます。

麻薬の所持とは、人が麻薬を保管する実力支配関係を有していることをいいます。

麻薬の施用

麻薬の施用とは、麻薬を自己または他人の身体、または家畜に使用することをいいます。

自分で自己の身体に注射するなどして用いること、家畜に用いること(2条21号、22号参照)も、麻薬の施用に当たります。

他人に依頼して自己の身体に注射などしてもらうことは、麻薬の受施用に当たります(12条4項、27条5項参照)。

麻向法違反の罰則

麻向法違反の罰則は、下記表のとおりです。 

罰則に記載されている懲役は「拘禁刑」、有期懲役は「有期拘禁刑」、無期懲役は「無期拘禁刑」と表記されるようになります。この変更は、令和7年6月1日(改正刑法施行日)から適用されます。

主な規制対象主な違反態様罰則
ヘロイン(麻薬) 輸入、輸出、製造(営利目的なし)1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)
(営利目的あり)無期もしくは3年以上の懲役(拘禁刑)または情状により無期もしくは3年以上の懲役(拘禁刑)および1,000万円以下の罰金
製剤、小分け、譲渡、譲受、所持、施用 (営利目的なし)10年以下の懲役(拘禁刑)
(営利目的あり)1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)または情状により1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)および500万円以下の罰金
コカイン、モルヒネ、大麻、あへん末、ケタミン、MDMA、LSD(ヘロイン以外の麻薬)輸入、輸出、製造(営利目的なし)1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)
(営利目的あり)1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)または情状により1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)および500万円以下の罰金
製剤、小分け、譲渡、譲受、所持、施用 (営利目的なし)7年以下の懲役(拘禁刑)
(営利目的あり)1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)または情状により1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)および300万円以下の罰金
マジックマッシュルーム(麻薬原料植物) 輸入、輸出、製造、栽培(営利目的なし)1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)
(営利目的あり)1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)または情状により1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)および500万円以下の罰金
製剤、小分け、譲渡、譲受、所持、施用 (営利目的なし)7年以下の懲役(拘禁刑)
(営利目的あり)1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)または情状により1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)および300万円以下の罰金
向精神薬輸入、輸出、製造、製剤、小分け(営利目的なし)5年以下の懲役(拘禁刑)
(営利目的あり)7年以下の懲役(拘禁刑)または情状により7年以下の懲役(拘禁刑)および200万円以下の罰金
譲渡、譲渡目的所持(営利目的なし)3年以下の懲役(拘禁刑)
(営利目的あり)5年以下の懲役(拘禁刑)または情状により5年以下の懲役(拘禁刑)および100万円以下の罰金
主な規制対象ヘロイン(麻薬) 
主な違反態様輸入、輸出、製造
1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)
(営利の目的)無期もしくは3年以上の懲役(拘禁刑)または情状により無期もしくは3年以上の懲役(拘禁刑)および1,000万円以下の罰金
主な違反態様製剤、小分け、譲渡、譲受、所持、施用
10年以下の懲役(拘禁刑)
(営利の目的)1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)または情状により1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)および500万円以下の罰金
主な規制対象コカイン、モルヒネ、大麻、あへん末、ケタミン、MDMA、LSD(ヘロイン以外の麻薬)
主な違反態様輸入、輸出、製造
1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)
(営利の目的)1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)または情状により1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)および500万円以下の罰金
主な違反態様製剤、小分け、譲渡、譲受、所持、施用 
7年以下の懲役(拘禁刑)
(営利の目的)1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)または情状により1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)および300万円以下の罰金
主な規制対象マジックマッシュルーム(麻薬原料植物) 
主な違反態様輸入、輸出、製造、栽培
1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)
(営利の目的)1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)または情状により1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)および500万円以下の罰金
主な違反態様製剤、小分け、譲渡、譲受、所持、施用
7年以下の懲役(拘禁刑)
(営利の目的)1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)または情状により1年以上10年以下の懲役(拘禁刑)および300万円以下の罰金
主な規制対象向精神薬
主な違反態様輸入、輸出、製造、製剤、小分け
5年以下の懲役(拘禁刑)
(営利の目的)7年以下の懲役(拘禁刑)または情状により7年以下の懲役(拘禁刑)および200万円以下の罰金
主な違反態様譲渡、譲渡目的所持
3年以下の懲役(拘禁刑)
(営利の目的)5年以下の懲役(拘禁刑)または情状により5年以下の懲役(拘禁刑)および100万円以下の罰金

よくある事例

麻向法違反でよくある事例は、以下のとおりです。

麻向法違反で不起訴になるケース

友人宅にいた際に家宅捜索が入り、麻薬が発見された場合、友人と一緒に麻薬の共同所持の容疑で現行犯逮捕される可能性が高いです。

しかし、任意で提出した尿検査で陽性反応が出なかったこと、自宅の家宅捜索でも麻薬との関係を示す証拠が見つからなかったこと、麻薬の購入資金を負担した形跡がなかったこと、さらに麻薬に関与している状況も全くなかったことが情況証拠として挙げられます。また、友人が共に関与を否定している場合、麻薬を共同所持していた疑いはほぼ否定されます。

このような場合、検察官は罪に問うことなく、または嫌疑なしとして不起訴処分にすることになります。

税関での麻薬発覚から捜査が行われるケース

海外の闇サイトからインターネットで麻薬を購入し、国際郵便を使って密輸しようとした場合、税関で郵便物が検査され、違法薬物と思われる物品が発見されることがあります。そこで、税関に設置された警察署の警察官が簡易検査を行い、麻薬の陽性反応が出た場合、郵便物を受け取るために最寄りの郵便局に訪れた人物は、麻薬所持の疑いで現行犯逮捕されることになります。

また、麻薬が税関で発見された後、その人物に対して捜索差押許可状が発付され、家宅捜索が行われる場合もあります。これも、税関で麻薬が発見されたことがきっかけで行われる捜査の一例です。

マジックマッシュルームの取り扱いが問題になるケース

マジックマッシュルームは、麻向法の麻薬原料植物として指定されており、その栽培、輸入、譲渡、譲受、所持、施用が禁止されています。

一方、マジックマッシュルームやその他のきのこの胞子や菌糸は、一般的に麻薬成分であるサイロシビンやサイロシンを含んでいないため、麻薬や麻薬原料植物には該当しません。

しかし、育成の過程でこれらの麻薬成分を含む可能性があるため、麻薬研究者免許を取得し、麻薬に準じた取り扱いを行うことが推奨されています。

なお、成長したマジックマッシュルームが麻薬成分を含んでいなければ、麻薬や麻薬原料植物には該当せず、麻向法の適用対象外となります。

まとめ

麻向法違反で逮捕された場合、不安や疑問が募ることと思います。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すためには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。

弁護士は、事件の内容に応じた最適な戦略を立て、捜査機関や裁判官に対して適切に働きかけます。経験豊富な弁護士であれば、起訴・不起訴の見通しについても具体的なアドバイスを受けることができ、被疑者に有利な結果を引き出す可能性が高まります。

しかし、本来であれば不起訴処分や執行猶予付きの判決が得られる可能性が高い事案でも、初動対応を誤ると、それらが得られなくなる可能性があります。

このように、初動対応は非常に重要です。麻向法に違反したことでお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

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