児童買春・援助交際で逮捕された場合、被疑者が今後どうなるのかと不安に感じる方も多いでしょう。
しかし、被害者が保護すべき18歳未満の児童であるだけに、厳しい非難は免れないところです。
以下では、児童買春とは、援助交際とは、児童買春・援助交際で成立する犯罪、児童買春・援助交際で成立する犯罪と罰則との関係、問題となるケースなどについて説明します。
児童買春とは
以下、定義、定義規定の内容、児童買春で成立する犯罪について説明します。
定義
児童買春については、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(以下「児童ポルノ禁止法」といいます)2条2項に定義規定が置かれています。要約しますと、次のようになります。
児童買春とは、児童や親らに対し、対償(金銭や物品)を支払い、またはその支払いの約束をして、児童に対し、性交等をすること、すなわち性交や性交類似行為をしたり、自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等を触ったり、児童に自己の性器等を触らせたりすることをいいます。
定義規定の内容
児童とは、18歳未満の者をいいます。男女を問いません。
対償とは、児童と性交等をするために支払う対価のことをいいます。
児童ポルノ禁止法では、性交等とは、性交もしくは性交類似行為をし、または自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器,肛門または乳首をいいます)を触り、もしくは児童に自己の性器等を触らせるこというとしています。
児童買春で成立する犯罪
児童買春をした場合には、児童ポルノ禁止法の児童買春罪が成立します。
そのほかに、どのような犯罪が成立するのでしょうか。
児童買春をした場合に、成立する可能性がある犯罪としては、児童買春罪のほか、淫行条例違反の罪、児童淫行罪、児童ポルノ製造罪、出会い系サイト規制法違反の罪、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪があります。詳しくは、後述するとおりです。
援助交際とは
援助交際とは、一般的に、金銭などを支払う「援助」をして、児童と性交等の「交際」をすることをいいます。要するに、児童に金品を渡して性交等をすることです。
ネット上などでは、「援交」や「ウリ」などと表現されたりします。
援助交際は、法律で規定された用語ではないので、援助交際という罪があるわけではありません。援助を受ける者の年齢にも制限はありません。ただ、一般に未成年者を対象とする場合が多いようです。
援助交際は、必ずしも性交等を伴うとは限りません。金品を渡して、一緒に食事をしたり、デートをしたりするのも、援助交際に含まれるからです。このような場合には、何ら罪に問われません。
また、相手が18歳以上であれば、対償を支払って性交等をしても犯罪にはなりません。
問題は、18歳未満の者に対し、対償を支払って性交等をした場合です。以下では、このような場合の援助交際に限定して説明します。
援助交際をした場合に、成立する可能性がある犯罪としては、児童買春罪、淫行条例違反の罪、児童淫行罪、児童ポルノ製造罪、出会い系サイト規制法違反の罪、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪があります。詳しくは、後述するとおりです。
このように、援助交際は児童買春と重なることになります。
児童買春・援助交際で成立する犯罪
以下、児童買春・援助交際で成立する犯罪の内容について説明します。
児童買春罪
18歳未満の児童に対償を支払って性交等をした場合には、児童買春罪が成立します。
なお、18歳未満の児童と性交等をしたのに、対償を支払っていない場合には、犯罪成立の要件を欠くため、児童買春罪は成立しません。
しかし、この場合には、後述するように、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」(以下「淫行条例」といいます)違反の罪になります。
淫行条例違反の罪
淫行条例は、青少年(18歳未満の者をいいます)に対する反倫理的な性交等から青少年を保護するために制定されたものです。
淫行条例18条の6は,「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならない」とし、これに違反した場合には,淫行条例違反の罪が成立します。
ここにいう「みだらな性交又は性交類似行為」とは、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔しまたは困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交または性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交または性交類似行為をいうと解されています。
なお、淫行条例では、婚約中の青少年またはこれに準ずる真摯な交際関係にある場合は除かれます。
以下で、場合を分けて検討してみましょう(なお、青少年を児童と置き換えています)。
18歳未満の児童の同意を得て、性交等をした場合
児童の同意の有無は淫行条例違反の罪の成否に影響しませんので、この場合には、淫行条例違反の罪が成立します。
18歳未満の児童と性交等をしたが、対償を支払っていない場合
淫行条例では、対償を支払うことは犯罪成立の要件ではありませんので、対償を支払っていなくても、18歳未満の児童と性交等をした場合には、淫行条例違反の罪が成立します。
児童淫行罪
児童福祉法は、34条1項で「何人も、次に掲げる行為をしてはならない」とし、6号に「児童に淫行をさせる行為」と規定して、これに違反した場合には、児童淫行罪が成立します。
ここにいう「淫行」とは、児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交またはこれに準ずる性交類似行為をいい、児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交またはこれに準ずる性交類似行為は、これに含まれると解されています(最高裁判所・平成28年6月21日決定参照)。
児童淫行罪は、18歳未満の児童に対して強い影響力がある者(たとえば、教師や施設長など)が、それを利用して性交または性交類似行為に及んだ場合に成立します。
児童ポルノ製造罪
18歳未満の児童と性交や性交類似行為をしている姿態、児童の性器等を触ったり、児童に自己の性器等を触らせたりしている姿態、ヌードあるいはセミヌードの児童が性的な部位(性器等とその周辺部、臀部や胸部)を露出している姿態のいずれかを撮影した場合には、児童ポルノ製造罪が成立します。
児童ポルノ製造罪は、児童に上記のようないずれかの姿態をとらせて撮影した場合だけでなく、ひそかにそのようないずれかの児童の姿態を撮影した場合にも成立します。
なお、児童ポルノとは、児童ポルノ禁止法3条3項に定義されていますが、要するに、18歳未満の児童のわいせつな画像や動画のことをいいます。
出会い系サイト規制法違反の罪
児童買春を含む、広い意味での援助交際をするときには、現実問題として、異性交際の出会いの場として提供されているインターネットの出会い系サイトが利用されています。
しかし、出会い系サイトにおいて、18歳未満の児童に対し、性交等をもちかけること、あるいは、対償を示して、性交等以外の異性交際をもちかけることを内容とする書き込みをした場合には、「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」(以下「出会い系サイト規制法」といいます)に違反し、出会い系サイト規制法違反の罪が成立します。
不同意わいせつ罪
不同意わいせつ罪は、自由な意思決定が困難な状態にあるのに、18歳未満の児童に対しわいせつな行為をした場合に成立します。
わいせつな行為とは、性欲を刺激、興奮または満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうものと解されています。
16歳未満の児童に対してわいせつな行為をした場合、暴行や脅迫などがなく、児童が同意しているように見える場合であっても、原則として、不同意わいせつ罪が成立します(刑法176条3項)。
以下で、場合を分けて検討してみましょう。
13歳未満の児童に対してわいせつな行為をした場合
児童の同意の有無にかかわらず、不同意わいせつ罪が成立します。
13歳以上16歳未満の児童に対してわいせつな行為をした場合
行為者が児童より5歳以上年長の場合には、児童の同意の有無にかかわらず、不同意わいせつ罪が成立します(刑法176条3項)。
行為者と児童の年齢差が5歳未満の場合には、児童の同意があれば、不同意わいせつ罪は成立しません。
ただし、行為者と児童の年齢差が5歳未満の場合であっても、児童買春・援助交際に同意していた児童と会った際、児童がわいせつな行為をされることを嫌がり、これを拒んでいるにもかかわらず、行為者が暴行や脅迫を加えたこと、もしくは児童が酔っていること、あるいは眠っていることなどが原因となって、「同意しない意思の形成、表明または全うすることが困難な状態にさせ、またはそのような状態にあることに乗じて」児童に対してわいせつな行為をすれば、不同意わいせつ罪が成立します(刑法176条1項)。
16歳以上18歳未満の児童に対してわいせつな行為をした場合
児童の同意があれば、不同意わいせつ罪は成立しません。
児童が児童買春・援助交際に同意していたのに、わいせつな行為を受ける際にこれを拒んでいる場合には、上述したように、「同意しない意思の形成、表明または全うすることが困難な状態にさせ、またはそのような状態にあることに乗じて」児童に対してわいせつな行為をすれば、不同意わいせつ罪が成立します(刑法176条1項)。
不同意性交等罪
不同意性交等罪は、自由な意思決定が困難な状態にあるのに、18歳未満の児童に対し性交等をした場合に成立します。
ここにいう性交等とは、性交、肛門性交、口腔性交または膣もしくは肛門に身体の一部(陰茎を除きます)もしくは物を挿入する行為であってわいせつなものをいいます。
16歳未満の児童に対して性交等をした場合、暴行や脅迫などがなく、児童が同意しているように見える場合であっても、原則として、不同意性交等罪が成立します(刑法177条3 項 )。
以下で、場合を分けて検討してみましょう。
13歳未満の児童に対して性交等をした場合
児童の同意の有無にかかわらず、不同意性交等罪が成立します。
13歳以上16歳未満の児童に対して性交等をした場合
行為者が児童より5歳以上年長の場合には、児童の同意の有無にかかわらず、不同意性交等罪が成立します(刑法177条3項 )。
行為者と児童の年齢差が5歳未満の場合には、児童の同意があれば、不同意性交等罪は成立しません。
ただし、行為者と児童の年齢差が5歳未満の場合であっても、児童買春・援助交際に同意していた児童と会った際、児童が性交等をされることを嫌がり、これを拒んでいるにもかかわらず、行為者が暴行や脅迫を加えたこと、もしくは児童が酔っていること、あるいは眠っていることなどが原因となって、「同意しない意思の形成、表明または全うすることが困難な状態にさせ、またはそのような状態にあることに乗じて」児童に対して性交等をすれば、不同意性交等罪が成立します(刑法177条1項)。
16歳以上18歳未満の児童に対して性交等をした場合
児童の同意があれば、不同意性交等罪は成立しません。
児童が児童買春・援助交際に同意していたのに、性交等を受ける際にこれを拒んでいる場合には、上述したように、「同意しない意思の形成、表明または全うすることが困難な状態にさせ、またはそのような状態にあることに乗じて」児童に対して性交等をすれば、不同意性交等罪が成立します(刑法177条1項)。
児童買春・援助交際で成立する犯罪と罰則の関係
上述した児童買春・援助交際で成立する犯罪について、罪名、該当法条、罰則について整理してみましょう。
罰則に記載されている懲役は「拘禁刑」、有期懲役は「有期拘禁刑」と表記されるようになります。この変更は、令和7年6月1日(改正刑法施行日)から適用されます。
罪名 | 該当法条 | 罰則 |
児童買春罪 | 児童ポルノ禁止法4条 | 5年以下の懲役(拘禁刑)または300万円以下の罰金 |
淫行条例違反の罪 | 淫行条例24条の3 | 2年以下の懲役(拘禁刑)または100万円以下の罰金 |
児童淫行罪 | 児童福祉法60条1項 | 10年以下の懲役(拘禁刑)もしくは300万円以下の罰金、または10年以下の懲役(拘禁刑)および300万円以下の罰金 |
児童ポルノ製造罪 | 児童ポルノ禁止法7条4項・5項 | 3年以下の懲役(拘禁刑)または300万円以下の罰金 |
出会い系サイト規制法違反の罪 | 出会い系サイト規制法33条 | 100万円以下の罰金 |
不同意わいせつ罪 | 刑法176条 | 6月以上10年以下の懲役(拘禁刑) |
不同意性交等罪 | 刑法177条 | 5年以上の有期懲役(有期拘禁刑) |
問題となるケース
児童買春・援助交際で問題となるケースは、以下のとおりです。
18歳未満の児童を18歳以上であると誤信していたケース
児童買春罪が成立するためには、相手が18歳未満であることの認識が必要です。
行為者に、確定的に、あるいは未必的に(18歳未満かもしれないという程度の認識)でも、相手の年齢が18歳未満であることの認識がなければ、児童買春罪は成立しません。
たとえ18歳以上であると誤信したことに過失がある場合であっても、児童買春罪は成立しません。
しかし、見た目や相手の服装、言動などから、18歳未満と考えるのが常識にかなうという場合には、少なくとも、未必的な認識があったと認定される可能性が高いといえます、
性交等や対償の支払いなどなしで、18歳未満の児童に異性交際をもちかけるケース
たとえば、実際の異性交際はもちろん、ネット上だけの異性交際相手を募集する場合になります。
これだけでは、特に何らかの法律に触れることにはならないでしょう。
しかし、このような内容の書き込みをインターネットの出会い系サイトにすれば、出会い系サイト規制法6条5号の禁止行為に該当します。
ただ、このような内容の書き込みをしたとしても、同法にはこれを罰する規定がないため(6条5号は罰則の適用から除外されています)、処罰されることはありません。
熟睡中の18歳未満の児童に、陰部(茎)を露出する姿態をとらせ、ひそかに撮影するケース
このケースでは、児童ポルノ禁止法7条の4項(いわゆる「姿態をとらせ製造罪」)に該当するか、5項(いわゆる「ひそかに製造罪」)に該当するかが争われました。
最高裁判所は、上記のいずれの製造罪に該当するかについて、注目すべき判断を示しました(令和6年5月21日判決)。
その判決要旨は、「児童に児童ポルノ禁止法(判決では正式法律名)2条3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これをひそかに撮影するなどして児童ポルノを製造したという事実について、当該行為が同法7条4項の児童ポルノ製造罪にも該当するとしても、なお同条5項の児童ポルノ製造罪が成立し、同罪で公訴が提起された場合、裁判所は同項を適用することができる」というものです。
本件の争点は、「ひそかに製造罪」は、「姿態をとらせ製造罪」に該当しない場合に限って成立するという弁護士の主張の当否でしたが、最高裁判所は、上述のとおりの判断を示しました。
まとめ
児童買春・援助交際で逮捕された場合、不安や疑問が募ることと思います。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すためには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
弁護士は、事件の内容に応じた最適な戦略を立て、捜査機関や裁判所に対して適切に働きかけます。経験豊富な弁護士であれば、起訴・不起訴の見通しについても具体的なアドバイスを受けることができ、被疑者に有利な結果を引き出す可能性が高まります。児童買春・援助交際でお困りの際には、ぜひ当事務所にご相談ください。