振り込め詐欺で逮捕された場合、犯罪の性質上、厳しい判決が予想されるため、不安に感じる方も多いでしょう。
詐欺事件の中でも、振り込め詐欺を含む特殊詐欺は、認知件数・被害額ともに高い水準で推移しており、深刻な社会問題になっています。
特殊詐欺は、不特定の者に対して、対面することなく、電話、はがき、FAX、メールなどを使って行う詐欺のことで、令和2年(2020年)1月1日からは、その手口が10種類に分類され、「①振り込め詐欺」、「②振り込め類似詐欺」、「③その他の特殊詐欺(①・②の類型に該当しない特殊詐欺のこと)」および「④キャッシュカード詐欺盗」に分類されています。
そこで以下では、振り込め詐欺、振り込め類似詐欺、キャッシュカード詐欺盗、詐欺罪の刑罰、よくある事例などについて説明します。
振り込め詐欺
振り込め詐欺とは、犯人側が送金手段として「口座振込み」を指定する事例(親族などを装って架空の話を信じ込ませて、金融機関の窓口やATMで振込みをさせる詐欺)が多いことから、効果的な注意喚起のために平成16年(2004年)に警察で使用し始めた名称です。現在では、以下の5種類を総称して「振り込め詐欺」と呼んでいます。
- オレオレ詐欺
- 預貯金詐欺
- 架空請求詐欺
- 還付金等詐欺
- 融資保証金詐欺
振り込め詐欺は、複数の役割に分かれて組織的に行われているとされています。
- かけ子:被害者に電話をかける
- 受け子:現金やキャッシュカードを受け取る
- 出し子:口座から現金を引き出す
- 指示役:受け子などに行動を指示する
さらに、詐欺に使われる話の筋書きや金銭の受け渡し方法も巧妙化・多様化しています。
- 交通事故の示談名目
- 金銭の借用名目
- 会社の資金横領名目
- 口座振込み
- 現金の直接手渡し
- キャッシュカードの直接手渡し
- 現金の送付
これらの手口では、詐取したお金が詐欺グループの統括担当者に渡るまでに多くの人物が関与し、組織内での役割と人間関係の分断化・複雑化が図られています。
以下、それぞれの内容について見てみましょう。
オレオレ詐欺
オレオレ詐欺とは、親族、警察官、弁護士などを装って電話をかけ、親族が起こした事件・事故などの示談金等さまざまな名目で現金が至急必要であるかのように信じ込ませ、動転した被害者に対し、指定した預貯金口座に現金を振り込ませたり、被害者と接触して現金、キャッシュカードなどを手渡させるなどしてだまし取るものをいいます。
預貯金詐欺
預貯金詐欺とは、警察官や銀行協会職員などになりすまして電話をかけ、「あなたの口座が犯罪に利用されているため、キャッシュカードの交換手続きが必要です」などと偽り、被害者を信じ込ませる詐欺です。
また、市区町村の職員を装って「医療費などの過払い金があります。キャッシュカードが古いため、カードを引き取りに行きます」と嘘をつき、信じ込ませるケースもあります。
その後、銀行協会職員などになりすました受取役の人物が被害者宅を訪問し、暗証番号を聞き出してキャッシュカードをだまし取ります。
なお、預貯金詐欺は、もともとオレオレ詐欺に含まれる手口とされていましたが、令和2年(2020年)1月1日からは新たな手口として、振り込め詐欺に分類されるようになりました。
架空請求詐欺
架空請求詐欺とは、郵便、携帯電話、スマートフォン、パソコンなどを利用して、不特定多数の人に対し「未払いの料金がある」などと架空の事実を口実に料金を請求する詐欺です。
犯人は、こうした虚偽の請求内容を記載した文書やメッセージを送りつけ、被害者に指定した預貯金口座へ現金を振り込ませることで、金銭をだまし取ります。
還付金等詐欺
還付金等詐欺とは、税務署、社会保険庁、市区町村などの職員を名乗り、税金の還付等に必要な手続きを装って被害者にATMを操作させ、口座間送金により現金を振り込ませてだまし取るものをいいます。
融資保証金詐欺
融資保証金詐欺とは、実際には融資しないにもかかわらず、融資を申し込んできた者に対し、融資を受けるための保証金の名目で、指定した預貯金口座に現金を振り込ませてだまし取るものをいいます。
振り込め類似詐欺
振り込め類似詐欺とは、主に電話を使って対面することなく不特定多数の人をだまし、架空または他人名義の口座に現金を振り込ませるなどの方法で金銭をだまし取る詐欺です。
これは振り込め詐欺以外の手口を指し、一般的に以下の3種類に分類されます。
- 金融商品詐欺
- ギャンブル詐欺
- 交際あっせん詐欺
以下、それぞれの内容について見てみましょう。
金融商品詐欺
金融商品詐欺とは、以下のような商品や権利について虚偽の情報を提供し、購入代金の名目で現金を振り込ませてだまし取る詐欺のことをいいます。
以下のような商品や権利が対象となります。
- 架空または価値の乏しい未公開株
- 社債等の有価証券
- 老人ホーム等の施設入居権
- 外国通貨
- 美術品
- 貴金属
- リゾート会員権
虚偽の情報は、以下のような手段で提供されます。
- 電話
- パンフレット
- ダイレクトメール
虚偽情報を伝えた後、関係者を名乗って電話をかけ、次のような言葉で信用させます。
- 「〇〇株は将来必ず価値が上がる」
- 「貴重な品物でなかなか手に入らない」
- 「案内が届いた人にだけ購入権がある」
これらの発言により、対象者に投資や商品を購入すれば利益が得られると信じ込ませ、金融商品の購入代金の名目で、現金を預金口座等に振り込ませる方法でだまし取ります。
ギャンブル詐欺
ギャンブル詐欺とは、特定の情報を用いて高額な配当金や当選金が得られると信じ込ませ、その対価として金銭を振り込ませる手口の詐欺をいいます。
以下のような手段で虚偽の情報が広く拡散されます。
- 不特定多数の者が購入する雑誌に以下のような内容を掲載
- 「パチンコ打ち子募集」
- 「パチンコ・パチスロ必勝法」
- 「公営ギャンブル必勝法」
- 「数字選択式宝くじ(ロト6など)の当選番号」
- 「宝くじの当選番号」
- 同様の内容のメールを不特定多数に送付
これらの情報を見た受信者や読者に、提供される情報によって配当金や当選金が得られると誤認させ、情報に応じて会員登録などを申し込んできた者に対し、次のような名目で金銭を要求します。
- 会員登録料
- 情報料 など
これらの名目で、現金を預金口座等に振り込ませる方法により、金銭をだまし取るものです。
交際あっせん詐欺
交際あっせん詐欺とは、異性の紹介を名目として金銭をだまし取る手口の詐欺をいいます。
この詐欺では、「会員登録をすれば、素敵な女性(男性)を紹介します。登録料を振り込んでください」といった内容を、不特定多数の者が購入する雑誌に掲載したり、同様の内容のメールを不特定多数に送信したりして勧誘が行われます。
紹介を希望した者に対しては、金銭の支払いを求める対応がとられます。
- 会員登録料金の請求
- 紹介された女性(男性)を保留しておくための保証金の請求
要求に応じた者には、現金を預金口座等に振り込ませる方法で金銭をだまし取ります。
キャッシュカード詐欺盗
キャッシュカード詐欺盗とは、警察官、銀行協会職員、大手百貨店等の職員を装って被害者に電話をかけ、「キャッシュカードが不正に利用されているため、利用できないようにする必要がある」などと嘘をつき、キャッシュカードを準備させ、キャッシュカードを封筒に入れるなどした後、印鑑を準備させるなどの隙を見て封筒をすり替え、キャッシュカードを盗み取るものをいいます。
キャッシュカード詐欺盗といわれるものは、窃盗にあたる犯罪ですが、その手口から特殊詐欺と同一視できるため、特殊詐欺に分類されている窃盗の手口です。
詐欺罪の刑罰
詐欺罪の刑罰は、以下の罪名に対応するとおりです。
なお、刑罰に記載されている懲役は、令和7年(2025年)6月1日(改正刑法施行日)から「拘禁刑」に表記が変更されます。
罪名 | 刑罰 |
詐欺罪 | 10年以下の懲役(拘禁刑) |
よくある事例
振り込め詐欺でよくある事例は、以下のとおりです。
オレオレ詐欺のケース
オレオレ詐欺は、息子や孫などになりすました者が、ターゲットとする家族に電話をかけ、金銭をだまし取る手口です。
電話では、被害者の不安をあおる複数の口実が使われます。
- 「交通事故を起こし示談金が必要だ」
- 「借金を返済しなければ裁判を起こされる」
- 「会社の金を使い込んだ。弁償すれば警察沙汰にならない」
- 「置き忘れたカバンに支払いに必要な小切手が入っていた」
- 「異性と別れるには手切れ金がいる」
こうした内容を訴え、お金が至急必要であると信じ込ませた上で、以下の方法で金銭を詐取します。
- 指定した預貯金口座に現金を振り込ませる
- 「自分は金策に奔走していて行けない。代わりの者を向かわせるので、用意できたお金を渡してほしい」などと偽り、被害者が用意した現金を受け取りにきた者に渡させてだまし取る
預貯金詐欺のケース
預貯金詐欺は、警察官、銀行協会職員などを装って「かけ子」(電話役の犯人)が電話をかけて被害者をだまし、「受け子」(受取役の犯人)が被害者宅を訪ねてキャッシュカードを受け取り、受け子がそのまま銀行等のATMから現金を引き出したり、「出し子」(別の引出し役の犯人)にキャッシュカードを渡し、現金を引き出させたりする手口のものです。
架空請求詐欺のケース
架空請求詐欺は、架空の料金請求によって被害者の不安をあおり、金銭をだまし取る手口です。
まず、虚偽の請求内容を記載した文書やメールが送られます。
- 「インターネットサイトの利用料金が未納」
- 「有料サイトに登録され、接続料金が発生している」
- 「サイトの無料期間が経過しても退会手続きがとられていないので料金が発生した」
これらの文言でメール等の連絡先に電話するよう仕向け、電話をかけてきた相手に対して不安をあおる発言を行います。
- 「本日中に支払えば間に合う」
- 「払わなければ裁判になる」
- 「延滞料金は毎日加算される」
その結果、以下のような手段で金銭をだまし取ります。
- 指定した口座に現金を振り込ませる
- 指定する通販サイトのギフトカードを購入させて支払わせる
また、パソコンなどでインターネットサイトを閲覧中に「ウイルスに感染しました」などと表示させ、ウイルス対策のサポート費用を口実として金銭をだまし取る手口もあります。
還付金等詐欺のケース
還付金等詐欺は、税務署、社会保険庁、市区町村などの職員を名乗る者が、税金、年金、医療費などの還付金があるなどと嘘をつき、還付に必要な手続きを装って被害者にキャッシュカードや預貯金通帳、携帯電話を持って近くのATMに行くように指示し、ATMにおいて、言葉巧みにATMの操作手順を指示して被害者の口座から犯人の口座に現金を振り込ませる手口です。
融資保証金詐欺のケース
融資保証金詐欺は、資金繰りに窮した個人や中小企業者に対して、ダイレクトメール、FAX、電子メール、雑誌広告、チラシなどで、「誰でも融資」「簡単審査」「担保不要」「低金利」などとうたって融資を申し込ませた上で、申し込んできた者に対し、融資をするためには「保証金が必要」などと嘘をつき、指定した預貯金口座に現金を振り込ませる手口のものです。
まとめ
振り込め詐欺で逮捕された場合、不安や疑問が募ることと思います。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すには、できるだけ早期に弁護士へ相談することが重要です。
振り込め詐欺は、5つに分類されるように、犯行の内容にそれぞれ違いがあり、関与の度合いや共犯者間の役割分担によっては、個々人の罪責に影響する場合も出てきます。
弁護士は、事件の内容に応じた最適な戦略を立て、捜査機関や裁判所に対して適切に働きかけます。経験豊富な弁護士であれば、起訴・不起訴の見通しについても具体的なアドバイスを受けることができ、被疑者にとって有利な結果を導き出す可能性が高まります。振り込め詐欺でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。