暴行罪・喧嘩で逮捕された場合、このまま身柄拘束が続くのか、起訴・不起訴の処分はどうなるのかと不安に感じる方も多いでしょう。
暴行や喧嘩くらいでと軽く考えてはいないでしょうか。暴行や喧嘩であっても、それに至る経緯には事情がありますし、態様もさまざまです。
以下では、暴行罪とは、喧嘩とは、暴行罪の身柄状況、暴行罪の終局処理状況、よくある事例などについて説明します。
暴行罪とは
暴行罪の成立
暴行罪は、人に暴行を加えることで成立します(刑法208条)。暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処せられます。
暴行の意義
暴行罪における「暴行」とは、人の身体に対する有形力の行使を指します。殴る、蹴る、突く、押す、投げ飛ばすといった、身体への接触を伴う物理的な力の行使が典型例です。
また、暴行には、こうした物理的接触に限らず、音響・光・電気・熱などのエネルギーを人に作用させる行為も含まれます。
さらに、暴行は人の身体に向けられていれば足り、必ずしも直接接触している必要はありません。ただし、相手の五感に直接または間接的に作用し、不快や苦痛を与える性質のものであることが必要とされています。
裁判例では、以下のような行為が暴行に該当すると判断されています。
- 被害者の目前で包丁を胸や首のあたりに突きつける行為
- 狭い部屋の中で抜き身の日本刀を振り回す行為
- 通行人の数歩手前を狙って石を投げる行為
- 拳大の瓦の破片を投げつけたり、鍬を振り上げて追いかけたりする行為
- 被害者の周囲で大太鼓や鉦を強く連打し、空気の振動を通じて身体に影響を与える行為
このように、暴行罪における「暴行」は、身体的接触に限らず、感覚的な作用を通じて不快や苦痛を引き起こす行為も含まれます。
喧嘩とは
喧嘩は、一般的に殴り合いを意味し、それ自体が社会的相当性を欠く行為といえます。そして、昔から「喧嘩両成敗」などといわれているように、喧嘩は本来的に正当防衛の概念になじみにくい性質を持っています。
喧嘩と正当防衛の関係を考える前に、まず正当防衛の基本的な考え方を確認しておきましょう。
刑法36条1項は、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」と定めています。つまり、自己または他人の法益に対する違法な侵害が現に存在するか、あるいは間近に迫っている緊急の状況下で、その法益を守るためにやむを得ず反撃した行為は、正当防衛として認められるということです。
このような場合、たとえ行為が犯罪の構成要件に該当し、実行行為性があったとしても、刑法36条1項の要件を満たしていれば違法性が阻却され、犯罪の成立は否定されます。
ところで、判例では、喧嘩における正当防衛の成否を判断する際には、事態を全体的に見て判断する必要があり、喧嘩中の一部の攻防だけを切り取って評価してはならないとされています。
つまり、部分的には防衛行為のように見える場合でも、全体として見ると攻撃行為の一部に過ぎないことが少なくありません。正当防衛が成立するためには、相手からの「急迫不正の侵害」があること、すなわち侵害の急迫性が必要です。しかし、喧嘩の多くはこの急迫性を欠いており、正当防衛は基本的に否定されると考えられます(なお、例外的に正当防衛が認められる場合があることについては、後述します)。
暴行罪の身柄状況
令和6年版犯罪白書(令和5年の統計)によれば、令和5年(2023年)の検察庁既済事件の暴行罪の身柄状況は、下記表のとおりです。
逮捕関係 | 勾留関係 | |||||||
総数(A) | 逮捕されない者(%) | 警察等で逮捕後釈放(%) | 警察等で逮捕・身 柄付送致(B)(%) | 検察庁で逮捕(C) | 身柄率(%) | 認容(D) | 却下(E) | 勾留請求率(%) |
17,263 | 10,352(60.0%) | 1,277(7.4%) | 5,627(32.6%) | 7 | 32.6 | 4,231 | 441 | 82.9 |
逮捕関係 | 総数(A) | 17,263 |
逮捕されない者(%) | 10,352(60.0%) | |
警察等で逮捕後釈放(%) | 1,277(7.4%) | |
警察等で逮捕・身 柄付送致(B)(%) | 5,627(32.6%) | |
検察庁で逮捕(C) | 7 | |
身柄率(%) | 32.6 | |
勾留関係 | 認容(D) | 4,231 |
却下(E) | 441 | |
勾留請求率(%) | 82.9 |
身柄率は(B+C)÷Aで、勾留請求率は(D+E)÷(B+C)でそれぞれ求めます。
上記の数字から、逮捕率は40.0%(6,911人)で、逮捕後に釈放された者もおり、総数(17,263人)のうち、身柄率は32.6%(5,634人)、勾留率は24.5%(4,231人)にすぎないこと、逮捕・身柄付送致された者および検察庁で逮捕された者のうち、勾留請求された者は82.9%(勾留請求率)であること、勾留請求された者のうち、勾留認容は91%、勾留却下は9%であること、逮捕された者のうち32.4%(2,239人)は勾留請求もされずに釈放されていること、逮捕されない者は60.0%(10,352人)に上っていることが分かります。
以上によれば、暴行罪は傷害に至らないため、逮捕されない者が6割を占め、また、いったん逮捕されても、逮捕に引き続き勾留までされる者は6割程度(実際には61%)にとどまります。
したがって、暴行罪を犯したとしても、多くの者は、社会生活を送りながら、検察官の処分や裁判所の判断(判決や罰金)を待つことになるでしょう。
暴行罪の終局処理状況
令和6年版犯罪白書(令和5年の統計)によれば、令和5年(2023年)の暴行罪の検察庁終局処理人員は、下記表のとおりです。
総数 | 起訴(起訴率) | 公判請求(起訴で占める率) | 略式請求(起訴で占める率) | 不起訴(不起訴率) | 起訴猶予(不起訴で占める率) | その他(不起訴で占める率) |
16,241 | 4,492(27.7%) | 653(14.5%) | 3,839(85.5%) | 11,749(72.3%) | 10,296(87.6%) | 1,453(12.4%) |
総数 | 16,241 |
起訴(起訴率) | 4,492(27.7%) |
公判請求(起訴で占める率) | 653(14.5%) |
略式請求(起訴で占める率) | 3,839(85.5%) |
不起訴(不起訴率) | 11,749(72.3%) |
起訴猶予(不起訴で占める率) | 10,296(87.6%) |
その他(不起訴で占める率) | 1,453(12.4%) |
起訴率は、「起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100の計算式で得た百分比、不起訴率は、「不起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100の計算式で得た百分比のことです。
上記の数字から、不起訴率が72.3%と高く、その中でも起訴猶予の占める割合が大変高いことが分かります。また、起訴も、略式請求が85.5%(通常はそのまま罰金刑となる)を占めており、公判請求されるのは、犯行を否認している場合、前科がある場合、犯行態様が悪質である場合など、例外的な場合と考えられます。
よくある事例
暴行罪や喧嘩でよく見られる事例は、以下のとおりです。
暴行罪で逮捕されないケース
上述したように、暴行罪で逮捕されない者は全体の6割に上っています。
逮捕されないのは、法律上、「明らかに逮捕の必要がないと判断される場合」です(刑訴法199条2項ただし書)。また、刑訴規則143条の3では、被疑者に逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがない場合が、この「明らかに逮捕の必要がない場合」に該当するとされています。
では、暴行罪で逮捕されないのは、具体的にどのようなケースがあるのでしょうか。
一般的な事例を参考にすると、次のような事情がいくつか認められる場合には、逮捕されない可能性があるといえます。
- 被疑者が犯行を認めている
- 犯行態様が悪質でない
- 被疑者に特段の前科がない
- 被疑者が定職に就いている
- 被害者と示談が成立している、またはその見込みが確実である
- 被害届が提出されていない、または取り下げられている
- 被疑者が自首している
- 被害者に処罰を求める意思がない、または処罰感情が緩和している
- 被疑者の犯行を裏付ける証拠がない、または不十分である
これらの事情のうち、複数が当てはまる場合には、逮捕されずに在宅のまま捜査を受ける可能性が高くなります。
暴行罪で起訴猶予となるケース
上述したように、暴行罪における不起訴率は72.3%、不起訴で占める起訴猶予の割合が87.6%であり、暴行罪全体の総数で占める起訴猶予の割合も63.4%に及んでいます。
暴行罪では、「起訴猶予」による不起訴処分で終わる可能性が高いといえます。
「起訴猶予」とは、検察官が、犯罪の嫌疑がある場合において、被疑者の性格、年齢および境遇、犯罪の軽重および情状、ならびに犯罪後の情況により、訴追を必要としないと判断された場合に行われる処分です。
暴行罪の場合、多くは被害者に怪我を負わせておらず、暴行にとどまっています。そのため、検察官は個々の被疑者について事情を考慮し、「起訴猶予」とする割合が高くなっていると考えられます。
特に、次のような事情が認められることが多く、被疑者を早期に社会復帰させ、社会的な不利益を最小限に抑える必要があると判断されやすくなります。
- 被疑者が犯行を認めて反省している
- 犯行態様が悪質でない
- 被疑者に特段の前科がない
- 被害者と示談が成立している
- 被害者の処罰感情が緩和している
このような事情を総合的に判断して、検察官が訴追の必要性は低いと考える場合、「起訴猶予」の処分が選択されます。
喧嘩について正当防衛が成立するケース
刑法36条1項は、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」と定めています。正当防衛の内容、および喧嘩は本来的に正当防衛になじみにくい性質を有していることについては、上述したとおりです。
しかし、喧嘩であっても、例外的に正当防衛が成立する場合があると考えられます。
たとえば、当初はお互いに素手で殴り合っていたのに、突然相手がナイフを持ち出して攻撃してきた場合、喧嘩の途中から行為者が喧嘩の意思を放棄して攻撃を中止しているにもかかわらず、相手がなおも一方的に攻撃を続けた場合は、急迫性が認められ、これに対する反撃には正当防衛が成立する可能性があります。
まとめ
暴行罪・喧嘩で逮捕された場合、不安や疑問が募ることと思います。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
暴行罪・喧嘩の中には、被害者との示談が、被疑者の処分結果に影響を与える場合もあります。そして、被害者との折衝、示談交渉などは、法律のプロである弁護士に委ねるのが望ましいのです。
弁護士は、事件の内容に応じた最適な戦略を立て、捜査機関や裁判所に対して適切に働きかけます。経験豊富な弁護士であれば、起訴・不起訴の見通しについても、具体的なアドバイスを受けることができ、被疑者に有利な結果を導く可能性が高まります。暴行罪・喧嘩でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。