傷害罪・傷害事件で逮捕されたら

傷害罪・傷害事件で逮捕されたら

傷害罪・傷害事件で逮捕された場合、このまま身柄拘束が続くのか、起訴・不起訴の処分がどうなるのか、不安に感じる方も多いでしょう。

傷害罪・傷害事件であっても、それに至る経緯には事情がありますし、犯行態様にもさまざまなものがあります。

以下では、傷害罪とは、傷害罪の身柄状況、傷害罪の終局処理人員、裁判所における傷害罪の科刑状況、検察官の処分や裁判所の裁判結果に影響すると考えられる事項などについて説明します。

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目次

傷害罪とは

以下で、傷害罪の成立、傷害の意義、傷害行為の態様、故意について見てみましょう。

傷害罪の成立

傷害罪は、人の身体を傷害することによって成立します(刑法204条)。人の身体を傷害した者は、15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処せられます。

なお、傷害事件とは、加害者が暴行にあたる行為をして「人の身体を傷害した」事件のことをいい、犯罪としての罪名は傷害罪になります。したがって、以下では傷害罪と傷害事件は同義として扱っています。

傷害の意義

傷害の意義については、実務上、以下の3つの見解があります。

傷害の意義
  1. 生理機能障害説:人の生理的機能に障害を与えることを「傷害」とする見解
  2. 完全性侵害説:人の身体の完全性を害することを「傷害」とする見解
  3. 折衷説:他人の生理的機能に障害を与えること、および身体の外観に重大な変化を与えることの両方を含める見解

判例は、基本的には生理機能障害説に立っています。たとえば、以下のような状態が「傷害」に該当するとされています。

判例上、傷害に該当するとされた具体例
  • 皮膚の表皮剥奪
  • 中毒症状、めまい、嘔吐
  • 病毒の感染
  • 歯根の炎症
  • 陰毛の毛根からの脱取
  • 皮下結締織炎
  • 胸部の疼痛(外見に打撲痕なし)
  • 腰部の圧縮
  • 失神
  • 処女膜の裂傷

傷害行為の態様

傷害を生じさせる方法は、通常は暴行、すなわち人の身体に対する有形力の行使によるのが一般的です。しかし、無形の方法や、不作為によって傷害が成立すると判断されたケースも存在します。

たとえば、判例では以下のような事例が「傷害」に該当するとされています。

無形的方法による傷害の具体例
  • 性病に罹患している者が姦淫行為によって性病を感染させたケース
  • 無言電話などによって人を極度に恐怖させ、精神衰弱症に陥らせたケース
  • 赤痢菌やチフス菌を食品に混入し摂取させ、病気を発症させたケース
  • 治療と称して赤痢やチフス菌を注射または経口投与し、発症させたケース
  • 自宅から隣家に向けて連日ラジオや目覚まし時計の音を鳴らし続け、被害者に精神的ストレスを与えて慢性頭痛症や睡眠障害を負わせたケース

また、医師等が故意に病人に医薬を与えないで病状を悪化させることは、不作為による傷害にあたります。

故意

暴行による傷害については、暴行の故意だけで足りるのか、それとも傷害の故意を必要とするかについては、見解が分かれています。

判例通説は、傷害罪は故意犯であるとともに、暴行の結果的加重犯を含むとしています。したがって、傷害の故意で傷害した場合のほか、暴行の故意で暴行を加えて傷害した場合も、傷害にあたることになります。

傷害罪の身柄状況

令和5年検察統計年報によれば、令和5年(2023年)の検察庁既済事件の傷害罪の身柄状況は、下記表のとおりです。

逮捕関係勾留関係
総数(A)逮捕されない者(%)警察等で逮捕後釈放(%)警察等で逮捕・身柄付送致(B)(%)検察庁で逮捕(C)身柄率(%)認容(D)却下(E)勾留請求率(%)
20,9059,951
(47.60%)
948
(4.53%)
9,996
(47.82%)
10
(0.05%)
47.98,76742691.9
逮捕関係総数(A)20,905
逮捕されない者(%)9,951(47.60%)
警察等で逮捕後釈放(%)948(4.53%)
警察等で逮捕・身柄付送致(B)(%)9,996(47.82%)
検察庁で逮捕(C)10(0.05%)
身柄率(%)47.9
勾留関係認容(D)8,767
却下(E)426
勾留請求率(%)91.9

身柄率は(B+C)÷Aで、勾留請求率は(D+E)÷(B+C)でそれぞれ求めます。

身柄状況の基礎となる傷害罪には、傷害致死および現場助勢の各罪を含みます。

上記の数字から、逮捕率は52.4%(10,954人)で、逮捕後釈放されている者もあって、総数(20,905人)のうち、身柄率は47.9%(10,006人)、勾留率は41.9%(8,767人)であること、逮捕・身柄付送致された者と検察庁で逮捕された者のうち、勾留請求された者は91.9%(勾留請求率)である(813人は釈放されている)こと、勾留請求された者のうち、勾留認容は95.4%、勾留却下は4.6%であること、逮捕されない者は全体の半分に近い47.60%(9,951人)であることが分かります。

以上によれば、傷害罪・傷害事件を犯したとしても、少なくとも、勾留されていない12,138人(58.1%)は、社会生活を送りながら、検察官の処分や裁判所の判断(判決や罰金)を待つことになるといえます。

傷害罪の終局処理人員

令和5年検察統計年報によれば、令和5年(2023年)の傷害罪の検察庁終局処理人員は、下記表のとおりです。

総数起訴(起訴率)公判請求(起訴で占める率)略式請求(起訴で占める率)不起訴(不起訴率)起訴猶予(不起訴で占める率)その他(不起訴で占める率)
18,4495,688(30.8%)1,985(34.9%)3,703(65.1%)12,761(69.2%)9,894(77.5%)2,867(22.5%)
総数18,449
起訴(起訴率)5,688(30.8%)
公判請求(起訴で占める率)1,985(34.9%)
略式請求(起訴で占める率)3,703(65.1%)
不起訴(不起訴率)12,761(69.2%)
起訴猶予(不起訴で占める率)9,894(77.5%)
その他(不起訴で占める率)2,867(22.5%)

起訴率は、「起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100の計算式で得た百分比、不起訴率は、「不起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100の計算式で得た百分比のことです。

終局処理人員の基礎となる傷害罪は、刑法204条の傷害罪のみを表します。

上記の数字から、不起訴率が69.2%と高く、その中でも起訴猶予の占める割合が比較的高いことが分かります。

また、起訴も、略式請求が65.1%(そのまま罰金刑になるのが通例)、公判請求が34.9%になっています。

裁判所における傷害罪の科刑状況

以下で、傷害罪の地方裁判所における科刑状況および第一審における罰金の科刑状況について、見ていきましょう。

なお、地方裁判所における科刑状況の基礎となる傷害罪は、刑法第2編第27章の「傷害の罪」のうち、傷害致死罪を除いた各罪をいい、平成25年法律86号による改正前の刑法208条の2に規定する罪を含むもの、通常第一審における罰金科刑状況の基礎となる傷害罪は、刑法第2編第27章の「傷害の罪」をいい、傷害致死罪および平成25年法律86号による改正前の刑法208条の2に規定する罪を含まないものをいいます。

地方裁判所における傷害罪の科刑状況

令和6年版犯罪白書(令和5年の統計)の「2-3-3-3表 通常第一審における有期刑(懲役・禁錮)科刑状況(資料2-3 地方裁判所における死刑・懲役・禁錮の科刑状況(罪名別)と同じ数字のもの。この各欄の数字から、2-3-3-6表の傷害致死罪の該当数字を差し引いたもの)」によれば、地方裁判所における傷害罪の科刑状況は、下記表のとおりです。

総数5年を超え7年以下3年を超え5年以下2年以上3年以下1年以上2年未満6か月以上1年未満6か月未満
1,743652実刑(うち一部執行猶予)全部執行猶予実刑(うち一部執行猶予)全部執行猶予実刑(うち一部執行猶予)全部執行猶予実刑(うち一部執行猶予)全部執行猶予
115(1)373261(1)590149(0)17318(0)6
総数1,743
5年を超え7年以下6
3年を超え5年以下52
2年以上3年以下実刑(うち一部執行猶予)115(1)
全部執行猶予373
1年以上2年未満実刑(うち一部執行猶予)261(1)
全部執行猶予590
6か月以上1年未満実刑(うち一部執行猶予)149(0)
全部執行猶予173
6か月未満実刑(うち一部執行猶予)18(0)
全部執行猶予6

一部執行猶予とは、実刑部分と猶予部分をあわせた刑期によって構成されるものです。

上記の数字から、実刑率は34.5%(601人)、全部執行猶予率は65.5%(1,142人)になっています。

通常第一審における傷害罪の罰金の科刑状況

令和6年版犯罪白書(令和5年の統計)の「2-3-3-4表 第一審における罰金・科料科刑状況(罪名別)」によれば、通常第一審における傷害罪の罰金の科刑状況は、下記表のとおりです。

総数100万円未満50万円未満30万円未満20万円未満10万円未満5万円未満
39013118134111122
総数390
100万円未満13
50万円未満118
30万円未満134
20万円未満111
10万円未満12
5万円未満2

なお、略式手続から移行した事案も含まれます。

上記の数字から、10万円以上50万円未満の者が、93.1%を占めていて、10万円以上20万円未満の者、20万円以上30万円未満の者、30万円以上50万円未満の者の間では、その人数にそれほど差がないことが分かります。

検察官の処分や裁判所の裁判結果に影響すると考えられる事項

傷害罪・傷害事件で検察官の処分や裁判所の裁判結果に影響すると考えられる事項は、以下のとおりです。

傷害罪・傷害事件における示談の成立

傷害罪・傷害事件を起こした場合、身柄拘束からの解放や不起訴となるためには、被害者との示談の成立が重要な要素となります。

この場合の示談とは、事件の加害者と被害者との間で、怪我の治療費や慰謝料等の損害賠償の問題について、双方の話し合いにより解決することをいいます。

示談が成立すれば、検察官は、不起訴処分(起訴猶予)とする可能性も高くなりますし、仮に起訴する場合でも、公判請求ではなく略式請求にとどめることも考えられます。

また、早期に示談が成立すれば、逮捕されないで済むこともあり得ますし、仮に逮捕に至ったとしても、検察官においては、事件の早期解決が可能になり、被疑者を早期に釈放する可能性も高まります。

そして、示談が成立した場合には、その結果は、最終的な判決で有利な情状として考慮され、保釈の可否判断にも有利に働くといえるでしょう。

このように、傷害罪・傷害事件では、身柄拘束の有無にかかわらず、示談の成立が検察官の処分や裁判所の裁判結果に影響を及ぼす重要な要素になります。

しかし、傷害を受けた被害者が、必ずしも示談に応じてくれるとは限りません。そのため、示談交渉を円滑に進めるためには、刑事弁護や示談交渉に精通した弁護士に依頼することが重要です。弁護士であれば、被害者の心情に十分に配慮しながら、適切な金額や条件での示談成立に向けて尽力することができます。

傷害罪・傷害事件における示談金の内容

傷害罪・傷害事件の場合、示談金は「損害の賠償金」と「慰謝料」の金額で構成されます。

身体に対する犯罪では、実務上、民事交通事故の損害算定基準が参考にされることが多くあります。そのため、損害賠償の内訳は以下のように整理されます。

積極損害に含まれる費目
  • 治療費
  • 付添看護費
  • 入院雑費
  • 通院交通費
  • 弁護士費用(被害者に弁護士がついた場合)
消極損害に含まれる費目
  • 休業損害
  • 逸失利益
慰謝料の内訳
  • 傷害に対する慰謝料
  • 後遺障害に対する慰謝料

これらは、事件の具体的な内容に応じて金額が変動します。犯行に至った経緯や動機、目的、犯行の方法、犯罪結果の重大性、態様などは事案ごとに異なります。そのため、被害の大きさや深刻さ、将来への影響、被害者の感情の強さも、それぞれ慎重に考慮する必要があります。

また、実際の事件では、被害感情の強さ被疑者・被告人の支払能力が、示談金の額を左右する決定的な要素となることもあります。

慰謝料の算定においては、以下のような複数の要素が考慮されます。

慰謝料の算定に影響する主な要素
  • 犯行の態様(例:平手、手拳、膝蹴り、足蹴り、凶器の使用等)
    ※凶器の場合は、刃物の種類・刃体の長さ、その他の物の種類と使用回数
  • 攻撃された部位(例:頭部、顔面、胸腹部などの身体の枢要部か否か)
  • 傷害の結果(例:傷跡の残存、骨折の有無)
  • 被害者の年齢・性別
  • 入通院期間および治癒(症状固定)までの期間

なお、治療費は「必要かつ相当な実費の全額」が損害として認められます。付添看護費については、入通院中の付添いにかかる費用も含まれます。弁護士費用については、実務上ほぼ定額で扱われます。

傷害の慰謝料は、実務上、入通院日数によりほぼ定額化されています(自賠責基準では、原則として入通院1日あたり4,200円とされます)。

また、後遺障害による慰謝料も、実務では後遺障害等級により定額化されています。ただし、傷害罪・傷害事件は交通事故とは性質が異なるため、双方の落ち度や、被害者の挑発行為被疑者の負傷の程度なども加味して判断されます。

傷害罪・傷害事件における示談金の相場

なお、下記に示す金額は、複数の法律事務所がWeb上で公開している示談の実例をもとに、共通する傾向を最大公約数的に整理したものです。

これらの金額は、前述の損害賠償や慰謝料のうち、必要かつ相当とされる費用に応じて算定された金額を示しています。もちろん、各事案の事情に応じて、金額に増減が生じることもあります。

怪我の治癒期間別・示談金の相場
  • 全治1週間程度:おおよそ 10万円~30万円
  • 全治2週間程度:おおよそ 20万円~50万円
  • 全治1か月程度:おおよそ 50万円~100万円

これらの金額はあくまでも目安であり、被害の内容や当事者の対応、示談交渉の経緯などによって、実際の金額は変動します。

まとめ

傷害罪・傷害事件で逮捕された場合、不安や疑問が募ることと思います。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すには、できる限り早期に弁護士へ相談することが重要です。

傷害罪・傷害事件では、被害者との示談が、被疑者の処分や裁判結果に影響を与えます。そして、被害者との折衝、示談交渉などは、法律の専門家である弁護士に任せるのが望ましいといえます。

弁護士は、事件の内容に応じた最適な戦略を立て、捜査機関や裁判所に対して適切に働きかけます。経験豊富な弁護士であれば、起訴・不起訴の見通しについても具体的なアドバイスを受けることができ、被疑者にとって有利な結果を導く可能性が高まります。傷害罪・傷害事件でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

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