贈収賄で逮捕された場合、いつまで身柄拘束が続くのか、起訴・不起訴の処分はどうなるのかと不安に感じる方も多いでしょう。
被疑者の家族も、検察官の処分や裁判結果が少しでも有利になることを願い、刑事事件に精通した弁護士に依頼したいと考えることが多いでしょう。
そこで以下では、収賄罪の内容、贈賄罪の内容、贈収賄罪の身柄状況、贈収賄で逮捕された後はどうなるのか、贈収賄罪の終局処理状況、贈収賄罪における科刑状況、収賄で犯罪が成立する事例などについて説明します。
なお、以下の刑法における条文は、単に条文番号のみを掲げています。
収賄罪の内容
収賄罪の内容について、以下で順に解説します。
単純収賄罪
単純収賄罪(197条1項前段)は、公務員が、その職務に関して賄賂を収受・要求・約束したときに成立します(法定刑は5年以下の拘禁刑)。
単純収賄罪は収賄罪の基本型であり、賄賂とは公務員の職務行為に対する不正な報酬を指します。
一般的には、賄賂とは金銭などの財物を指しますが、それに限定されません。有形・無形を問わず、人の欲求や利益を満たすものであれば、広く賄賂に該当します。
- 債務の肩代わり
- 金銭の貸付
- 酒食の接待
- 就職のあっせん
- 試験の採点操作
- 異性関係の提供
- 性的サービス
このように、財物そのものだけでなく、利益・便宜・サービスなども賄賂と評価される可能性があります。
単純収賄罪では、主に次の2点が問題となります。
1つは、公務員に対して金品を渡したり、贈与を申し込んだり、贈与の約束をしたとしても、その金品が職務と関連していなければ収賄にはならないという点です。
- 金品その他の利益が、公務員の職務と関連していること
- その利益が、不正な職務行為の見返りとしての性質(対価性)を持つこと
つまり、金品などが具体的に職務上の不正な便宜と結びついていると評価できなければ、収賄罪は成立しません。
たとえば、町立(公立)病院の医師が、勤務時間外に入院中の受験を控えた子どもの勉強をみてくれたので、親がそのお礼をしたという場合には賄賂性はありません。
なお、「中元」「歳暮」など社交儀礼名目の贈り物であっても、公務員の職務行為への対価と評価できる場合は賄賂となります。
もう1つは、単純収賄罪では、公務員に対して特定の職務行為を依頼すること(請託)や、実際に不正な職務行為が行われることまでは要件とされていないという点です。
受託収賄罪
受託収賄罪(197条1項後段)は、公務員が、その職務に関して、請託を受けて賄賂を収受・要求・約束したときに成立します(法定刑は7年以下の拘禁刑)。
「請託」とは、公務員に対し職務に関する一定の行為を依頼することをいいます。この依頼は、不正な職務行為であっても、正当な職務行為であっても区別なく請託に該当します。
受託収賄罪が重く処罰されるのは、請託があることによって、具体的な職務行為との対価性が明確になり、国民の信頼を一層強く裏切ることになるからです。
事前収賄罪と事後収賄罪
単純収賄罪に時間的要素を加えて修正された類型として、事前収賄罪と事後収賄罪があります。以下で、それぞれの罪について見てみましょう。
事前収賄罪
事前収賄罪(197条2項)は、公務員になろうとする者が、将来担当することになる職務に関して、請託を受けて賄賂を収受・要求・約束し、実際に公務員の職に就いたときに成立します(法定刑は5年以下の拘禁刑)。
請託により将来の職務との対価性が認められるため、公務員就任前の賄賂の収受等は、その後に公務員となった場合に限って処罰されます。
事後収賄罪
事後収賄罪(197条の3第3項)は、公務員であった者が、その在職中に請託を受けて、職務上不正な行為をしたこと、または相当の行為をしなかったことに関し、退職してから賄賂を収受・要求・約束したときに成立します(法定刑は5年以下の拘禁刑)。
在職中に「請託を受けたこと」と「職務違反行為をしたこと」が要件です。
第三者供賄罪
第三者供賄罪(197条の2)は、公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与・供与の要求・供与の約束をしたときに成立します(法定刑は5年以下の拘禁刑)。
不正を行った公務員みずからが、賄賂を受け取るのが普通ですが、賄賂の動きに着目して、第三者を介して間接的に賄賂を受け取る場合を処罰するのが第三者供賄罪です。
第三者供賄罪は、公務員が第三者を介して賄賂を受け取る脱法行為を取り締まるために設けられたものと理解されています。
加重収賄罪
加重収賄罪には、公務員が、収賄後に、不正な行為をし、または相当の行為をしなかったときに成立するもの(197条の3第1項)と、公務員が、職務上不正な行為をしたことまたは相当の行為をしなかった後に、収賄をしたときに成立するもの(197条の3第2項)があります。
加重収賄罪が重く処罰されるのは、公務員が賄賂を受け取るだけでなく、さらに不正行為や不作為によって公務の公正に対する国民の信頼を決定的に損なうためです。
加重収賄罪は、上述したように、賄賂の収受等の時点によって2つの場合に分かれます。具体的に見てみましょう。
第1は、公務員が、単純収賄罪、受託収賄罪、事前収賄罪、第三者供賄罪を犯して、不正な行為をし、または相当の行為をしなかったときに成立します(197条の3第1項。法定刑は1年以上の有期拘禁刑)。
第2は、公務員が、その職務上不正な行為をしたことまたは相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受・要求・約束し、または第三者に賄賂を供与・供与の要求・供与の約束をしたときに成立します(197条の3第2項。法定刑は1年以上の有期拘禁刑)。
あっせん収賄罪
あっせん収賄罪(197条の4)は、公務員が請託を受け、職務に関して他の公務員に不正行為をするよう、または不正行為をしないように働きかけ、その報酬として賄賂を受け取る場合に成立する罪です(法定刑は5年以下の拘禁刑)。
あっせん収賄罪は、あっせん行為より前に賄賂を受け取った場合だけでなく、あっせん行為の後に賄賂を受け取った場合にも成立します。
贈賄罪の内容
贈賄罪の内容について見てみましょう。
贈賄罪(198条)は、前述の197条から197条の4に規定される収賄罪に該当する賄賂について、供与・申込み・約束をした場合に成立します。(法定刑は3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金)。
贈賄罪は、これらの贈賄行為の法定刑が一律とされ、収賄罪より軽く処罰するという構成になっています。
贈収賄罪の身柄状況
2024年検察統計年報によれば、令和6年の検察庁既済事件の身柄状況(収賄・贈賄罪)は下記表のとおりです(同年報「41 罪名別・既済となった事件の被疑者の逮捕および逮捕後の措置別人員」参照)。
| 罪名 | 逮捕関係 | 勾留関係 | |||||||
| 総数(A) | 逮捕されない者 | 警察等で逮捕後釈放 | 警察等で逮捕・身 柄付送致(B) | 検察庁で逮捕(C) | 身柄率(%) | 認容(D) | 却下(E) | 勾留請求率(%) | |
| 収賄 | 91 | 70 | – | 21 | – | 23.1 | 21 | – | 100 |
| 贈賄 | 45 | 16 | – | 29 | – | 64.4 | 29 | – | 100 |
身柄率は(B+C)÷Aで、勾留請求率は(D+E)÷(B+C)でそれぞれ求めます。
上記の数字から、身柄率が収賄罪で低く、贈賄罪で高いこと、勾留請求率・勾留認容率がいずれの罪も100%であることが分かります。
贈収賄で逮捕された後はどうなるのか
上述した「贈収賄罪の身柄状況」によれば、贈収賄罪で逮捕された場合、勾留請求率・勾留認容率は100%になっています。
したがって、逮捕された贈収賄罪の被疑者は、引き続き勾留されていることになります。
勾留期間は原則10日間ですが、贈収賄事件では例外的に延長が認められることが少なくありません。
贈収賄は秘密裏に行われることが多く、関係者の供述を中心に捜査が進むため、事件解明には時間を要することがあります。
そのため、以下のような事情がある場合には勾留延長が認められやすくなります。
- 事件が複雑で、捜査が困難な場合
- 証拠収集が遅れ、10日以内に起訴・不起訴の判断ができない場合
- 捜査を尽くしても必要な証拠が揃わない場合
- 延長しなければ捜査に重大な支障が生じると認められる場合
これらの事情が認められれば、検察官が勾留延長を請求し、裁判官が相当と判断したときに、さらに最大10日間の延長が認められるのが実務上の傾向です。
贈収賄罪の終局処理状況
2024年検察統計年報によれば、令和6年の贈収賄罪の検察庁終局処理人員は下記表のとおりです(同年報「8 罪名別・被疑事件の既済および未済の人員」参照)。
| 罪名 | 総数 | 起訴(起訴率) | 公判請求(起訴で占める率) | 略式命令請求(起訴で占める率) | 不起訴(不起訴率) | 起訴(不起訴で占める率) | その他猶予(不起訴で占める率) |
| 収賄 | 91 | 27(29.7%) | 27(100%) | – | 64(70.3%) | 4(6.3%) | 60(93.7%) |
| 単純収賄 | 21 | 17(81.0%) | 17 | – | 4(19.0%) | 3(75%) | 1(25%) |
| 受託収賄 | 1 | 1(100%) | 1 | – | – | – | – |
| 加重収賄 | 68 | 8(11.8%) | 8 | – | 60(88.2%) | 1(1.7%) | 59(98.3%) |
| あっせん収賄 | 1 | 1(100%) | 1 | – | – | – | – |
| 贈賄 | 45 | 30(66.7%) | 29(96.7%) | 1(3.3%) | 15(33.3%) | 8(53.3%) | 7(46.7%) |
起訴率は、「起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100の計算式で得た百分比、不起訴率は、「不起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100の計算式で得た百分比のことです。
上記の数字から、贈収賄罪では、収賄罪の方が贈賄罪よりも、起訴率が低く、不起訴率が高いといえます。
贈収賄罪における科刑状況
贈収賄罪については、最近の科刑状況に関する資料がないため、平成20年版犯罪白書(平成15年~19年の統計)の科刑状況の資料を示します。
同犯罪白書によれば、贈収賄の通常第一審における懲役刑の科刑状況は、下記表のとおりです(同白書「1-1-2-8表贈収賄の通常第一審における懲役刑の科刑状況」参照)。
| 年次(平成) | 懲役刑期 | うち執行猶予 | 執行猶予率(%) | |||
| 総数 | 1年以上 | 6か月以上 | 6か月未満 | |||
| 15 | 139 | 117 | 22 | – | 124 | 89.2 |
| 16 | 121 | 109 | 12 | – | 113 | 93.4 |
| 17 | 124 | 110 | 14 | – | 108 | 87.1 |
| 18 | 123 | 105 | 18 | – | 113 | 91.9 |
| 19 | 96 | 85 | 11 | – | 84 | 87.5 |
上記の数字によれば、贈収賄罪で起訴された場合、実刑率が10%前後、執行猶予率が90%前後であり、これらの率は令和の最近でも、大差はないものと思われます。
収賄で犯罪が成立する事例
収賄で犯罪が成立する事例は、以下のとおりです。
受託収賄罪のケース
国立大学の教授が、学生から試験の採点に手心を加えてもらいたい旨の依頼を受けてこれを承諾し、さらに学生から現金を受け取った場合には、受託収賄罪が成立します。
加重収賄罪のケース
国立大学の教授が学生から「試験の採点を甘くしてほしい」と依頼を受けてこれを承諾し、学生から現金を受け取ったうえで、不合格答案に合格点をつけた場合は加重収賄罪に該当します(刑法197条の3第1項)。
また、教授が成績の悪かった学生に合格点をつけ、その後になって「卒業できたのは私のおかげだ」と学生の親に現金を要求した場合も同様に加重収賄罪が成立します(刑法197条の3第2項)。
あっせん収賄罪のケース
警察官Xが、違法な風俗営業を行うAから「摘発を見逃してほしい」と依頼を受けて承諾し、管轄外の警察署に勤務する元部下の警察官Yに対し、Aの店の摘発を見逃すようあっせんしたうえ、その報酬としてAから現金を受け取った場合には、あっせん収賄罪が成立します。
まとめ
贈収賄事件で被疑者や被告人に有利な結果を得るためには、早い段階で弁護士に相談することが重要です。
刑事事件に精通した弁護士であれば、事件内容に応じた最適な戦略を立て、今後の見通しについても具体的な助言を行うことができます。そのため、被疑者や被告人にとって有利な結果を導ける可能性が高まります。
贈収賄罪に関することでお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

