パワハラ(パワーハラスメントの略称)やセクハラ(セクシュアルハラスメントの略称)で逮捕された場合、身柄拘束がどのくらい続くのか、起訴・不起訴の処分はどうなるのかなど、不安に感じる方も多いでしょう。
被疑者の家族も、検察官の処分や裁判結果が少しでも有利になることを願い、刑事事件に精通した弁護士を頼りたいと考えることが少なくありません。
以下では、パワハラとは、セクハラとは、パワハラ・セクハラで成立し得る犯罪の刑罰、パワハラ・セクハラで逮捕された後はどうなるのか、パワハラ・セクハラの終局処理状況などについて説明します。
なお、以下の刑法における条文は、単に条文番号のみを掲げています。
パワハラとは
厚生労働省は、いわゆる「労働施策総合推進法」30条の2第1項に基づき、パワハラについて、「職場のパワハラとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為をいう」と定義しています。
そこには、上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して、様々な優位性を背景に行われるものも含まれると注記されています。
そして、パワハラの行為類型として6つが挙げられていますが、パワハラで成立し得る犯罪との関係では、①身体的な攻撃(具体的行為として暴行・傷害)、②精神的な攻撃(具体的行為として脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言等)の2つが関係します。
また、スポーツ界におけるパワハラとは、「職場におけるパワハラ」にならえば、「監督・コーチなどが選手に対して、自分の指導上の地位や上下関係などのスポーツ環境の優位性を背景に、指導の範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えたり、行き過ぎた指導により選手のスポーツ環境を悪化させる行為をいう」と定義できることになります。
スポーツ界では、女子レスリングの男性監督による選手へのパワハラ事案や、日本体操協会における女性幹部・男性幹部による女子選手へのパワハラ事案が問題となってきました。
また、大学のアメリカンフットボール部で発生した悪質タックル問題を契機として、男性監督によるパワハラと受け取られかねない指導も社会的な関心を集めています。
さらに、学校スポーツの分野では、スポーツ指導者による体罰との関係でパワハラが問題視されています。
もっとも、本稿では、これらの事例には立ち入らず、職場におけるパワハラを対象として取り上げます。
パワハラで成立し得る犯罪
以下で、パワハラで成立し得る犯罪について、条文の順に見てみましょう。
傷害罪
傷害罪は、人の身体を傷害することによって成立します(204条)。
たとえば、上司が仕事の指導中に腹を立て、部下の顔面を殴るなどの暴行を加えて怪我を負わせた場合です。
また、上司が部下に対し、執拗に嫌がらせを繰り返して、部下がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したような場合も、傷害罪に該当し得ます。
暴行罪
暴行罪は、人に暴行を加えることによって成立します(208条)。
たとえば、店長が顧客対応に手間取ったことに腹を立て、店員に対して物を投げつけたり、胸倉をつかんだり、ガムを吐きつけたりするなどの暴行を加えた場合です。
脅迫罪
脅迫罪は、人に対し、その者(1項)またはその親族(2項)の生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して脅迫することによって成立します(222条)。
たとえば、部長が書類の提出が遅れたことに腹を立て、部下職員に対して「いつまでのんびりやっているんだ」「馬鹿野郎」「給料泥棒」などと叱責したうえ、激しい剣幕で「殴ってやろうか」などと脅した場合です。
強要罪
強要罪は、人に対し、その者(1項)またはその親族(2項)の生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害することによって成立します(223条)。
たとえば、店長が男性店員の在庫管理の方法に難癖をつけ、他の店員への見せしめとして、「店をクビにしてやる」などと脅迫し、他の店員の前で「土下座しろ」などと義務のない行為をさせた場合です。
名誉毀損罪
名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損することによって成立します(230条1項)。
たとえば、上司が他にも同僚がいる前で、部下に対して声高に「お前だけが仕事ができていない」「仕事ができないのは、お前の親が頭が悪いからだ」などと発言し、人の社会的評価(名誉)を低下させた場合です。
侮辱罪
侮辱罪は、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱することによって成立します(231条)。
たとえば、上司が他にも同僚がいる前で、部下に対して「田舎者」「馬鹿か」「ハゲで何の取り柄もないな」「アホ」などと発言し、人を侮辱した場合です。
セクハラとは
わが国では、セクハラを直接禁止する法律は存在しません。
職場におけるセクハラ防止については、雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等に関する法律(以下、均等法といいます)において、事業主に対する雇用管理上の措置義務として定められているにとどまります。
職場におけるセクハラとは、「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、または当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」(均等法11条)や、「他の者を不快にさせる職場における性的な言動および職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」(人事院規則10-10第2条1号)とされています。
すなわち、相手の意思に反した性的な誘惑や性的行為の要求、その他の性的な言動を含む、いわゆる性的嫌がらせを指します。
なお、厚生労働省がセクハラ対策のために配布しているリーフレットによれば、「性的な言動」によるセクハラについては、行為者が必ずしも職場内の上司や同僚に限られるものではありません。
- 事業主
- 上司
- 同僚
- 取引先
- 顧客
- 患者
- 学校における生徒
このように、職場内外を問わず、幅広い立場の者がセクハラの行為者となり得るとされています。
男性・女性を問わず、加害者にも被害者にもなり得ます。
また、スポーツ界におけるセクハラとは、「職場におけるセクハラ」にならえば、「スポーツ環境において、監督・コーチなどが選手に対し自分の地位を利用して行われる性的な言動に対する選手の対応により、選手が練習参加や試合出場の条件について不利益を受けたり、性的な言動により選手のスポーツ環境が害されたりすること」と定義できることになります。
性的な言動は、スポーツ界であっても、職場であっても、大差はないといえます。
ただし、「身体的な接触」については、スポーツ界では、マッサージやテーピングなど、治療を目的として一般的に容認されている必要な接触も存在します。
もっとも、スポーツ指導や治療を名目として行われた「身体的な接触」であっても、その内容や態様によっては、強制わいせつ罪(現行法上の不同意わいせつ罪)に問われ、有罪判決が言い渡された事例もあります。
セクハラで成立し得る犯罪
以下で、セクハラで成立し得る犯罪について、条文の順に見てみましょう。
不同意わいせつ罪
不同意わいせつ罪は、自由な意思決定が困難な状態にある者に対し、わいせつな行為を行うことによって成立します(176条)。
たとえば、上司が部下女性に対し、「触らせないか。言うことをきかなければ、支店に転勤させてやるぞ」などと言って迫り、部下女性が人事面で不利益な扱いを受けるのではないかという不安から抵抗できず、やむを得ず上司の求めに応じてしまい、上司が部下女性の服の中に手を入れて胸をなで回した場合です。
また、セクハラによる被害者の意思に反した行為のうち、性的侵害性が特に重大なものについては、不同意わいせつ罪に該当します。
- 無理やりキスをする行為
- 陰部や乳房、尻、太ももなどに触れる行為
- 無理やり裸にして写真を撮る行為
これらはいずれも、被害者の意思に反して行われ、重大な性的侵害性を有する行為と評価されます。
不同意性交等罪
不同意性交等罪は、自由な意思決定が困難な状態にある者に対し、性交等をすることによって成立します(177条)。
たとえば、スポーツの指導者が選手に対する優越的な地位を利用し、「自分の言うことをきかなければ試合に出場させない」などと述べて不利益な扱いとなる旨を告げ、選手を「断れば不利益を被るのではないか」という不安から抵抗できない状態に陥らせたうえで、性行為に及んだ場合です。
暴行罪、脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪および侮辱罪
これらの罪の成立要件については、上述したとおりです。各罪の具体例は、下記のとおりです。
| 罪名 | 罰条 | 具体例 |
| 暴行 | 208条 | 上司が「キスしよう」などと言って、嫌がる部下女性の腕を引っ張った場合 |
| 脅迫 | 222条 | 上司が部下職員に対し、「仕事の達成率が悪い」「期限までにノルマを達成できなければ交通違反を公表する」「給料で埋め合わせさせる」「そのうち職場に居場所がなくなる」などと発言した場合 |
| 強要 | 223条 | 上司が、嫌がる部下女性に対し、食事やデートに執拗に誘ったり、「キスさせろ」などと性的な関係を要求した場合 |
| 名誉毀損 | 230条1項 | 上司が、他にも同僚がいる前で、部下に対し、「会社の金を使い込んだのはお前だな」「不倫している費用にでも充てたのか」などと発言し、人の社会的評価を低下させた場合 |
| 侮辱 | 231条 | 上司が、他にも同僚がいる前で、部下に対して、「お前は浮気性だ」「すぐ女に手を出す」「このたわけめ」などと発言した場合 |
その他の犯罪
特別法の関係では、セクハラ行為が、いわゆるストーカー規制法に定める「つきまとい等」を反復して行うものである場合には、「ストーカー行為」(同法2条1項)に該当します。
この場合、同法18条により、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されます。
また、各都道府県におけるいわゆる迷惑防止条例では、性的な迷惑行為を相当に幅広く処罰する規定が設けられています。
パワハラ・セクハラで成立し得る犯罪の刑罰
パワハラ・セクハラで成立し得る犯罪の刑罰は、以下のとおりです。
| 罪名 | 罰条 | 刑罰 |
| 傷害 | 204条 | 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 暴行 | 208条 | 2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 |
| 脅迫 | 222条 | 2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 強要 | 223条 | 3年以下の拘禁刑 |
| 名誉毀損 | 230条1項 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
| 侮辱 | 231条 | 1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 |
| 不同意わいせつ | 176条 | 6か月以上10年以下の拘禁刑 |
| 不同意性交等 | 177条 | 5年以上の有期拘禁刑 |
パワハラ・セクハラで逮捕された後はどうなるのか
警察官(司法警察員)は、被疑者をパワハラ・セクハラで逮捕してから48時間以内に、被疑者を釈放するか、または身柄を検察官に送致しなければなりません。
被疑者の身柄が検察官に送致された場合、検察官は、身柄を受け取ってから24時間以内、かつ逮捕時から72時間以内に、裁判官に勾留請求をするか、起訴するか、または被疑者を釈放するかの判断をしなければなりません。
検察官が、逮捕に引き続き捜査を進めるうえで、被疑者の身柄拘束が必要であると判断した場合には、裁判官に勾留を請求します。
裁判官は、被疑者が罪を犯したことが疑われ、かつ、住居不定であること、証拠隠滅や逃亡のおそれがあることなど、勾留の必要性が認められる場合には、勾留状を発付します。
被疑者の勾留期間は原則として10日間ですが、やむを得ない事情がある場合には、検察官の請求により、裁判官がさらに10日以内の勾留期間の延長を認めることもあります。
一般論としては上記のとおりですが、パワハラ・セクハラで成立し得る犯罪には様々な態様があり、被疑者と被害者との関係性も異なるため、勾留の要否や勾留延長の判断には困難を伴うことが予想されます。
その判断にあたっては、次のような事情が重視されます。
- 被害者の被害感情
- 示談が成立しているかどうか
- 慰謝の措置が講じられているかどうか
これらの事情いかんによって、被疑者の身柄を拘束する必要性も左右されます。
パワハラ・セクハラの終局処理状況
2024年版検察統計年報によれば、パワハラ・セクハラで成立し得る犯罪に関する令和6年の検察庁終局処理人員は、以下のとおりです(同年報「8 罪名別・被疑事件の既済および未済の人員」参照)。
| 罪名 | 総数 | 起訴 (起訴率) | 公判請求 (起訴で占める率) | 略式請求 (起訴で占める率) | 不起訴 (不起訴率) | 起訴猶予 | その他 |
| 傷害 | 18,947 | 5,629 (29.7%) | 2,014 (35.8%) | 3,615 (64.2%) | 13,318 (70.3%) | 10,086 | 3,232 |
| 暴行 | 16,713 | 4,614 (27.6%) | 679 (14.7%) | 3,935 (85.3%) | 12,099 (72.4%) | 10,427 | 1,672 |
| 脅迫 | 1,874 | 703 (37.5%) | 232 (33.0%) | 471 (67.0%) | 1,171 (62.5%) | 876 | 295 |
| 強要 | 496 | 134 (27.0%) | 134 | ― | 362 (73.0%) | 157 | 205 |
| 名誉毀損 | 1,044 | 271 (26.0%) | 64 (23.6%) | 207 (76.4%) | 773 (74.0%) | 142 | 631 |
| 侮辱 | 271 | 95 (35.1%) | 9 (9.5%) | 86 (90.5%) | 176 (64.9%) | 68 | 108 |
| ※1 | 4,579 | 1,544 (33.7%) | 1,544 | ― | 2,035 (66.3%) | 1,702 | 333 |
| ※2 | 3,281 | 1,165 (35.5%) | 1,165 | ― | 2,116 (64.5%) | 800 | 1,316 |
※1は不同意わいせつ、※2は不同意性交等で、いずれも致死傷事案を含みます。
起訴率は「起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100、不起訴率は「不起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100により算出した百分比を指します。
上記の数字から、起訴はおおむね3割前後、不起訴は7割前後となっています。
そして、パワハラ・セクハラで成立し得る犯罪では、起訴・不起訴の判断や、公判請求と略式命令請求のいずれとするかの判断にあたり、次のような事情が考慮されます。
- 被害者の被害感情
- 示談が成立しているかどうか
- 慰謝の措置が講じられているかどうか
- 上記※1・※2の犯罪については、被疑者と被害者との関係性から、合意があったとの合理的な疑いが残るかどうか
これらの事情を踏まえて、検察官は最終的な処分方針を判断していると考えられます。
まとめ
パワハラ・セクハラで逮捕された場合、不安や心配を感じる方は少なくありません。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すためには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
パワハラ・セクハラ事件の中には、被害者との示談の成立や慰謝の措置が、被疑者の処分結果に影響を及ぼす場合もあります。被害者との折衝や示談交渉については、法律の専門家である弁護士に委ねるのが望ましいといえます。
弁護士は、事件の内容に応じて最適な戦略を立て、捜査機関や裁判所に対して適切に働きかけます。経験豊富な弁護士であれば、起訴・不起訴の見通しについても具体的な助言を受けることができ、被疑者に有利な結果を得られる可能性が高まります。
パワハラ・セクハラ事件でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

