不同意わいせつ罪で逮捕された場合、この後どうなるのかと不安に感じる方も多いでしょう。性犯罪に対する社会一般の評価から、不同意わいせつ罪についても厳しい非難は免れません。
以下では、不同意わいせつ罪の定義・成否・刑罰・痴漢との関係・よくある事例などについて説明します。
不同意わいせつ罪とは
ここでは、定義、概要について説明します。
定義
不同意わいせつ罪とは、自由な意思決定が困難な状態にあるのに、被害者に対しわいせつな行為をした場合に成立する犯罪です。
わいせつな行為とは、性欲を刺激、興奮または満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうものと解されています。
たとえば、陰部に手を触れたり、自己の陰部を押し当てたりすること、乳房を弄ぶこと、相手の意思に反して接吻を行うことは、通常わいせつな行為にあたります。
刑法は、176条において、3つの場合に不同意わいせつ罪が成立するとしています。
- 所定の行為または事由を原因として、同意しない意思を形成、表明または全うすることが困難な状態にさせ、またはそのような状態にあることに乗じてわいせつな行為をした場合(要件Ⅰの場合)
- わいせつな行為ではないと誤信をさせ、行為者について人違いをさせ、または被害者がそのような誤信・人違いをしていることに乗じてわいせつな行為をした場合(要件Ⅱの場合)
- 被害者が13歳未満の者に、または、被害者が13歳以上16歳未満の者で、行為者が5歳以上年長であるときにわいせつな行為をした場合(要件Ⅲの場合)
概要
以下では、要件Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3つの類型ごとに内容を説明します。
要件Ⅰの場合
要件Ⅰの場合の不同意わいせつ罪では、「同意しない意思を形成、表明または全うすることが困難な状態」になる原因として、「暴行・脅迫」のほかにも、「心身の障害」、「アルコール・薬物」、「フリーズ」、「虐待」、「立場による影響力」など様々な行為や事由が具体例として挙げられています。
また、これらの行為や事由は、それ自体の程度は問わないとされています。
なお、要件Ⅰの場合には、婚姻関係の有無にかかわらず、不同意わいせつ罪が成立します。
要件Ⅱの場合
人の錯誤を利用して、わいせつな行為をした場合に不同意わいせつ罪が成立します。
要件Ⅲの場合
16歳未満の者に対してわいせつな行為をした場合、「暴行」や「脅迫」などがなく、その者が同意しているように見える場合であっても、原則として、不同意わいせつ罪が成立します。
ただし、被害者が13歳未満の者である場合、または、被害者が13歳以上16歳未満の者で、行為者が被害者より5歳以上年長である場合には、被害者の同意の有無にかかわらず、行為者が被害者に対してわいせつな行為をすれば、不同意わいせつ罪が成立します。
被害者が13歳以上16歳未満の者で、行為者と被害者の年齢差が5歳未満の場合であっても、所定の行為または事由が原因となって、「同意しない意思を形成、表明または全うすることが困難な状態にさせ、またはそのような状態にあることに乗じて」被害者に対してわいせつな行為をした場合には、不同意わいせつ罪が成立することになります。
以上のことから、行為者と被害者がいずれも16歳以上の者の場合、被害者が13歳以上16歳未満の者で、行為者と被害者の年齢差が5歳未満の場合には、被害者の同意があれば、不同意わいせつ罪は成立しません。
不同意わいせつ罪の成否
ここでは、要件Ⅰの場合の「困難な状態の原因となる行為や事由およびそれに該当する行為や事由」、「同意しない意思」に関する要件について説明します。
不同意わいせつ罪が成立するためには、後述する「困難な状態の原因となる行為や事由」が認められ、これらの行為や事由により、「同意しない意思の形成、表明または全うすることが困難な状態」になっている必要があります。
したがって、判断の順序としては、第1段階で、困難な状態の原因となる行為や事由の有無が判断され、これが肯定された場合には、第2段階で、同意しない意思の形成等が困難な状態になっているかが判断されることになります。
困難な状態の原因となる行為や事由およびそれに該当する行為や事由
以下、刑法176条1項の内容に沿って説明します。
①暴行もしくは脅迫を用いること、またはそれらを受けたこと(1項1号)
行為者が被害者に対し、わいせつな行為の手段として暴行や脅迫を加える場合、または被害者が第三者から暴行や脅迫を受けた場合や、被害者が行為者からわいせつな行為の手段としてではなく暴行や脅迫を受けた場合です。
②心身の障害を生じさせること、またはそれがあること(1項2号)
行為者が被害者に対し、脅迫以外の手段で、急性ストレス反応などの一時的な精神症状を生じさせる場合、または被害者が身体障害、知的障害、発達障害および精神障害を有している場合です。
③アルコールもしくは薬物を摂取させること、またはそれらの影響があること(1項3号)
行為者が被害者に対し、アルコールや薬物を摂取させる場合、または被害者が第三者からアルコールや薬物を摂取させられ、あるいは、被害者自らがアルコールや薬物を摂取して、それらの影響を受けている場合です。
④睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること、またはその状態にあること(1項4号)
行為者が被害者に対し、催眠術を用いるなどして、意識がはっきりしない状態にさせる場合、または被害者が眠っていて意識が失われている状態にある場合です。
⑤同意しない意思を形成し、表明し、または全うするいとまがないこと(1項5号)
行為者が、すれ違いざまに突然被害者の胸部を触ったりするなど、被害者において、同意しない意思を形成しまたは表明する時間的なゆとりがない場合です。
⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、もしくは驚愕させること、またはその事態に直面して恐怖し、もしくは驚愕していること(1項6号)
わいせつな行為をされるとは予想していない被害者に対し、2人きりの密室で執拗にわいせつな行為をしようとすることで被害者を激しく動揺させる場合、または人気のない夜道で、脇道から出てきた行為者と不意に出くわしたことで激しく動揺している場合です。
⑦虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがあること(1項7号)
被害者が行為者から虐待を受けたことによって、行為者に対する恐怖心を生じさせる場合、または被害者がすでにそのような心理状態にある場合です。
⑧経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮していること(1項8号)
行為者の経済的・社会的な優越的地位における影響力によって、被害者やその親族等に不利益が及ぶことを不安に思わせる場合、または被害者がそのような不利益が自らやその家族等に及ぶことを不安に思っている場合です。
⑨その他これらに類する行為、または事由(1項柱書)
上述した1項1号から8号までの行為または事由は、例示類型であり、これに加えて、1項柱書において、「これらに類する行為または事由」も含まれることになります。
「同意しない意思」に関する要件
「同意しない意思」に関する要件とは、どういうことか場合を分けて検討してみましょう。
①「同意しない意思を形成することが困難な状態」について
「同意しない意思を形成することが困難な状態」とは、たとえば、気絶している場合、眠っていて意識がない場合、障害がある場合、継続的な虐待を受けていた場合などのように、わいせつな行為をするかどうかを考えたり、決めたりするきっかけや能力が不足していて、わいせつな行為をしない、したくないという意思を持つこと自体が難しい状態をいいます。
②「同意しない意思を表明することが困難な状態」について
「同意しない意思を表明することが困難な状態」とは、たとえば、口を塞がれている場合、混乱や精神障害などから意思の表明ができない場合、恐怖や驚愕により嫌だと言葉にできない場合(フリーズ状態)などのように、わいせつな行為をしない、したくないという意思を持つことはできたものの、それを外部に表すことが難しい状態をいいます。
③「同意しない意思を全うすることが困難な状態」について
「同意しない意思を全うすることが困難な状態」とは、たとえば、わいせつな行為をしない、したくないという意思をいったん表明したものの、恐怖心などからそれ以上のことができない場合、同意しない意思を表明したものの、行為者に押さえつけられて抵抗できない場合などのように、わいせつな行為をしない、したくないという意思を外部に表すことができたものの、その意思のとおりになることが難しい状態をいいます。
不同意わいせつ罪の刑罰
不同意わいせつ罪の刑罰は、6か月以上10年以下の懲役(拘禁刑)です。
なお、上記の懲役は、令和7年(2025年)6月1日(改正刑法施行日)から「拘禁刑」に表記が変更になります。
痴漢との関係
痴漢には、不同意わいせつ罪に至らない条例(東京都の場合は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」。以下「都条例」といいます)違反の罪にあたる痴漢と刑法176条の不同意わいせつ罪にあたる痴漢の2種類があります。
都条例は、5条1項で「何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。」、同項1号で「公共の場所または公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上からまたは直接に人の身体に触れること。」と定めています。
また、都条例は、罰則について、通常の場合は「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」(8条1項2号)、常習の場合は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」(8条8項)と定められています。
ところで、都条例違反の痴漢と不同意わいせつ罪の痴漢の違いについて、従来、犯行の態様から見て、着衣の上からなでまわすなどの行為が都条例違反の痴漢であり、被害者の意思に反して、着衣の中に手を差し入れて人の体に触る行為が不同意わいせつ罪の痴漢であるとされていました。
しかし、刑法改正による不同意わいせつ罪の要件の改正により、このような区別は難しくなり、事案ごとに、まず、上述した「困難な状態の原因となる行為や事由」の有無を判断し、これが認められた場合に、次の段階として、同意しない意思の形成等が困難な状態になっているかを判断することにより、不同意わいせつ罪の成否が決まることになると思われます。
なお、都条例違反の痴漢は、公共の場所または公共の乗物で行われた場合に該当しますが、不同意わいせつ罪の痴漢は、その行われる場所や乗物に限定はなく、公共の場所や公共の乗物である必要はありません。
よくある事例
不同意わいせつ罪でよくある事例は、以下のとおりです。
満員電車の中で隣の女性の下着の中に手を入れて性器を触るケース
男性が、性衝動に駆られ、満員電車の中で身動きがとれない状態を利用して、隣にいた女性の下着の中に手を入れて性器を触れば、不同意わいせつ罪が成立します。
この場合、男性は下着の中に手を入れて性器を触っているので、「暴行を用いる」ものとして、上述した1項1号の類型にあたります。
満員電車内という逃げ場のない状況を利用して、下着の中に手を入れて性器に触れる行為は、不同意わいせつ罪が成立します。
列車内で熟睡している女性の胸を着衣の上からなでまわすケース
男性が、列車に乗車中に、隣の席で熟睡している女性を見て劣情を催し、女性の胸をなでまわせば、不同意わいせつ罪が成立するといえます。
一般的には、列車内の痴漢行為とされるものですが、この場合のように、熟睡している女性の胸をなでまわすことは性的な意味を有するものですから、上述した1項4号の類型にあたります。
熟睡していて抵抗できない被害者に対して、胸をなでまわすようなわいせつ行為をすれば、不同意わいせつ罪が成立します。
上司が人事評価をちらつかせ、部下男性のズボンの中に手を入れて股間をなでまわすケース
職場の上司が、出張中に好みの部下男性をホテルの自室に招き入れ、「言うことを聞かなければ人事評価を下げる」などと示唆して迫り、部下が不利益を恐れて抵抗できず、上司がズボンの中に手を入れて股間をなでまわした場合、不同意わいせつ罪が成立します。
この場合は、上司が職場での優越的地位に乗じて部下男性にわいせつな行為をする場合ですから、上述した1項8号の類型に該当するといえます。
行為者は、男性だけでなく、女性だったとしても、不同意わいせつ罪が成立します。
まとめ
不同意わいせつ罪で逮捕された場合、不安や疑問が募ることと思います。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すためには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
弁護士は、事件の内容に応じた最適な戦略を立て、捜査機関や裁判所に対して、適切に働きかけを行います。経験豊富な弁護士であれば、起訴・不起訴の見通しについても具体的なアドバイスを受けることができ、被疑者に有利な結果を引き出す可能性が高まります。不同意わいせつ罪でお困りの際は、お早めに当事務所へご相談ください。