覚醒剤取締法違反で逮捕された場合、裁判が終わるまで身柄拘束が続くのではないか、また、必ず有罪になるのではないかと不安に感じる方も多いでしょう。また、逮捕されてしまった被疑者のご家族も、被疑者のために覚醒剤を含む薬物犯罪に強い弁護士を頼りたいと望んでいることでしょう。
覚醒剤は、覚醒剤取締法により規制されています。
以下では、覚醒剤取締法違反で逮捕された場合に問われる罪や刑罰、起訴率や科刑状況、営利目的が認定されるケース、さらに逮捕の典型的なパターンについて説明します。
覚醒剤取締法違反で逮捕されたら問われる罪
覚醒剤取締法違反は、覚醒剤を犯罪の客体とするもので、その輸入、輸出、製造、所持、使用、譲渡および譲受が罪に問われます。
- 輸入:国外から国内への覚醒剤の搬入
- 輸出:国内から国外への覚醒剤の搬出
- 製造:化学変化を加えて覚醒剤を作る行為、製剤、小分け(調剤を除く)
- 所持:覚醒剤を保管・携帯する実力支配関係を有すること
- 使用:鼻吸引・煙吸引・経口摂取・注射など、用法に従って用いる行為
- 譲渡:他人に覚醒剤を渡し、処分権限と所持を移転させる行為
- 譲受:他人から覚醒剤の処分権限を受け、所持を移転される行為
以下で、それぞれについて見ていきましょう。
覚醒剤の輸入、輸出および製造
覚醒剤の輸入とは、国外から国内に覚醒剤を搬入することをいいます。
覚醒剤の輸出とは、国内から国外に覚醒剤を搬出することをいいます。
覚醒剤の製造とは、狭義の製造、すなわち覚醒剤原料に化学的変化を加えて覚醒剤を作り出すことのほか、覚醒剤に化学的変化を加えないで他の覚醒剤にする行為(製剤)、また覚醒剤を分割して容器に収める行為(小分け)を含むとされています(ただし、調剤を除きます)。
令和2年版犯罪白書(薬物犯罪。以下「犯罪白書」)によれば、令和元年の覚醒剤の密輸入事犯を形態別に見ると、摘発件数では、航空機旅客による密輸入が最も多く、次いで、航空貨物を利用した密輸入、国際郵便物を利用した密輸入、海上貨物を利用した密輸入の順になっています。
覚醒剤の所持、使用、譲渡および譲受
覚醒剤の所持とは、人が覚醒剤を保管する実力支配関係を有していることをいいます。たとえば、覚醒剤を自宅や車に保管したり、カバンに入れて携帯している場合です。
覚醒剤の使用とは、覚醒剤をその用法に従って用いる一切の行為のことをいいます。たとえば、覚醒剤を鼻から吸引したり、アルミホイルにのせて下から火であぶり煙を吸ったり、経口摂取したり、水溶液にして注射したりする場合です。
覚醒剤の譲渡とは、相手方に対し、覚醒剤についての法律上または事実上の処分権限を付与し、かつ、その所持を移転することをいいます。
覚醒剤の譲受とは、相手方から、覚醒剤についての法律上または事実上の処分権限を付与され、かつ、その所持の移転を受けることをいいます。
覚醒剤取締法違反の刑罰
覚醒剤取締法違反の刑罰は、下記表のとおりです。
刑罰に記載されている懲役は「拘禁刑」、有期懲役は「有期拘禁刑」、無期懲役は「無期拘禁刑」と表記されるようになります。この変更は、令和7年6月1日(改正刑法施行日)から適用されます。
違反態様 | 刑罰 |
輸入、輸出、製造 | (営利目的なし)1年以上の有期懲役(有期拘禁刑) |
(営利目的あり)無期もしくは3年以上の懲役(拘禁刑)または情状により無期もしくは3年以上の懲役(拘禁刑)および1,000万円以下の罰金 | |
所持、使用、譲渡、譲受 | (営利目的なし)10年以下の懲役(拘禁刑) |
(営利目的あり)1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)または情状により1年以上の有期懲役(有期拘禁刑)および500万円以下の罰金 |
覚醒剤取締法違反の起訴率など
犯罪白書によると、令和元年の起訴人員および不起訴人員を合わせた人員のうち、起訴率は75.7%、起訴猶予率は9.1%、その他の不起訴率は15.2%になっています。覚醒剤取締法違反の起訴率は、他の薬物犯罪に比べても高い傾向にあります。
覚醒剤取締法違反の科刑状況
犯罪白書によると、令和元年の地方裁判所における科刑状況(違反態様別)は、下記のとおりです。
- 輸入・輸出・製造(営利目的なし)
→ 全部執行猶予:87.0%、全部実刑:13.0% - 輸入・輸出・製造(営利目的あり)
→ 全部執行猶予:0.9%、全部実刑:91.1% - 所持・譲渡・譲受(営利目的なし)
→ 全部執行猶予:44.9%、一部執行猶予:17.5%、全部実刑:37.6% - 所持・譲渡・譲受(営利目的あり)
→ 全部執行猶予:2.2%、一部執行猶予:1.1%、全部実刑:96.7% - 使用(営利目的なし)
→ 全部執行猶予:36.4%、一部執行猶予:19.3%、全部実刑:44.3% - 使用(営利目的あり)
→ 裁判に至った事例はなし
覚醒剤所持で営利目的が認定されるケース
最初に「営利目的」について確認しておきましょう。
「営利目的」とは、犯人が自ら財産上の利益を得、または第三者に得させることを動機・目的とする場合をいうと解されています。
- 覚醒剤の量:個人使用にしては明らかに多い量
- 小分けの状況:均等に分けられた包装状態
- 小分け道具の所持:ビニール袋、鋏、割り箸、ライター、秤など
- 携帯電話の存在:顧客との連絡手段
- 取引記録:仕入れや販売の記録、顧客リストのあるメモや手帳
- 預金口座の動き:密売の収益と思われる入金履歴
- 現金の保有:取引で得たと考えられる現金の所持
- 注射器の数:サービス用と思われる注射器の保有
- 車両情報:車内での取引が想定される保有車両
さらに、被疑者(起訴後の被告人)の信用できる自白がある場合には、有力な証拠になります。また、取引に関する譲受人の供述や捜査官の目撃供述がある場合もあります。
覚醒剤取締法違反で逮捕されるケース
職務質問を端緒とする逮捕
警察官が挙動不審者を職務質問し、所持品検査の結果、違法薬物と見られる物品が見つかり、その場で簡易検査を実施して覚醒剤の陽性反応が出た場合は、現行犯逮捕されます。
また、職務質問を受けた者が尿を任意提出し、その尿から陽性反応が出て覚醒剤所持の疑いが生じたため捜索差押令状により家宅捜索が行われ、覚醒剤が発見されたときは、現行犯逮捕されます。
他の者の供述を端緒とする逮捕
覚醒剤取締法違反で逮捕された者が、その入手先、共犯者や譲り渡した相手などを供述し、その名前が出た者が特定されたときは、その供述に対応する容疑で、後日通常逮捕されます。
また、他の者の供述から名前が出た者に、覚醒剤所持の容疑が出てくれば、その者に対する捜索差押令状により家宅捜索をして、覚醒剤が発見されたときは、現行犯逮捕されます。
通報を端緒とする逮捕
幻覚症状や中毒症状が出たため病院に救急搬送され、覚醒剤の使用が疑われたため、病院からの通報により警察官が臨場し、強制採尿令状の発付を得て尿の採取が行われ、尿に覚醒剤の含有が認められたときは、後日通常逮捕されます。
覚醒剤と思われる物品を発見し、あるいは覚醒剤使用の疑いを抱いた家族が警察に通報し、捜索差押令状により家宅捜索をして、覚醒剤が発見されたときは、現行犯逮捕されます。
幻覚症状を呈している者を見つけた通行人や近隣住民の通報を受け、警察官が臨場して違法薬物使用の疑いを抱き、任意同行の求めに応じた不審者を警察署に同行し、尿を任意提出あるいは強制採尿令状により採取し、正式鑑定をして尿に覚醒剤の含有が認められたときは、後日通常逮捕されます。さらにあわせて、捜索差押令状により家宅捜索をして、覚醒剤が発見されたときは、立ち会わせたその者が現行犯逮捕されます。
まとめ
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合、不安や疑問が募ることと思います。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すためには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
弁護士は、事件の内容に応じた最適な戦略を立て、捜査機関や裁判官に対して適切に働きかけます。経験豊富な弁護士であれば、起訴・不起訴の見通しについても具体的なアドバイスを受けられ、被疑者に有利な結果を引き出す可能性が高まります。
しかし、本来であれば執行猶予付きの判決が得られる可能性が高い事案であっても、初動対応を誤ったために執行猶予が付かなくなってしまう可能性もあります。
このように初動対応が非常に重要であることから、覚醒剤取締法違反でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。