懲役や禁錮が定められている犯罪で起訴されると、「刑務所に収監されるのではないか」と不安に感じる方も多いでしょう。実際、起訴されると高い確率で有罪判決が下されますが、実刑判決か執行猶予判決かによって、刑務所に収監されるかどうかが決まります。
そこで以下では、実刑判決と執行猶予判決の違いについて解説します。
実刑判決とは
実刑判決とは、裁判で有罪が確定し、言い渡された刑罰をそのまま執行される判決のことです。執行猶予がつかない場合は、判決が確定すると懲役・禁錮の場合すぐに身柄が拘束され、刑務所などで刑期を過ごすことになります。実刑判決は、量刑の重さや前科の有無、再犯のリスクなどを総合的に判断し、裁判官が実刑に値すると判断した場合に言い渡されます。実刑判決は、長期間身柄が拘束され、社会的にも重大な影響を及ぼし、本人だけでなく家族にも大きなダメージを与えます。
執行猶予判決とは
執行猶予判決とは、有罪ではあるものの、刑の執行を猶予し、その間に再犯がなければ刑の執行を免れるという判決です。刑自体は科されるものの、すぐには執行せず、一定期間の様子を見守る制度です。主に初犯である場合や、反省の態度が見られる場合など、社会復帰の可能性が高いと判断されたときに適用されます。猶予期間中に再び罪を犯すと、猶予は取り消され、もとの刑を含めて実刑として服役したり、罰金を支払うことになります。主に懲役・禁錮といった刑務所に収監される刑に適用されますが、50万円以下の罰金にも適用されることがあります。
実刑判決と執行猶予判決の共通点
実刑判決と執行猶予判決には、いずれも有罪判決を受けたという共通点があります。どちらの判決も刑罰が科せられるという意味では同じで、社会的な意味としては前科がつくことになります。
実刑判決と執行猶予判決の違い
実刑判決と執行猶予判決の最大の違いは、刑を執行するか否かにあります。実刑判決を受けた場合は、刑務所に収容されたり、罰金を支払ったりする必要があります。一方で、執行猶予が付いた場合は、刑は科されるものの、すぐに服役したり罰金を支払ったりする必要はありません。執行猶予付き判決では、猶予期間中に再犯がなければ刑の執行は免除されます。
執行猶予判決を得るためには
刑事事件になった場合、基本的には起訴されないように行動すべきなのですが、起訴された場合にはこの執行猶予判決を受けられるように行動することになります。執行猶予判決を受けるためには、まず刑法上の執行猶予の要件を満たす必要があります。
- 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の言渡しを受けた
- 次のいずれかに該当
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、執行が終わった日またはその執行の免除をしてもらった日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない
たとえば殺人罪の場合、法定刑が死刑または無期もしくは5年以上の懲役なので、そのままでは執行猶予を受けることができないため、情状酌量などにより刑が減軽される必要があります。
以上の要件を満たす場合、裁判官が情状から総合的に考慮して執行猶予判決にするかどうかを判断します。
実刑判決にするか、執行猶予判決にするかは社会に戻すべきか、それとも刑務所で更生させるべきか、という観点から判断されます。
- 刑罰の重さ:刑罰が重い場合は実刑判決になりやすい
- 犯罪内容の悪質性:犯罪内容が悪質であるほうが実刑判決になりやすい
- 前科の有無:前科がある場合には実刑判決になりやすい
- 再犯のおそれの有無:再犯のおそれがある場合には実刑判決になりやすい
- 執行猶予中に再犯:執行猶予中に再犯をした場合には実刑判決の可能性が高い
これを踏まえて、刑事事件として起訴された場合に執行猶予判決を得るためには、次の行動を取ることが望ましいです。
- 被害者との示談をする:被害者の処罰感情が解消されており、犯罪内容が悪質ではないと評価される
- 弁護士会や慈善団体などに贖罪寄付をする:被害者が示談を拒否している場合や、薬物犯罪のようにそもそも被害者が存在しない場合には、反省していると評価してもらえる
- 家族に証人として出廷してもらう:被告人の監督者として情状証人に出廷してもらい、今後の監督を誓約してもらうことで、再犯の可能性が低いと評価してもらえる
被害者との示談は、執行猶予判決を得るうえで有利になるだけでなく、不起訴処分につながる可能性もあります。そのため、できるだけ早く弁護士に依頼することをおすすめします。
まとめ
実刑判決と執行猶予判決は、どちらも有罪である点では共通していますが、実際に刑を執行するかどうかに違いがあります。
実刑判決では、懲役や禁錮の刑が言い渡された場合、刑務所で服役することになります。一方、執行猶予付きの判決では、一定期間の猶予が与えられ、その間に再犯がなければ刑の執行が免除され、身柄も拘束されません。実刑か執行猶予かの判断は、反省の態度、前科の有無、再犯の可能性などをもとに行われます。裁判所が、社会に戻しても更生できると判断した場合に、執行猶予判決が言い渡される可能性があります。
なお、起訴前であれば不起訴処分を目指すことが重要です。起訴された場合には、執行猶予判決を得るためにも、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。