犯罪の被害者は、警察に対して被害を申告するために「被害届」を提出することがあります。この被害届は、あとから取り下げることも可能であり、加害者側が被害者と交渉して、取り下げてもらうケースもあります。
では、被害届を取り下げてもらうことでどのようなメリットがあるのでしょうか。また、どのような方法で取り下げの手続きが行われるのでしょうか。
そこで以下では、被害届の取り下げについて解説します。
被害届とは
被害届とは、犯罪の被害にあった人が、その事実を警察に知らせるために提出する書類のことです。被害届が出されると、警察は犯罪の情報を把握し、捜査を始めるきっかけになります。
例えば、窃盗や暴行、傷害などの事件では、被害届が提出されることがよくあります。一方で、薬物犯罪のように被害者が存在しないケースでは、被害届は提出されません。
被害届が提出され、警察が捜査を開始すると、加害者は任意の事情聴取を受けたり、逮捕・勾留・捜索差押えなどの強制処分を受けたりする可能性があります。さらに、刑事告訴が行われ、有罪となることもあります。
被害届を取り下げてもらうメリット
被害届を取り下げてもらうメリットには以下の3点があります。
- 事件として扱われなくなる可能性がある
- 不起訴としてもらえる可能性がある
- 起訴された場合でも処分が軽くなる可能性がある
事件として扱われなくなる可能性がある
被害届が取り下げられると、警察が事件として本格的に捜査を行わなくなる、または途中で捜査を終了し、事件として扱われなくなる可能性が出てきます。被害届が出された場合、被害者が加害者を処罰してほしいという感情(被害感情)が強いといえます。 被害届が取り下げられたことにより「被害感情が解消された」と判断されることがあり、その結果、警察としても事件化しないという判断をする場合があります。 ただし、被害感情のみが刑事事件として取り扱うかの判断に影響を及ぼすわけではないので、重大な犯罪・組織的な犯罪の場合、被害届が取り下げられても捜査が続くことがあります。
不起訴としてもらえる可能性がある
被害届の取り下げは、検察が「不起訴処分」にするかどうかを判断する際にも大きな影響を与えます。検察は犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重・情状、犯罪後の情況によっては起訴せず不起訴処分とすることもできます。反省をしている、被害者の被害感情が弱くなっている、被害弁償をしているなどの事情がある場合には、検察が不起訴とする可能性があり、被害届が取り下げられていることはその判断の基礎になります。起訴されると前科がつき以後の人生に大きな影響を与えるのですが、不起訴としてもらえることで前科がつく不利を回避することができます。
起訴された場合でも処分が軽くなる可能性がある
仮に起訴されてしまった場合でも、被害届の取り下げや示談成立が考慮されることで、判決において情状酌量が期待できます。裁判所は「被害者の許しを得ていること」「反省の態度を示していること」などを判決にあたって考慮します。これにより、執行猶予がついたり、より軽い刑で済んだりする可能性があります。
被害届を取り下げてもらうには
被害届を取り下げてもらう方法は以下の通りです。
反省していることを示す
被害届の取り下げをお願いするには、まず自分が心から反省していることを示すことが大前提です。被害者が「この人は本当に反省している」と感じなければ、被害届を取り下げてくれる可能性は低いでしょう。謝罪の言葉だけでなく、手紙や直接の謝罪(被害者が同意した場合)、行動などを通じて誠意を伝えることが大切です。
示談をする
反省していることを示すのに最も効果的な方法が「示談」です。示談とは、加害者と被害者が話し合い、裁判を経ずに和解することです。犯罪の被害者は加害者に、民法に基づく損害賠償請求権がありますが、請求権者である被害者が行使するのが法律では原則です。加害者が自主的に損害賠償を示談によって解決することで、反省の意思を示すことができます。この示談をする際には示談書を作成するのですが、その際に示談書に被害者が処罰を望まないことを記載し、捜査機関に提出するのが一般的な対応です。
刑事告訴をされた場合
被害届と似たようなものに刑事告訴があります。刑事告訴をされた場合も、取り下げてもらうことで有利な処分を受けられます。
刑事告訴とは
刑事告訴とは、犯罪被害者が警察・検察に対して加害者の処罰を望む意思表示で、刑事訴訟法に規定される制度です。被害届との違いは、捜査を望むだけでなく「処罰を求める意思表示」があることです。そのため刑事告訴が受理されると、警察や検察は原則として捜査を開始し、事件として取り扱うことが必要になります。また、親告罪(侮辱罪や強制わいせつなど)は法律上告訴がなければ処罰できないため、告訴の取り下げは事件の進行に直接影響します。
刑事告訴を取り下げてもらうメリット
刑事告訴を取り下げてもらうことで、加害者側にとっては法的な不利益を回避・軽減できる可能性があります。特に、事件の進行や処分の内容に大きな影響を与える場合があります。
- 事件化しなくなる
告訴が取り下げられることで、捜査機関が事件として扱わない可能性が高まります。 - 不起訴処分になる
取り下げを受けて、検察官が起訴を見送り、不起訴となることがあります。 - 刑罰が軽くなる
取り下げが裁判所での量刑判断において、被告人に有利な情状として考慮される可能性があります。 - 親告罪では処罰されない
名誉毀損や強制わいせつなどの親告罪では、告訴が取り下げられると法的に処罰ができなくなります。
まとめ
被害届の取り下げは、不起訴処分を得られるかどうかに大きく影響する可能性があります。不起訴を目指すには、誠意ある反省と謝罪、そして被害者との示談が重要です。加害者が身柄を拘束されている場合や、被害者の氏名や住所が分からない場合には、弁護士を通じて示談交渉を行う必要があります。
被害届が提出されている場合は、できるだけ早く弁護士に依頼し、被害者に取り下げてもらえるよう働きかけることが大切です。