犯罪の被疑者となった場合、捜査機関の判断によって「身柄事件」または「在宅事件」として扱われます。どちらになるかは、逮捕や勾留といった身柄拘束の有無によって決まり、今後の手続きや日常生活への影響にも大きな違いが生じます。なお、身柄を拘束されない在宅事件であっても、油断は禁物です。
そこで以下では、身柄事件と在宅事件の定義や違い、在宅事件となった場合のパターンについて解説します。
身柄事件とは
身柄事件とは、警察に逮捕・勾留され、身柄を拘束された状態のまま進められる刑事事件のことです。逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断された場合に逮捕・勾留が行われ、逮捕は最大72時間、勾留されると最大で20日間にわたり身柄が拘束されます。逮捕・勾留中は外部との連絡や自由な生活が制限されるため、心身への負担が大きく、学校・職場・家族関係に深刻な影響を及ぼします。
在宅事件とは
在宅事件とは、逮捕や勾留をされずに進む刑事事件です。逮捕・勾留はかならずしなければならないわけではなく、逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に行われます。警察や検察から事情聴取を受けるために呼び出されることがありますが、身柄拘束を受けないため、従来どおり社会生活を継続しながら捜査に対応できます。ただし、身柄を拘束されていないだけで、刑事事件の被疑者であることに変わりはありません。場合によっては起訴され、裁判に発展する可能性もあるため、慎重な対応が必要です。
在宅事件となる場合には次のパターンがあります。
逮捕も勾留もされない
逮捕も勾留もされない場合、警察は被疑者を任意で取り調べ、身柄を拘束しないまま捜査が進められます。軽微な事件であったり、身元が明らかで逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断された場合に、在宅事件として扱われることがあります。
ただし、逮捕や勾留がない場合でも、警察から任意の事情聴取のために警察署へ呼び出されることがあります。この呼び出しに応じなかった場合、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されて逮捕・勾留される可能性があります。また、反省の意思が見られないと評価され、起訴される可能性が高まることもあるため、注意が必要です。
逮捕されたが勾留されなかった
一時的に逮捕はされたものの、勾留請求が却下された場合や、検察が勾留請求を行わなかった場合には、釈放後に在宅事件として扱われます。この場合も、その後の取り調べや書類送検は続くため、事件自体は続きます。社会復帰が一時的に可能でも、気を抜かず対応を継続する必要があります。
逮捕・勾留された後に釈放された場合
一時的に逮捕され、勾留されたものの、勾留に対する準抗告が認められたり、勾留延長をしない場合があり、勾留後に釈放された後は在宅事件として扱われます。この場合もその後に捜査が進み起訴される可能性はあります。
身柄事件と在宅事件の違い
身柄事件と在宅事件の最大の違いは、被疑者の身体が拘束されているか否かです。身柄事件では、警察に逮捕・勾留され、取り調べや捜査が拘束下で進められるため、自由が制限されます。一方在宅事件では、身柄を拘束されないため、通常の生活を続けながら捜査に応じることになります。精神的・経済的な負担の面では、在宅事件の方が比較的軽く済みますが、いずれも起訴される可能性はあり、法的リスクは共通しています。
在宅事件の注意点
在宅事件となった場合には、身柄が拘束されていない分有利に見えるのですが、いくつか注意点があります。
捜査が進んでいることに気づかない
在宅事件では逮捕がないため、自分が捜査の対象になっていることに気づきにくい場合があります。取り調べが行われるときには容疑が固まっており、下手な対応をしたために逮捕・勾留される可能性があります。また、何の準備もないまま起訴されることもあり、起訴状の送達を受けて突然対応を迫られます。
捜査が長期化しやすい
在宅事件は拘束の必要がないことから、捜査機関も比較的長期間かけて慎重に調査を行う傾向があります。そのため、事件の終結までに数か月以上かかることも珍しくありません。生活が続けられる一方で、精神的な不安が長引くというデメリットもあります。
後に逮捕・勾留される可能性はある
在宅事件として始まった場合でも、後になって逮捕・勾留されるリスクは常にあります。特に証拠隠滅や関係者との接触が疑われた場合、突然の逮捕に発展することもあります。
弁護士選任が遅れる
在宅事件では身柄拘束がないため、弁護士を選任せずに対応しがちです。しかし、適切な法的アドバイスを受けずに警察の取り調べを受けることで、誤った供述をしてしまい不利な調書が作成されるリスクもあります。
まとめ
身柄事件と在宅事件には、加害者の身体拘束の有無という違いがあります。在宅事件には捜査の長期化や突然の逮捕といったリスクがあります。そのため、「在宅だから大丈夫」と油断せず、早い段階で弁護士に相談して、適切に対応することが重要です。