リベンジポルノで逮捕された場合、犯罪の性質上、身柄拘束が長引き、厳しい処分が予想されることから、不安を感じる方も少なくありません。また、リベンジポルノに対する社会一般の厳しい見方からも、強い非難は免れないでしょう。
「リベンジポルノ」とは、一般に、元交際相手や元配偶者に対する嫌がらせや復讐(リベンジ)を目的として、交際中や婚姻中に撮影された性的な画像を、被写体となった相手の同意なくインターネット上に公開し、不特定または多数の者に公表する行為を指すものとされています。
以下では、リベンジポルノ防止法の制定の趣旨および目的、私事性的画像記録等の定義、リベンジポルノ防止法違反の罰則、リベンジポルノ画像と他の法律違反との関係、問題となる事例などについて説明します。なお、本稿においては、リベンジポルノ防止法の条文は条文番号のみを掲げています。
リベンジポルノ被害の拡大と法整備の経緯
近年、スマートフォンやパソコン、タブレットなどの電子機器の急速な発達と普及により、個人が撮影した画像や動画を誰もがインターネット上で容易に公開できるようになりました。これに伴い、リベンジポルノによる被害が社会問題として顕在化しています。
しかし、従来はリベンジポルノを直接規制する法律が存在せず、わいせつ物頒布罪、名誉毀損罪、児童ポルノ禁止法違反などの既存の刑罰法規による対応には限界がありました。被写体となった人物は、画像の拡散により、長期にわたって多大な精神的苦痛を受ける可能性があり、より実効性のある法的手段の整備が求められていたのです。
そうした中、平成25年(2013年)10月に発生した三鷹ストーカー殺人事件を契機として、リベンジポルノ問題への社会的関心が高まり、平成26年(2014年)11月19日には、リベンジポルノ行為を直接的に規制する「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」(通称:リベンジポルノ防止法)が成立し、同月27日に公布・施行されました。
リベンジポルノ防止法の制定の趣旨および目的
リベンジポルノ防止法は、リベンジポルノによって個人の名誉や私生活の平穏が侵害されることによる被害の発生や拡大を防止することを目的としています。この法律では、被害者の性的画像等を、その撮影の対象とされた者(以下「撮影対象者」といいます)の同意なく公表または提供する行為を処罰の対象としています。
さらに、性的画像等の流通によって名誉や私生活の平穏が侵害された場合には、プロバイダに対する削除要請の特例措置や、被害者への支援体制の整備などについても規定しています(目的・1条)。
「名誉」とは、その人の人格的価値について、社会からどのように評価されているかを意味します。また、「私生活の平穏」とは、性的な事柄をみだりに公開されない権利、すなわち自己の性的情報について自ら決定できる権利(性的プライバシー)を指します。
私事性的画像記録等の定義
「私事性的画像記録」について
リベンジポルノ防止法は、違法となる画像について「私事性的画像記録」という言葉を用いています(2条1項)。
「私事性的画像記録」とは、撮影対象者が第三者の目に触れることを前提とせずに、プライベートな目的で撮影された性的な写真や動画のことをいいます。
すなわち、「撮影対象者において第三者が閲覧することを前提とせずに撮影されたもの」であることが、「私事」性の要件とされています。
「私事性的画像記録」は、電子情報(いわゆる電子データ)などの電磁的記録その他の記録を対象としています。
「私事性的画像記録」とは、次の①から③のいずれかに該当する画像であることが必要です。ただし、これらの画像のうちで、それが出回り、第三者が閲覧することを認識したうえで、撮影対象者が任意に承諾し、または撮影をした画像については除かれます。
①性交または性交類似行為の人の姿態が撮影されたもの(異性間・同性間の性交行為、手淫・口淫行為など)
②性器等(性器・肛門・乳首)を触ったり、触られている人の姿態が撮影されたものであって、性欲を興奮させまたは刺激するもの(性器、肛門または乳首を触る行為など)
③衣服の全部または一部を着けない人の姿態が撮影されたものであって、とくに性的な部位(性器等とその周辺部、臀部・胸部)が露出されたり、強調されているものであり、性欲を興奮させまたは刺激するもの(全裸または半裸の状態で扇情的なポーズをとらせているものなど)
要件については、上記のように厳格に規定されています(2条1項)。したがって、たとえば恋人と下着姿で並んでベッドに横になっているだけの画像は、「私事性的画像記録」には該当しないと解されています。
また、アダルトビデオやグラビア写真のように、撮影対象者が第三者に見られることを認識したうえで撮影を許可した性的画像も、「私事性的画像記録」には含まれません。
「私事性的画像記録物」について
リベンジポルノ防止法は、違法となる記録媒体について「私事性的画像記録物」という言葉を用いています(2条2項)。
「私事性的画像記録物」とは、上記①~③を撮影した画像を記録した有体物としての記録媒体のことをいいます。(これらの画像のうちで、それが出回り、第三者が閲覧することを認識したうえで、撮影対象者が任意に承諾し、または撮影をした画像については除かれます。)
「私事性的画像記録物」は、有体物を対象とするもので、私事性的画像記録を記録した「物」であれば、写真、紙、フィルム、CD-ROM、DVD、USBメモリなどアナログ方式かデジタル方式かを問わず、有体物であれば対象となるとされています。
リベンジポルノ防止法違反の罰則
リベンジポルノ防止法違反の罰則は、下記表の番号、罪名、処罰対象となる行為、罰条に対応するとおりです。
なお、罰則に記載されている懲役は、令和7年(2025年)6月1日(改正刑法施行日)から「拘禁刑」に表記が変更されます。
番号 | 罪名 | 処罰対象となる行為 | 罰条 | 罰則 |
① | 私事性的画像記録公表罪 | 第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回路を通じて私事性的画像記録を不特定または多数の者に提供する行為 | 3条1項 | 3年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金 |
② | 私事性的画像記録物公表罪 | ①の方法で、私事性的画像記録物を不特定もしくは多数の者に提供し、または公然と陳列する行為 | 3条2項 | 3年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金 |
③ | 公表目的提供罪 | ①、②に定める公表行為をさせる目的で、電気通信回路を通じて私事性的画像記録を提供し、または私事性的画像記録物を提供する行為 | 3条3項 | 1年以下の懲役(拘禁刑)または30万円以下の罰金 |
番号 | ① |
罪名 | 私事性的画像記録公表罪 |
処罰対象となる行為 | 第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回路を通じて私事性的画像記録を不特定または多数の者に提供する行為 |
罰条 | 3条1項 |
罰則 | 3年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金 |
番号 | ② |
罪名 | 私事性的画像記録物公表罪 |
処罰対象となる行為 | ①の方法で、私事性的画像記録物を不特定もしくは多数の者に提供し、または公然と陳列する行為 |
罰条 | 3条2項 |
罰則 | 3年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金 |
番号 | ③ |
罪名 | 公表目的提供罪 |
処罰対象となる行為 | ①、②に定める公表行為をさせる目的で、電気通信回路を通じて私事性的画像記録を提供し、または私事性的画像記録物を提供する行為 |
罰条 | 3条3項 |
罰則 | 1年以下の懲役(拘禁刑)または30万円以下の罰金 |
このように、上述した画像を不特定または多数の者に閲覧できるよう、インターネット上で公開することが処罰の対象とされています。「第三者が撮影対象者を特定することができる方法で」とされていますので、被写体である撮影対象者の特定ができるものであることが前提です。
そして、私事性的画像記録を不特定または多数の者に公表するだけでなく、別の者に公表させることを目的として、上述した画像を提供したりする行為も処罰の対象となっています。
なお、上記①から③までの罪は、告訴がなければ公訴提起できない親告罪になっています(3条4項)。
リベンジポルノ画像と他の法律違反との関係
リベンジポルノ画像については、名誉毀損罪、わいせつ図画公然陳列罪、児童ポルノ公然陳列罪が成立する可能性があります。以下に、それぞれの罪について説明します。
名誉毀損罪(刑法230条)
撮影対象者の裸の画像を無断でインターネットに公開した場合、それがその者の人格的価値に対する社会的な評価を毀損したと判断されれば、名誉毀損罪に問われ、3年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
わいせつ図画公然陳列罪(刑法175条)
無断でインターネット上に公開した撮影対象者の画像に性器が写っていた場合、当該画像が「わいせつ」と認定されれば、わいせつ図画公然陳列罪に問われ、2年以下の懲役(拘禁刑)もしくは250万円以下の罰金もしくは科料に処せられ、または懲役(拘禁刑)および罰金を併科される可能性があります。
児童ポルノ公然陳列罪(児童ポルノ禁止法7条6項)
撮影対象者が18歳未満の児童で、その児童の全裸または半裸の画像をインターネット上に公開した場合、その画像が児童ポルノと判断されれば、児童ポルノ公然陳列罪に問われ、5年以下の懲役(拘禁刑)もしくは500万円以下の罰金に処せられ、またはこれを併科される可能性があります。
問題となる事例
リベンジポルノ防止法違反で問題となる事例は、以下のとおりです。
死者の私事性的画像記録をインターネット上に公開するケース
撮影対象者の死亡後に、私事性的画像記録をインターネット上に公開した場合、私事性的画像記録公表罪が成立するかが問題になります。
この点については、2つの見解が示されています。
1つは、「自己の性的な情報に対する他者の関心を任意に遮断する権利という観点から、撮影対象者が死亡している場合、法益主体性を欠くため公表罪は成立しない」(園田寿「リベンジポルノ防止法について」刑事法ジャーナル44号50頁)とするものです。
もう1つは、「条文上、撮影対象者が生存していることは要件とされていない。また、撮影対象者が私事性的画像記録の公表を承諾していると思われる特段の事情がない限り、私生活上の性に関する情報について自分で決定することができる権利は、死後においても尊重されるべきである。実行行為の時点では、撮影対象者が既に死亡しており、法益主体が実在していないこととなるが、かかる場合にも本罪は成立しうると解すべきである」(岡田好史「リベンジポルノをめぐる新たな問題」専修法学論集138号50頁)とするものです。
最近、有名な歌手の死後の性的画像の公表が問題となっています。
リベンジポルノ防止法は、私生活上の平穏や性的プライバシーの保護が目的である以上、撮影対象者がすでに死亡している場合は、死者の「私生活上の平穏」は問題とならず、保護すべき法益の主体は存在しないので、私事性的画像記録公表罪が成立するかには疑問の余地があります。
ただし、その画像の内容によっては、刑法の「わいせつ図画」と判断される可能性があると考えられます。
コラージュ画像をインターネット上に公開するケース
ある人の顔と、別の人の首から下の裸体を合成して作成したコラージュ画像をインターネット上に公開する場合です。
顔のみが写っている人については、私事性的画像記録の撮影対象者と認めることはできないので、2条1項所定の姿態が撮影された画像ではなく、同人を撮影対象者とする私事性的画像記録にはあたりません。
一方、裸体のみが写っている人については、その姿態が2条1項所定のいずれかの姿態に該当し、かつ、私事性が認められる場合には、同人を撮影対象者とする私事性的画像記録にあたることになります。
この場合、私事性の要件は、顔のみが写っている人ではなく、裸体のみが写っている人について判断されます。
ところで、上述したリベンジポルノ防止法違反の罰則の対象とされるには、「第三者が撮影対象者を特定することができる方法で」行われることが要件となりますので、背景等から裸体のみで撮影対象者を特定できるなど特段の事情がない限り、一般的に、裸体のみで撮影対象者を特定することは困難であると思われます。
ただし、コラージュ画像が上記罰則の対象とならない場合でも、上述した名誉毀損罪、わいせつ図画公然陳列罪、児童ポルノ公然陳列罪の要件を満たすときは、これらの罪が成立することになります。
ディープフェイク画像をインターネット上に公開するケース
リベンジポルノ防止法では、「私事性的画像記録」を人の姿態が撮影された画像と定義し、「撮影された画像」しか規制されていないため、撮影以外の方法で描写された画像は含まれないことになります。
したがって、絵やコンピュータグラフィックのように、撮影以外の方法で描写された画像は含まれないことになります。
では、AI技術を用いて、服を着て撮影された写真から、服部分だけを削除し、胸部や陰部が露出された裸の写真に変換してしまう写真(以下「ディープフェイク画像」といいます)が作成された場合、ディープフェイク画像は「私事性的画像記録」といえるのでしょうか。
ディープフェイク画像は、本物の胸部や陰部が写っているわけではありません。
しかし、その画像を見た人が、作成された偽の裸の写真を見て、被害者が真実そのような姿態をさらしたかもしれないと思えるほど、「撮影された画像」と同一性があると認められる場合には、ディープフェイク画像であっても、被害者の性的プライバシーは侵害されているといえるので、「私事性的画像記録」に該当しうると解する余地があります(平沢勝栄・三原じゅん子・山下貴司「よくわかるリベンジポルノ防止法」54頁参照)。
なお、ディープフェイク画像について、「実在する児童の姿態を、視覚により認識することができる方法で描写したのと認められる場合は、児童ポルノに該当しうる」とされており、作成のもとになった写真などの児童が実在することが確認されれば、児童ポルノ禁止法の規制の対象になるものと解されています。
まとめ
リベンジポルノで逮捕された場合、不安や疑問が募ることと思います。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すためには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。
リベンジポルノは、個人の名誉や性的プライバシーを侵害するものであり、しかも長期にわたり被害者に多大な精神的苦痛を与えるものです。リベンジポルノ行為を軽視することは許されません。
弁護士は、事件の内容に応じた最適な戦略を立て、捜査機関や裁判所に対して適切に働きかけます。経験豊富な弁護士であれば、起訴・不起訴の見通しについても具体的なアドバイスを受けることができ、被疑者に有利な結果を引き出す可能性が高まります。リベンジポルノでお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。