商標法違反で逮捕されたら

商標法違反で逮捕されたら

商標法違反で逮捕された場合、今後どうなるのか不安に感じる方は多いでしょう。

実際に、偽ブランド品をインターネットで販売したとして、警察に検挙されたと報道されることもあります。そのため、被疑者のご家族にとっても、今後の処分について不安を感じるのは自然なことです。

とはいえ、「商標法違反」と言われても、具体的に何が問題なのか、よくわからないという方も少なくありません。

ここで、身近な例を挙げてみましょう。皆さんは商品を購入する際、その商品に付いているマークを目印に選ぶことはありませんか?このマークこそが「商標」と呼ばれるもので、商標法違反が問題になるのは、こうした商標の不正な使用に関してなのです。

そこで以下では、商標法における基本概念、商標法違反とは、商標法違反の罪の罰則、よくある事例などについて説明します。

なお、以下の商標法における条文は、単に条文番号のみを掲げています。

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目次

商標法における基本概念

商標法における基本概念について見てみましょう。

商標制度

商標とは、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービス(役務)を他人(他社)のものと区別するために使用するネーミングやマーク(識別標識)のことをいいます。

事業者は、商品やサービスに「商標」を付すことで、それが自社のものであると示すことができます。そして事業者は、営業努力によって商品やサービスに対する信頼性が増せば、商標にブランドイメージが付いてきます。もし、その商標を勝手に他人(他社)に使われた場合には、せっかく築いたブランドイメージが崩れたり、売上を失うおそれもあります。

商標制度は、このように、事業者が商品やサービスに付ける商標を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図ることを通じて、産業の発達に寄与するとともに、あわせて需要者(一般顧客)の利益を保護することを目的としています(1条)。

商標は、登録していなくても使用することは可能です。しかし、商標登録をしていない場合、同じまたは似た商標を第三者に登録されてしまうと、その商標権者(登録した相手)から、商標権の侵害として警告を受けたり、損害賠償を請求されたりする可能性があります。

商標の機能

商標は、上述したように、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービス(役務)を他人(他社)のものと区別するために使用するネーミングやマーク(識別標識)です。

自己の提供する商品やサービスと、他人のものとを区別する機能のことを、「自他商品の識別力」および「役務の識別力」といいます。この識別力こそが、商標の本質的な機能であると考えられています。

そして、商標の機能には、自他商品・役務識別機能から派生したものとして、出所表示機能品質保証機能宣伝広告機能の三大機能があると解されています。

商標の三大機能
  1. 出所表示機能:一定の商標(ネーミングやマーク)を付した商品やサービス(役務)は一定の出所から流出していることを示す機能
  2. 品質保証機能:同一の商標(ネーミングやマーク)を使用した商品やサービス(役務)には同一の品質があることを保証する機能
  3. 宣伝広告機能:需要者に商標(ネーミングやマーク)を手掛かりとして購買意欲を起こさせる機能

商標権

商標は、事業者(企業)にとって利益をもたらす重要な財産といえます。そして、この財産を保護するための権利が「商標権」です。

商標権は、「マーク」と、それを使用する「商品やサービス(役務)」の組み合わせによって成立します。商標権を取得すると、その商標を特定の商品やサービスについて独占的に使用できる権利が与えられます。この効力は、同一または類似する商標や商品・役務にも及びます。

ただし、商標権は著作権のように自然に発生するものではありません。商標を自分の財産として守るためには、特許庁へ出願し、登録を受ける必要があります。登録しておかなければ、他人に模倣されたり、無断で使用されたりするおそれがあります。

商標登録を申請する際には、「商標登録を受けようとする商標」だけでなく、その商標を使用する「商品」または「役務(サービス)」も一緒に、「指定商品」や「指定役務」として願書に記載します。この指定内容によって、商標権の効力が及ぶ範囲が決まります。

また、指定商品・指定役務には「区分」も指定します。これは商品やサービスを一定の基準に従って分類したもので、第1類~第45類までに分かれています。

商標登録を受けるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。

商標登録を受けるための2つの要件
  1. 事業者が自己の業務にかかる商品・サービスに使用するマーク(識別標識)であること
  2. 自己の商品・サービスと、他人の商品・サービスとを区別できること

登録できる「商標」は、文字や図形、記号、立体的形状などからなる商標だけでなく、音、色彩のみ、ホログラム、図形等を付ける位置、動きなどの商標も、登録できます。

ここで、商標権の内容について見てみましょう。

商標権の効力には、専用権禁止権の2つの効力があります。

専用権

専用権とは、商標権者が、指定商品または指定役務について登録商標を独占的に使用できる権利をいいます(商標法25条)。

ここでいう「登録商標」とは、商標登録を受けた商標のことです。

商標権者は、専用権の範囲内で自ら商標を使用できるだけでなく、他人に使用権を設定・許諾することも可能です。また、他人による無断使用に対しては、差止請求権を行使したり、一定の条件のもとで損害賠償を請求したりすることができます。

たとえば、以下のような場合には商標権侵害に該当します。

商標権侵害に該当する場合
  • 登録商標と同一の商標を、指定商品と同一の商品に無断で使用した場合
  • 登録商標と同一の商標を、指定役務と同一の役務に無断で使用した場合

なお、商標権者が専用使用権を他人に設定した場合は、たとえ商標権者であっても、その専用使用権の範囲では商標を使用することはできません(25条ただし書、30条)。

禁止権

禁止権とは、商標権者が、登録商標の類似範囲における他人の商標の使用を排除できる権利のことをいいます(37条1号)。

登録商標の類似範囲」とは、下記の3つの場合です。

登録商標の類似範囲
  1. 指定商品または指定役務について登録商標に類似する商標を使用する場合
  2. 指定商品または指定役務に類似する商品または役務について登録商標を使用する場合
  3. 指定商品または指定役務に類似する商品または役務について登録商標に類似する商標を使用する場合

商標権者は、禁止権の範囲内で他人の商標使用を排除することができます具体的には、無断使用に対して差止請求権を行使したり、一定の条件のもとで損害賠償を請求したりすることが可能です。

ただし、禁止権には、商標権者自身が商標を使用する権利は含まれていません。商標権者といえども、他人の権利と抵触しない限りにおいて、事実上の使用が許容されるにすぎないのです。

また、他人が禁止権の範囲で登録商標またはこれに類似する商標を使用した場合には、商標権侵害とみなされます。

たとえば、商標法第37条第1号では、以下のような場合にも商標権侵害とみなすと規定されています。

商標権侵害とみなす場合
  1. 指定商品または指定役務は同じだが、登録商標に類似する商標を使用する場合
  2. 指定商品または指定役務に類似する商品や役務について、登録商標と同一の商標を使用する場合
  3. 指定商品または指定役務に類似する商品や役務について、登録商標に類似する商標を使用する場合

このように、商標権者は、たとえ商標が完全に一致していなくても、類似する商標が類似の商品に使われている場合であっても、その使用を差し止めることができるのです。

間接侵害

商標法では、専用権や禁止権を侵害する行為だけでなく、その予備的な行為についても、商標権侵害とみなす規定が設けられています(商標法37条2号ないし8号)。

たとえば、登録商標に体現された信用を損なうおそれが高い行為として、指定商品に類似する商品やその包装に、登録商標またはこれに類似する商標を付したうえで、譲渡・引渡し・輸出を目的として所持するようなケースが挙げられます。これらは、将来的に本格的な商標権侵害につながるおそれのある「予備的行為」でありながら、商標法上は侵害行為そのものとみなされるのです。

このように、商標法37条2号ないし8号に該当する行為は、当該商標権または専用使用権を侵害したものと法的に扱われるため、これらは「間接侵害(またはみなし侵害)」と呼ばれます。

商標法違反とは

商標法は、商標権を保護するための法律です。そのため、商標権を侵害すると、商標法違反として処罰の対象になる可能性があります。

商標権侵害とは、権限のない者が次のいずれかの行為を行うことを指します。

商標権侵害に該当する行為
  1. 専用権の範囲で登録商標を使用する行為(指定商品・指定役務に対する使用)
  2. 禁止権の範囲で商標を使用する行為
  3. 将来的な侵害につながる間接侵害行為

それでは、具体的にどのようなケースが商標権侵害に当たるのか、順に見ていきましょう。

商標権者の許可なく登録商標を使用している場合

商標権者の許可なく登録商標を使用している場合は、商標権侵害に該当します

使用には、商標を付す行為や付したものを譲渡する行為も含まれますので、ブランドのコピー商品・偽ブランド商品の販売などが商標権侵害にあたります(78条)。

業務で登録商標を使用している場合

商標法は、先に述べたとおり、事業者の活動を規制するための法律です。

そのため、事業とは無関係な場面で登録商標を使用しても、通常は商標権侵害にはなりません

しかし、たとえばネットオークションなどで、私的な使用の範囲を超え実質的に事業と変わらない形で商標を使用している場合には、商標権侵害とみなされる可能性があります

専用権を侵害して登録商標を使用している場合

専用権の範囲は、上述したように、指定商品または指定役務について登録商標の使用をすることです。

そのため、他人が、登録商標と同一の商標を指定商品または指定役務と同一なものに使用している場合には、専用権侵害、すなわち商標権侵害になります

なお、他人が、指定商品や指定役務とは全く関係のない範囲の商品や役務で登録商標を使用している場合には、基本的には商標権侵害には問われません

禁止権を侵害して登録商標を使用している場合

禁止権は、上述したように、登録商標の類似範囲に及びます。

そのため、他人が、登録商標の類似範囲で登録商標または登録商標に類似する商標を使用している場合には、禁止権侵害、すなわち商標権侵害になります

なお、他人が、指定商品や指定役務、あるいはこれらに類似する商品や役務で商標を使用した場合でも、登録商標に類似していない場合には、基本的には商標権侵害には問われません

商標権者の許可なく登録商標を使用する準備をしている場合

商標権者から登録商標の使用の許可をもらっていないのに、登録商標を使用した商品の販売の準備をしている場合には、販売の準備段階であっても、商標権侵害に問われる可能性があります(78条の2)。ブランドのコピー商品・偽ブランド商品の販売目的所持など商標権のみなし侵害の場合です。

商標法違反の罪の罰則

商標法違反に対する罰則は、以下の表に示す違反行為、処罰対象者、罰条とそれに対応する罰則のとおりです。

番号違反行為処罰対象者罰条罰則
商標権または専用使用権を侵害する行為(②を除く)商標権または専用使用権を侵害した者78条10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれを併科
商標権または専用使用権を侵害する行為とみなされる行為37条または67条の規定により商標権または専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行った者78条の25年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはこれを併科
番号
違反行為商標権または専用使用権を侵害する行為(②を除く)
処罰対象者商標権または専用使用権を侵害した者
罰条78条
罰則10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれを併科
番号
違反行為商標権または専用使用権を侵害する行為とみなされる行為
処罰対象者37条または67条の規定により商標権または専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行った者
罰条78条の2
罰則5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはこれを併科

商標法違反は、故意に行った場合のみ処罰の対象となります。そのため、商標権を侵害していると知らずに行った場合、つまり過失による侵害は処罰されませんまた、商標法では未遂犯も処罰されないとされています。

よくある事例

商標法違反でよくある事例は、以下のとおりです。

真正品を改造して販売するケース

正規に購入した商品(真正品)をそのままの状態で販売しても、販売する行為には、商標の本質的機能である「自他商品・役務識別機能」はもちろん、その派生機能である「出所表示機能」や「品質保証機能」を害するおそれがないので、商標権侵害にはあたりません

しかし、真正品を改造する行為(商標をはがすなど)は、これらの機能を損なうおそれがあるため、商標権侵害に該当し、商標法違反に問われる可能性があります

販売が予定されていないサンプルや不良品を販売するケース

商標権者が販売を予定していなかったサンプル品や不良品が、何者かによって持ち出されるなどして流通してしまった場合、それらを販売する行為は、商標の本質的機能である「自他商品・役務識別機能」はもちろん、その派生機能である「出所表示機能」や「品質保証機能」を害するおそれがあるので、商標権侵害にあたり商標法違反に問われます

真正品を小分けや再包装して販売するケース

正規に購入した商品(真正品)であっても、これを小分けしたり、新たな包装に詰め替えたりして販売する行為は、商標の本質的機能である「自他商品・役務識別機能」はもちろん、その派生機能である「出所表示機能」や「品質保証機能」を害するおそれがあるので、商標権侵害にあたり商標法違反に問われます

偽ブランド商品をインターネットで販売するケ―ス

有名ブランドのマークやデザインなどを模した商品を製造する行為はもちろん、店舗やインターネットオークションで販売・譲渡したり、販売のために所持したりする行為は、商標の本質的機能である「自他商品・役務識別機能」はもちろん、その派生機能である「出所表示機能」や「品質保証機能」を害するおそれがあるので、商標権侵害にあたり商標法違反に問われます

まとめ

商標法違反で逮捕された場合、不安や疑問が募ることと思います。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すためには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。

弁護士は、事件の内容に応じた最適な戦略を立て、捜査機関や裁判所に対して適切に働きかけます。経験豊富な弁護士であれば、起訴・不起訴の見通しについても具体的なアドバイスを受けることができ、被疑者にとって有利な結果を導く可能性が高まります。商標法違反でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

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