ひき逃げ・当て逃げで逮捕されたら

ひき逃げ・当て逃げで逮捕されたら

ひき逃げ・当て逃げで逮捕されたら、いつまで身体拘束が続くのか不安に感じることでしょう。

被疑者の家族にとっても、逮捕がいつまで続くのか、また検察官や裁判所の判断がどうなるのかが分からず、不安な日々を過ごすことになります。

まして、交通事故を起こしていれば、損害賠償の問題もあるためなおさらのことでしょう。

以下では、ひき逃げの内容当て逃げの内容ひき逃げ・当て逃げで逮捕された後はどうなるのかひき逃げ・当て逃げの罪と他の罪との関係ひき逃げ事件の現状よくある事例などについて説明します。

なお、「道路交通法」は「道交法」、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」は「自動車運転死傷処罰法」と略称します。

また、道交法67条2項では「交通事故」とは「車両等の交通による人の死傷もしくは物の損壊」をいうと定義されています。

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目次

ひき逃げの内容

以下では、ひき逃げの内容について見ていきましょう。

ひき逃げとは

ひき逃げとは、自動車運転者が車両等を運転中に人を死傷させる交通事故(この場合は「人身事故」になります)を起こし、負傷者を救護するなど必要な措置を行わずに逃走することをいいます。

ひき逃げに対応する罪

ひき逃げに対応する罪は、救護義務違反の罪報告義務違反の罪の2つになります。

それぞれの罪について見ていきましょう。

救護義務違反の罪

道交法は、交通事故があったときは、運転者等は、「直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない」(72条1項前段)として救護義務を定めています。

救護義務に違反した場合(救護義務違反の罪)には、内容に応じて3つの罰則が設けられています。

第1に、軽車両を除く車両等の運転者が、人の死傷があったにもかかわらず救護義務を果たさなかった場合には、5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処せられます(道交法117条1項)。

第2に、人の死傷が軽車両を除く車両等の運転者の運転に起因するにもかかわらず、当該運転者が救護義務を果たさなかった場合には、10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処せられます(道交法117条2項)。

第3に、軽車両の運転者や車両等の運転者以外の乗務員が、人の死傷があったにもかかわらず救護義務を果たさなかった場合には、1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金に処せられます(道交法117条の5第1項1号)。

本稿では、第2の救護義務違反の罪の場合を前提としています。

救護義務として求められる対応は、以下のとおりです。

救護義務として求められる行動
  • 直ちに車両等の運転を停止する
  • 大声で周囲に助けを求める
  • 負傷者への応急手当や応急救護処置を行う
  • 119番通報(救急車の要請)やAEDの手配を依頼する
  • 負傷者を安全な場所に移動させる

これらの対応を適切に行うことが救護義務の履行にあたります。

報告義務違反の罪

道交法は、交通事故があったときは、運転者等は、警察官に対して、「当該交通事故が発生した日時および場所、当該交通事故における死傷者の数および負傷者の負傷の程度ならびに損壊した物およびその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物ならびに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない」(72条1項後段)として報告義務を定めています。

報告義務に違反した場合(報告義務違反の罪)は、3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金に処せられます(道交法119条1項17号)。

救護義務違反の罪と報告義務違反の罪との罪数関係

救護義務違反の罪と報告義務違反の罪は、判例上、観念的競合の関係にあると解されており、重い救護義務違反の罪の刑で処断されます。

以下では、ひき逃げに対応する罪をまとめて「ひき逃げの罪」とし、その刑は「10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」になります。

当て逃げの内容

以下では、当て逃げの内容について見ていきましょう。

当て逃げとは

当て逃げとは、自動車運転者が車両等を運転中に物を損壊する交通事故(この場合は「物損事故」になります)を起こし、危険防止措置や警察への報告を行わずに逃走することをいいます。

車両等を運転中に、自動車、バイク、自転車、建物、信号機、ガードレールなどを損壊すれば、物損事故になります。

当て逃げに対応する罪

当て逃げに対応する罪は、危険防止措置義務違反の罪報告義務違反の罪の2つになります。

それぞれの罪について見ていきましょう。

危険防止措置義務違反の罪

危険防止措置義務違反の罪は、道交法72条1項前段に規定されています。道交法72条1項前段の規定内容については、ひき逃げの「救護義務違反の罪」の項で上述したとおりです。

危険防止措置義務違反の罪は、1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金に処せられます(道交法117条の5第1項1号)。

危険防止措置義務として求められる対応は、次のとおりです。

危険防止措置として求められる行動
  • 直ちに車両等の運転を停止する
  • 事故車両を安全な場所(空き地など)に移動させ、エンジンを切る
  • ハザードランプを点灯し、停止表示器材を設置する
  • 道路に散乱した破損物を片づけ、後続車が安全に通行できるよう誘導する
  • 周囲の人に交通整理を依頼する

これらの行動を適切に行うことが、危険防止措置義務の履行にあたります。

報告義務違反の罪

報告義務違反の罪は、道交法72条1項後段に規定されています。道交法72条1項後段の規定内容については、ひき逃げの「報告義務違反の罪」の項で上述したとおりです。

報告義務違反の罪は、3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金に処せられます(道交法119条1項17号)。

危険防止措置義務違反の罪と報告義務違反の罪との罪数関係

危険防止措置義務違反の罪と報告義務違反の罪は、判例上、観念的競合の関係にあると解されており、重い危険防止措置義務違反の罪の刑で処断されます。

以下では、当て逃げに対応する罪をまとめて「当て逃げの罪」とし、その刑は「1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金」となります。

ひき逃げ・当て逃げで逮捕された後はどうなるのか

以下では、ひき逃げ・当て逃げで逮捕された後にどうなるのかについて見ていきましょう。

ひき逃げの場合

ひき逃げで逮捕された場合には、人身事故の内容のいかんを問わず、少なくとも逃亡のおそれがあるものとして、10日間の勾留がなされているのが一般的です。

検察官は原則として、勾留期間の10日間で起訴・不起訴を判断しなければなりません。

しかしその期間内に判断できない場合でも、やむを得ない特段の事情がない限り、勾留延長を裁判官に請求せず、被疑者を任意に釈放して在宅捜査に切り替えるのが一般的です。

当て逃げの場合

当て逃げで逮捕された場合でも、住居不定である、罪証隠滅のおそれがある、逃亡のおそれがある、のいずれかに該当する場合を除き、勾留されないのが一般的です。

多くの場合、捜査機関は被疑者を任意に釈放し、その後は在宅で捜査が進められます。

ひき逃げ・当て逃げの罪と他の罪との関係

以下では、ひき逃げ・当て逃げの罪と他の罪との関係について見ていきましょう。

ひき逃げの場合

自動車運転者は、人身事故を起こしているので、人身事故の罪と、ひき逃げの罪(10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)との併合罪加重による処断刑について見ていきましょう。

なお、以下の人身事故の罪の括弧内で示す条文は、いずれも自動車運転死傷処罰法の規定です。

危険運転致死傷罪(2条)とひき逃げの罪

①危険運転致死罪(2条)は1年以上の有期拘禁刑(最高刑が20年)ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、1年以上30年以下の拘禁刑になります。

②危険運転致傷罪(2条)は15年以下の拘禁刑ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、22年6か月以下の拘禁刑になります。

危険運転致死傷罪(3条)とひき逃げの罪

①危険運転致死罪(3条)は15年以下の拘禁刑ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、22年6か月以下の拘禁刑になります。 

②危険運転致傷罪(3条)は12年以下の拘禁刑ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、18年以下の拘禁刑になります。

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(4条)とひき逃げの罪

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(4条)は12年以下の拘禁刑ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、18年以下の拘禁刑になります。

過失運転致死傷罪(5条)とひき逃げの罪

過失運転致死傷罪(5条)は7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、15年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金になります。

無免許運転による加重の罪(6条)とひき逃げの罪

①無免許運転による危険運転致傷罪(2条〔3号を除く〕)は6か月以上の有期拘禁刑(最高刑が20年)ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、6か月以上30年以下の拘禁刑になります。

②無免許運転による危険運転致死罪(3条)は6か月以上の有期拘禁刑(最高刑が20年)ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、6か月以上30年以下の拘禁刑になります。

③無免許運転による危険運転致傷罪(3条)は15年以下の拘禁刑ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、22年6か月以下の拘禁刑になります。 

④無免許運転による過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(4条)は15年以下の拘禁刑ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、22年6か月以下の拘禁刑になります。

⑤無免許運転による過失運転致死傷罪(5条)は10年以下の拘禁刑ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、15年以下の拘禁刑になります。

なお、危険運転致死罪(2条〔3号を除く〕)を犯した者が、併せて、無免許運転の罪(道交法117条の2の2第1項1号)とひき逃げの罪を犯した場合は、3罪が併合罪となり、危険運転致死罪(2条)は1年以上の有期拘禁刑(最高刑が20年)、無免許運転の罪は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金ですので、ひき逃げの罪との併合罪加重による処断刑は、1年以上30年以下の拘禁刑になります。

当て逃げの場合

自動車運転者は、物損事故を起こしていますが、過失による物損事故(器物損壊や建造物損壊)については処罰規定がないため、当て逃げの罪(1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)については他の罪との併合罪関係は生じません

ひき逃げ事件の現状

令和6年版犯罪白書の「第1章交通犯罪」によれば、令和5年におけるひき逃げ事件の現状は下記のとおりです。

ひき逃げ事件の発生件数は7,183件であり、そのうちの死亡事故は84件、重傷事故は755件(治療期間が1か月以上のもの)、軽傷事故は6,344件(治療期間が1か月未満のもの)です。

交通事故の発生件数は30万7,930件ですので、全体の2.3%がひき逃げ事件であることが分かります。

ひき逃げ事件全体の検挙率は72.1%であり、死亡事故では102.4%、重傷事故では87.9%となっています。

ひき逃げをした者は、人身事故を起こしたうえに、本来負うべき救護義務や報告義務を放棄して逃走しています。

そのため、後に検挙された場合には重い刑事責任を問われるのが一般的で、特に死亡事故では原則として実刑となるのが裁判実務の傾向です。

よくある事例

よくある事例は、以下のとおりです。

ひき逃げでよくある動機のケース

ひき逃げでよくある動機のケースとしては、下記のような場合が挙げられます。

ひき逃げでよくある動機の一覧
  • 無免許運転の発覚をおそれたため
  • 飲酒運転の発覚をおそれたため
  • 身内に迷惑がかかると思ったため
  • 損害賠償が大変だと思ったため
  • 同乗者との個人的関係の発覚をおそれたため
  • 交通事故を起こし、動揺したため
  • 運転者が、交通事故によって社会的地位や名誉に影響が及ぶことをおそれたため
  • 運転者が、加害車両を犯罪行為に利用していたため
  • 加害車両が盗難車であったり、正規に登録していなかったりしたため
  • 運転者が、他に犯罪を犯していて、その発覚をおそれたため
  • 運転者が、極めて冷酷な性格で、被害者の救護を全く意に介さなかったため

当て逃げでよくあるケース

当て逃げでよくあるケースとしては、下記のような場合が挙げられます。

当て逃げでよくある事例の一覧
  • 駐車場に停車する際に、他の車両に接触または衝突させてしまったにもかかわらず、そのまま立ち去ってしまうケース
  • 駐車場のスペースに車を停め、ドアを開けた際に隣の車にぶつけて傷をつけてしまったにもかかわらず、そのまま立ち去ってしまうケース
  • 走行中に車両同士が接触したにもかかわらず、そのまま走り去ってしまうケース
  • 走行中に速度を出しすぎてカーブを曲がり切れず、ガードレールに衝突して損壊させたにもかかわらず、そのまま走り去ってしまうケース
  • 狭い道路でハンドル操作を誤り、駐輪中の自転車に衝突して損壊させたにもかかわらず、そのまま走り去ってしまうケース

救護義務を果たしたといえるかが問題となるケース

実務では、ひき逃げで起訴された事案で、救護義務を果たしたといえるかが問題となるケースもそれなりにあります。

最判令和7年2月7日の事例もその1つといえ、平成27年3月23日の交通事故に関し、第1審がひき逃げについて懲役6か月の実刑に処したのに対し、控訴審は、「被告人は事故後直ちに自車を停止させて被害者の捜索を開始しており、自車まで戻ってハザードランプを点灯させたことも危険防止義務を履行したものと評価でき、その後被害者が発見されると駆け寄って人工呼吸をするなどしていたことに照らすと、被告人は一貫して救護義務を履行する意思を保持し続けていたと認められ、このような事故後の被告人の行動を全体的に考察すると、救護義務違反の罪は否定される」などとして原判決を破棄し無罪を言い渡しました。

最高裁は、原判決を破棄し、第1審判決を支持する判決を言い渡しました。

その理由の要旨は、次のとおりです。

すなわち、「被害者に重篤な傷害を負わせた可能性が高い交通事故を起こし、自車を停止させて被害者を捜したものの発見できなかったのであるから、引き続き被害者の発見、救護に向けた措置を講ずる必要があったといえるのに、これと無関係な買物のためにコンビニエンスストアに赴いたという本件事情のもとでは、事故および現場の状況等に応じて負傷者の救護のために必要な措置を講じなかったものといえ、その時点で道交法72条1項前段の義務に違反したと認められる」というものです。

まとめ

ひき逃げ・当て逃げで逮捕された場合、人身事故や物損事故も関係していれば、公判請求されるのかどうか、また裁判結果の見通しがどうなるのかなど、不安や心配は尽きないものです。

交通事故では、被害者との損害賠償の問題は避けて通れません。

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