詐欺罪で逮捕されたら

詐欺罪で逮捕されたら

詐欺罪で逮捕された場合、このまま身柄拘束が続くのか、起訴・不起訴の処分はどうなるのかと不安に感じる方も多いでしょう。

被疑者の家族も、検察官の処分や裁判結果が少しでも有利になることを望み、刑事事件に精通した弁護士に依頼したいと考えることが多いでしょう。

そこで以下では、詐欺罪の内容詐欺罪の身柄状況詐欺罪で逮捕された後はどうなるのか詐欺罪の終局処理状況詐欺罪における科刑状況判例で人を騙す「重要な事項」が問題となった事例などについて説明します。

なお、以下の刑法における条文は、単に条文番号のみを掲げています。

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目次

詐欺罪の内容

以下で、詐欺罪の内容について見てみましょう。

犯罪の成立

詐欺罪は、人を欺いて、財物を交付させること(1項)財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させること(2項)によって成立します(246条)。

詐欺罪は、人を欺いて(欺罔行為)錯誤に陥れ、財産(財物または財産上の利益)を交付・処分させる罪です。

客体

客体は、他人の財物(1項)財産上の利益(2項)です。

行為

行為は、上述した「犯罪の成立」における(1項)、(2項)のとおりです。

人を欺くとは、人を錯誤に陥らせることを指します。

具体的には、相手が財産的処分行為を行う判断の前提となる事実を偽ること、すなわち、誤りがなければ財産的処分をしなかったと考えられる重要な事実を偽る行為を意味します。

また、このような場合に求められる錯誤は、相手を財産的処分行為へと動機付ける程度のものであれば足りるとされています。

「財物を交付させる」とは、錯誤に陥った被害者の財産的処分行為によって財物の占有を取得することをいいます。

「財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させる」とは、不法に財産上の利益を得または得させることであって、財産上の利益そのものが不法である必要はありません。

すなわち、相手を欺く行為に基づく錯誤の結果、その相手の財産的処分行為によって、行為者または行為者と一定の関係にある第三者が、財産上の利益を取得することをいいます。

「財産上不法の利益」には、以下のようなものが含まれます。

財産上不法の利益の例
  • 債権の取得
  • 債務の保証
  • 債務の引受
  • 債務の免除
  • 履行期の延期
  • 民事訴訟の和解
  • 労務やサービスの提供
  • 不動産の賃貸

刑罰

詐欺罪は、10年以下の拘禁刑に処せられます(246条)。詐欺罪の未遂も処罰されます(250条)。

詐欺罪の身柄状況

2024年検察統計年報によれば、令和6年の検察庁既済事件の身柄状況(詐欺罪)は下記表のとおりです(同年報「41 罪名別・既済となった事件の被疑者の逮捕および逮捕後の措置別人員」参照)。

罪名逮捕関係勾留関係
総数(A)逮捕されない者警察等で逮捕後釈放警察等で逮捕・身 柄付送致(B) 検察庁で逮捕(C)身柄率(%)認容(D)却下(E)勾留請求率(%)
詐欺16,2887,4631318,6801453.48,5527199.2
罪名詐欺
逮捕関係総数(A)16,288
逮捕されない者7,463
警察等で逮捕後釈放131
警察等で逮捕・身 柄付送致(B) 8,680
検察庁で逮捕(C)14
身柄率(%)53.4
勾留関係認容(D)8,552
却下(E)71
勾留請求率(%)99.2

身柄率は(B+C)÷Aで、勾留請求率は(D+E)÷(B+C)でそれぞれ求めます。

上記の数字を見ると、詐欺罪の被疑者のうち逮捕される人は半数をやや上回り(54.2%)、一方で逮捕されない人も45.8%と、半数近くに上ることが分かります。

詐欺罪で逮捕された後はどうなるのか

上述した「詐欺罪の身柄状況」によれば、詐欺罪で逮捕された場合、勾留請求率は99.2%、勾留認容率は99.2%になっています。

したがって、逮捕された詐欺罪の被疑者のほとんどの者は、引き続き勾留されていることになります。

勾留期間は原則10日間ですが、詐欺事件では捜査に時間を要することも多く、必要に応じて勾留が延長される場合があります。

以下の事情が認められると、検察官の請求により裁判官がさらに10日以内の延長を認める場合があります。

勾留延長が認められ得る事情
  • 事件が複雑であり、捜査継続が必要な場合
  • 証拠収集が遅延または困難で、現状の期間では終わらない場合
  • 捜査官が可能な限り尽力しても、10日以内に必要証拠を集められなかった場合
  • 延長しなければ捜査に重大な支障が生じるおそれが明らかである場合
  • 延長により捜査上の障害が解消されると見込まれる場合

以上のようなやむを得ない事情があると判断されたとき、10日間の勾留期間は最大でさらに10日延長される可能性があります

詐欺罪の終局処理状況

2024年検察統計年報によれば、令和6年の詐欺罪の検察庁終局処理人員は下記表のとおりです(同年報「8 罪名別・被疑事件の既済および未済の人員」参照)。

罪名総数起訴(起訴率)不起訴(不起訴率)起訴猶予(不起訴で占める率)その他(不起訴で占める率)
詐欺14,5707,502(51.5%)7,068(48.5%)3,643(51.5%)3,425(48.5%)
罪名詐欺
総数14,570
起訴(起訴率)7,502(51.5%)
不起訴(不起訴率)7,068(48.5%)
起訴猶予(不起訴で占める率)3,643(51.5%)
その他(不起訴で占める率)3,425(48.5%)

起訴率は、「起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100の計算式で得た百分比、不起訴率は、「不起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100の計算式で得た百分比のことです。

上記の数字から、詐欺罪では、起訴(51.5%)が不起訴(48.5%)をやや上回っていますが、あまり大差がないといえます。

詐欺罪における科刑状況

令和6年版犯罪白書(令和5年の統計)によれば、地方裁判所における詐欺罪の科刑状況は、下記表のとおりです(同白書「資料2-3地方裁判所における死刑・懲役・禁錮の科刑状況(罪名別)」参照)。

総数実刑 (実刑率)1,336 (41.75%)(実刑で占める率)執行猶予(執行猶予率)
3,20010年を超え15年以下7年を超え10年以下5年を超え7年以下3年を超え5年以下2年以上3年以下1年以上2年未満6か月以上1年未満6か月未満1,864
(58.25%)
人数1
(0.07%)
10
(0.75%)
65
(4.87%)
339
(25.37%)
615
(46.03%)
255
(19.09%)
47
(3.52%)
4
(0.30%)
総数3,200人数
実刑(実刑率)
1,336(41.75%)
(実刑で占める率)
10年を超え15年以下1(0.07%)
7年を超え10年以下10(0.75%)
5年を超え7年以下65(4.87%)
3年を超え5年以下339(25.37%)
2年以上3年以下615(46.03%)
1年以上2年未満255(19.09%)
6か月以上1年未満47(3.52%)
6か月未満4(0.30%)
執行猶予(執行猶予率)1,864(58.25%)

上記の数字によれば、詐欺罪で起訴された場合、実刑率は約4割(数字上は41.75%)、執行猶予率は約6割(数字上は58.25%)です。

特段の前科がなく、被害弁償が適切に行われている場合は、執行猶予の可能性が相当程度見込まれます。

しかし、いわゆる特殊詐欺については事情が異なります。

 特殊詐欺とは、被害者に電話をかけるなどして対面せずに信用させ、指定口座に振り込ませるなどの手段で、不特定多数から金銭をだまし取る犯罪形態を指します。

これらは、大規模な犯行の遂行や首謀者の検挙回避を目的として、高度な組織性を有する集団によって実行されることが多く、違法性が極めて強いと評価されています。

さらに、主犯や指示役には暴力団構成員・準構成員が関与している割合も高く、量刑が重くなりやすい傾向にあります。

そのため、判決でも実刑や長期の刑期が選択される例が多く、一般的な詐欺事件と比べても厳しい処遇が下されることが少なくありません。

判例で人を騙す「重要な事項」が問題となった事例

判例で人を騙す「重要な事項」が問題となった事例は、以下のとおりです。

本人の搭乗有無が「重要な事項」とされたケース

別人を国際線航空機に搭乗させる意図を秘して空港のチェックカウンターで搭乗券の交付を受ける行為について、本人が航空機に搭乗するかどうかは「交付の判断の基礎となる重要な事項」であるとして、246条1項の詐欺罪の成立を認めました(最決平成22・7・29刑集64巻5号829頁)。

利用客が暴力団員であるかどうかが「重要な事項」とされたケース

身分を秘した暴力団員によるゴルフ場の利用について、利用客が暴力団員であるかどうかは「施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項」であるとして、246条2項の詐欺罪の成立を認めました(最決平成26・3・28刑集68巻3号646頁)。

反社会的勢力かどうかが「重要な事項」とされたケース

身分を秘した暴力団員による預金口座開設の申込みについて、反社会的勢力かどうかは総合口座の開設ならびにこれに伴う総合口座通帳およびキャッシュカードの「交付の判断の基礎となる重要な事項」であるとして、総合口座通帳およびキャッシュカードに対する246条1項の詐欺罪の成立を認めました(最決平成26・4・7刑集68巻4号715頁)。

まとめ

詐欺事件で被疑者や被告人に有利な結果を得るためには、被害者への賠償や被害回復が処分判断のうえで非常に重要な要素となります。

刑事事件に精通した弁護士であれば、特殊詐欺のような悪質な事案でない限り、被害者への弁償に向けて尽力します。

被害弁償が十分に行われた場合には、不起訴処分となる可能性があり、起訴されたとしても執行猶予判決が見込まれます。また、仮に実刑となった場合であっても、被害回復の状況などにより、量刑が軽くなる可能性もあります。

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