人身事故、死亡事故で逮捕されたら

人身事故、死亡事故で逮捕されたら

人身事故や死亡事故で逮捕された場合、今後どうなるのか、どれほど長く身柄を拘束されるのかなど、不安を感じる方は多いでしょう。

被疑者の家族も、処分の行方や損害賠償について不安を抱くことが多く、心配は尽きません。

そこで以下では、人身事故・死亡事故にあたる罪人身事故・死亡事故で逮捕された後はどうなるのか人身事故・死亡事故の終局処理状況よくある事例などについて説明します。

なお、令和7年(2025年)6月1日の改正刑法施行前に発生した人身事故・死亡事故については、改正前の刑法および「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、「自動車運転死傷処罰法」または「法」といいます)が適用されるため、「拘禁刑」は懲役もしくは禁錮、「有期拘禁刑」は有期懲役として処罰されます。

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目次

人身事故・死亡事故にあたる罪

人身事故・死亡事故については、自動車運転死傷処罰法に規定されています。

以下で、人身事故・死亡事故にあたる罪について見てみましょう。

過失運転致死傷罪(法5条)

過失運転致死傷罪(法5条)は、自動車の運転者に要求される通常の注意を怠り、その結果、人を死傷させた場合に成立します。

この罪は、最も基本となる人身事故の犯罪です。

たとえば、注意義務に反する運転により歩行者や他車との衝突を避けられず、交通事故を起こして被害者を死傷させた場合には、被疑者(加害者)に過失運転致死傷罪が成立します。

注意義務違反となり得る行為の例は以下のとおりです。

注意義務違反となる運転例
  • 前方不注視(わき見運転)
  • 信号の見落とし
  • 速度違反
  • ハンドル操作の誤り
  • 車間距離の不保持
  • 一時不停止
  • 左右の安全確認不足

過失運転致死傷罪(法5条)は、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されます。ただし、傷害が軽い場合には、情状により刑が免除されることもあります。

危険運転致死傷罪(法2条)

危険運転致死傷罪(法2条)は、故意に一定の悪質で危険な運転行為を行い、その結果、人を死傷させた場合に成立します。

危険運転致死罪(法2条)は、裁判員裁判の対象事件になります。

危険運転とは、以下の運転行為になります。 

危険運転に該当する運転行為
  • アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態で運転(1号)
  • 制御困難な高速度で運転(2号)
  • 進行制御技能なしで運転(3号)
  • 妨害目的で、危険な速度で割り込みまたは人や車に著しく接近する運転(4号)
  • 妨害目的で、危険な速度で走行中の車の前方で停車または著しく接近する運転(5号)
  • 高速道路等において、妨害目的で、走行中の車の前方で停車または著しく接近して、走行中の車に停止または徐行させる運転(6号)
  • 赤信号や警察官の手信号などを殊更に無視し、かつ危険な速度で運転(7号)
  • 通行禁止道路を進行し、かつ危険な速度で運転(8号)

危険運転致死傷罪(法2条)は、人を負傷させた場合には15年以下の拘禁刑人を死亡させた場合には1年以上の有期拘禁刑にそれぞれ処せられます。

有期拘禁刑の限度は20年ですので、危険運転致死罪になった場合、最長20年の拘禁刑が科せられる可能性があります。 

危険運転致死傷罪(法3条)

危険運転致死傷罪(法3条)は、アルコールや薬物(1項)、または病気(2項)の影響で注意力や判断、操作が十分にできない状態で運転し、その影響によって運転が困難になり、人を死傷させてしまった場合に成立します。

つまり、「体の状態が原因で安全に運転できなくなる危険があるのに運転を続け、人身事故に至ったとき」に問われる罪です。

危険運転致死傷罪(法3条)は、人を負傷させた場合には12年以下の拘禁刑人を死亡させた場合には15年以下の拘禁刑にそれぞれ処せられます。

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(法4条)

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(法4条)は、アルコールや薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、必要な注意を怠って人を死傷させた場合に問題となります。

そして事故後、その影響の有無や程度が発覚するのを避ける目的で、さらにアルコールや薬物を摂取したり、現場を離れて体内の濃度を下げるなど、発覚を免れるための行為をしたときに成立します。

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(法4条)は、12年以下の拘禁刑に処せられます。   

無免許運転による加重の罪(法6条)

無免許運転による加重の罪(法6条)は、法2条(3号を除く)から法5条までに定められた罪を無免許で犯した場合に成立します。具体的な適用内容は以下のとおりです。

無免許運転による加重の罪が成立するケースと刑罰
  1. 危険運転致傷罪(法2条・3号を除く)を犯し、無免許であったとき
    → 6か月以上の有期拘禁刑(1項)
  2. 危険運転致死傷罪(法3条)を犯し、無免許であったとき
    → 人を負傷させた場合:15年以下の拘禁刑
    → 人を死亡させた場合:6か月以上の有期拘禁刑(2項)
  3. 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(法4条)を犯し、無免許であったとき
    → 15年以下の拘禁刑(3項)
  4. 過失運転致死傷罪(法5条)を犯し、無免許であったとき
    → 10年以下の拘禁刑(4項)

人身事故・死亡事故で逮捕された後はどうなるのか

警察官(司法警察員)は、被疑者を逮捕してから48時間以内に、被疑者を釈放するか、検察官に送る手続きをしなければなりません。

被疑者が検察官に送致された場合、検察官は被疑者を受け取ってから24時間以内、そして逮捕から通算して72時間以内に、勾留請求起訴釈放のいずれにするかを判断しなければなりません。

検察官が裁判官に勾留請求を行った場合、裁判官は勾留質問を実施し、必要性が認められれば10日間の拘束を認める勾留決定を行います。

検察官は原則として、この10日間の勾留期間内に起訴・不起訴の判断をしなければなりません。しかし、やむを得ない事情がある場合には、最大10日間の延長を裁判官に請求することができます。

裁判官がその理由を認めたときは、勾留期間がさらに10日以内で延長されることになります。

人身事故・死亡事故で逮捕された場合でも、危険運転致死傷罪やひき逃げ事件など特に悪質性が高いケースを除けば、過失運転致死傷罪では勾留されないことが多いといえます。

住居不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれがある場合を除き、被疑者は任意に釈放されるのが一般的です。

しかし、過失運転致死傷罪であっても、事件が社会的関心を大きく集めている場合には状況が異なることがあります。

釈放されれば世間の注目を浴び、精神的に追い詰められて自殺に至るおそれがあると判断されるようなときです。

(自殺は被疑者という「証拠」を失わせる結果となり、逃亡のおそれと同視し得る最も重い事由であるとする見解が有力です。)

このような場合には例外的に、逮捕後も勾留が認められ、身柄拘束が継続されることがあります。

まとめると、罪証隠滅や逃亡のおそれが強い場合を除き、多くの事例では勾留されず在宅捜査となる傾向があります。

人身事故・死亡事故の終局処理状況

令和6年版犯罪白書(令和5年の統計)によれば、過失運転致死傷罪等および危険運転致死傷罪の検察庁終局処理人員は次のとおりです(同白書「4-1-3-1図 交通事件検察庁終局処理人員の処理区分別構成比」参照)。

罪名総数公判請求略式命令請求不起訴家庭裁判所送致
過失運転致死傷等28万9,5551.5%12.3%83.7%2.5%
危険運転致死傷54169.9%22.4%7.8%
罪名過失運転致死傷等危険運転致死傷
総数28万9,555541
公判請求1.5%69.9%
略式命令請求12.3%
不起訴83.7%22.4%
家庭裁判所送致2.5%7.8%

過失運転致死傷等の起訴・不起訴人員は28万2,377人で、そのうち公判請求が4,438人、略式命令請求が3万5,555人、起訴猶予が23万4,289人、その他の不起訴が8,095人です。

これに基づく起訴率は14.2%となります(同白書「4-1-3-2図 過失運転致死傷等・道交違反起訴・不起訴人員(処理区分別)等の推移」参照)。

また、危険運転致死傷の公判請求人員の内訳は以下のとおりです(同白書「4-1-3-3表 危険運転致死傷による公判請求人員(態様別)」参照)。

総数飲酒等影響(法2条1号)高速度等(法2条2・3号)妨害行為(法2条4~6号)赤信号無視(法2条7号)通行禁止道路進行(法2条8号)飲酒等影響運転支障等(法3条)無免許(法6条1・2項)
378155201372310114
総数378
飲酒等影響(法2条1号)155
高速度等(法2条2・3号)20
妨害行為(法2条4~6号)13
赤信号無視(法2条7号)72
通行禁止道路進行(法2条8号)3
飲酒等影響運転支障等(法3条)101
無免許(法6条1・2項)14

よくある事例

人身事故、死亡事故でよくある事例は、以下のとおりです。

5-1法2条・3条の「正常な運転が困難な状態」といえるケース

「正常な運転が困難な状態」とは、道路や交通の状況などに応じた運転をすることが難しい状態になっていることをいいます。

たとえば、アルコールによる酩酊によって前方を十分に確認できない状態や、ハンドル・ブレーキなどを思いどおりに操作できなくなっている状態がこれに該当します。

また、てんかん・再発性の失神・低血糖症・睡眠障害など、意識を失うおそれのある病気の発作によって意識を喪失している状態も含まれます。

さらに、統合失調症やそううつ病などの精神疾患により、幻覚や妄想が生じ、病的な行動が明らかになる急性の精神病状態(数日単位で突然現れる場合など)もこれに該当します。

5-2法3条の「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」といえるケース

「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、まだ「正常な運転が困難な状態」には至っていないものの、アルコール・薬物・病気などの影響により、運転に必要な注意力・判断力・操作能力が明らかに低下し、危険性が高まっている状態をいいます。

アルコールが原因の場合、体内のアルコール量が道交法で定める酒気帯び運転罪に該当する程度に達していれば、通常はこれにあたると考えられます。

病気の影響による場合、たとえば「意識を失うおそれがある病気」であれば、発作の前兆症状が現れている状態や、前兆がなくても薬を飲んでいないために運転中に意識を失う危険がある状態などが該当します。

また「精神疾患」に関しては、急性の精神病状態に陥る可能性がある場合などがこれにあたります。

5-3法3条2項の危険運転致死傷罪の成否が問題となるケース

法3条2項の危険運転致死傷罪は、単に病気であるだけでは成立しません。

病気によって正常な運転に支障が生じるおそれがある状態にあり、そのことを自覚したまま運転を続けた結果、病気の影響で運転が困難となり人を死傷させた場合に成立します。

なお、「運転が困難な状態に陥ったこと」を本人が認識している必要はありません

しかし、「意識を失うおそれのある病気」や「精神疾患」(政令で定める病気)に該当する人であっても、症状の自覚がない場合や、運転するには危険な状態であることを認識していない場合には異なります。

つまり、病気により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であることを本人が理解していなければ、故意が認められず、法3条2項の危険運転致死傷罪は成立しません。

まとめ

人身事故、死亡事故で逮捕された場合、不安や心配は尽きないことと思われます。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すためには、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。

刑事事件に精通した弁護士であれば、人身事故や死亡事故の状況に応じて適切な対応策を検討し、捜査機関や裁判所に対して効果的に働きかけることができます。

また、起訴・不起訴の見通しについて具体的な助言を受けることもできるため、捜査段階の被疑者や、起訴後の被告人にとって有利な結果につながる可能性が高まります。

人身事故・死亡事故でお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

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