脱税で逮捕された場合、身柄拘束がいつまで続くのか、また起訴・不起訴の処分がどうなるのか、不安に感じる方も多いでしょう。
被疑者の家族も、検察官の処分や裁判所の裁判結果が少しでも有利になることを願い、刑事事件に精通した弁護士に依頼したいと考えることでしょう。
そこで以下では、脱税とは、脱税犯の種類、税法違反の身柄状況、脱税で逮捕された後はどうなるのか、税法違反の終局処理状況、税法違反の科刑状況、よくある事例などについて説明します。
なお、令和7年(2025年)6月1日(改正刑法施行日)より前に犯した税法違反については、改正前の刑法および該当税法が適用されるため、「拘禁刑」は懲役として取り扱われます。また、統計資料の表記は原資料の記載に従っています。
脱税とは
脱税とは、不正であることを認識しながら、さまざまな手段を用いて税金を少なく納めたり、全く納めなかったりする行為をいいます。
たとえば企業では、存在しない経費を計上したり、売上額を過少に記録したりして、実際よりも利益を少なく見せかける行為が脱税にあたります。
脱税が疑われる場合、税務職員(査察官)が調査を行い、正しい税額を納付させます。
特に、多額の税金を悪質にごまかしている疑いがある場合には、税務職員は任意調査(税務調査)だけでなく、裁判官の許可状を得て強制調査(査察調査)を行い、その結果を検察官へ告発します。
悪質な場合は、正しい税額を納付するだけでなく、検察官の起訴により裁判となり、判決によっては執行猶予付き拘禁刑や罰金、さらには実刑となる可能性もあります。
脱税犯の種類
以下では、脱税犯の主な種類について説明します。なお、記載している法条は代表的なものです。
逋脱犯(狭義の脱税犯)
逋脱犯(ほだつはん・狭義の脱税犯)は、納税義務者または徴収納付義務者が、偽りその他不正の行為により、税を免れ、または税の還付を受けたことにより成立します(所得税法238条1項、法人税法159条1項、相続税法68条1項、消費税法64条1項)。
「偽りその他不正の行為」の意義について、判例は、「逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うことをいう」ものとしています(最大判昭和42年11月8日刑集21巻9号1197頁)。
したがって、「偽りその他不正の行為」とは、帳簿書類への虚偽記載や二重帳簿の作成など、社会通念上不正と認められる行為を指し、単純な無申告は含まれないとされています。
逋脱犯(狭義の脱税犯)は、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科に処せられます。
申告書不提出犯
申告書不提出犯は、故意に確定申告書や修正申告書を法定期限までに提出せず、税を免れた場合に成立します(所得税法238条3項・4項、法人税法159条3項・4項、相続税法68条の3第4項、消費税法64条4項・5項)。
この類型は「偽りその他不正の行為」を伴わない点で、通常の逋脱犯とは異なります。
従来は単純無申告犯(租税危害犯)として処罰されていました。
しかし、単純無申告の中には違法性が強く、逋脱に近いと評価される事例(例:外国為替証拠金取引(FX取引)で多額の利益を申告しなかった場合)もあるため、これらを区別してより重い刑罰を科すべく、新たに独立した租税犯の類型として設けられました。
申告書不提出犯は、5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金またはこれらの併科に処せられます。
間接脱税犯
間接脱税犯は、税収確保のため一般的に禁止されている特定の行為を、許可を受けずに行った場合に成立します(関税法111条1項、酒税法54条1項)。
間接脱税犯の刑罰は、外国貨物の密輸入(関税法111条1項)の場合、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金、あるいはその併科とされています。
また、酒類の密造(酒税法54条1項)の場合は、10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処せられます。
不納付犯
不納付犯は、源泉徴収義務者が徴収した税を本来納付すべきにもかかわらず納付しなかった場合に成立します(所得税法240条1項)。
不納付犯は、10年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、あるいはその併科に処せられます。
滞納処分免脱犯
滞納処分免脱犯は、滞納処分の執行を免れる目的で、財産を隠ぺい・損壊したり、国に不利益となるよう処分したり、財産に関する負担を仮装して増加させたりした場合に成立します(国税徴収法187条1項)。
滞納処分免脱犯は、3年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金またはこれらの併科に処せられます。
税法違反の身柄状況
2024年検察統計年報によれば、令和6年の検察庁既済事件の身柄状況(税法違反)は下記表のとおりです(同年報「41 罪名別・既済となった事件の被疑者の逮捕および逮捕後の措置別人員」参照)。
| 罪名 | 逮捕関係 | 勾留関係 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 総数(A) | 逮捕されない者 | 警察等で逮捕後釈放 | 警察等で逮捕・身 柄付送致(B) | 検察庁で逮捕(C) | 身柄率(%) | 認容(D) | 却下(E) | 勾留請求率(%) | |
| ①所得税法 | 140 | 138 | – | – | 2 | 1.4 | 2 | – | 100 |
| ②法人税法 | 91 | 76 | – | – | 15 | 16.5 | 15 | – | 100 |
| ③消費税法 | 60 | 40 | – | 15 | 5 | 33.3 | 20 | – | 100 |
身柄率は(B+C)÷Aで、勾留請求率は(D+E)÷(B+C)でそれぞれ求めます。
税法違反では、在宅捜査となるのが原則です。
ただし、逮捕となった場合の身柄率には法令ごとに差があり、消費税法違反では特に高い傾向があります。
また、勾留請求率・勾留認容率はいずれの税法違反でも100%とされています。
脱税で逮捕された後はどうなるのか
上述の「税法違反の身柄状況」によれば、税法(所得税法、法人税法、消費税法)違反で逮捕された場合、勾留請求率・勾留認容率はいずれも100%となっています。
そのため、これらの税法違反で逮捕された被疑者は、原則として勾留が継続されます。
勾留期間は原則10日間ですが、税法違反の事件では、犯行の手口が巧妙であるなどの理由から、捜査に時間を要することがあります。
次のような事情がある場合には、検察官の請求により、裁判官がさらに最大10日間の勾留延長を認めることがあります。
- 事案が複雑で、捜査を継続しなければ起訴・不起訴の判断ができない場合
- 捜査官が可能な限り捜査を行っても、10日間の勾留期間内に必要な証拠を収集できなかった場合
- 勾留を延長しないと捜査に重大な支障が生じるおそれが明らかで、延長によってその支障が解消されると見込まれる場合
このようなやむを得ない事情が認められると、例外的に勾留期間が延長されることになります。
税法違反の終局処理状況
2024年検察統計年報によれば、令和6年における税法違反の検察庁終局処理人員は下記のとおりです(同年報「8 罪名別・被疑事件の既済および未済の人員」参照)。
| 罪名 | 総数 | 起訴(起訴率) | 公判請求(起訴で占める率) | 略式命令請求(起訴で占める率) | 不起訴(不起訴率) | 起訴猶予(不起訴で占める率) | その他(不起訴で占める率) |
| 所得税法 | 142 | 20(29.7%) | 20(100%) | – | 122(70.3%) | 111(91.0%) | 11(9.0%) |
| 法人税法 | 153 | 149(97.4%) | 149(100%) | – | 4(2.6%) | 1(25%) | 3(75%) |
| 相続税法 | 3 | 3(100%) | 3(100%) | – | – | – | – |
| 消費税法 | 69 | 67(97.1%) | 67(100%) | – | 2(2.9%) | – | 2(100%) |
起訴率は、「起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100の計算式で得た百分比、不起訴率は、「不起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100の計算式で得た百分比のことです。
この統計から、税法違反では略式命令請求がなく、すべて公判請求となっていることが分かります。
また、所得税法を除き、不起訴処分がない、あるいは不起訴率が極めて低い点も特徴です。
税法違反の科刑状況
国税庁の「令和6年度・査察の概要」によれば、査察事件に関する一審判決の状況は下記のとおりです。
| 項目 年度 (令和) | ①判決件数 | ②有罪件数 | 有罪率(②/①)(%) | 実刑判決人数 | ➂1件あたり犯則税額(万円) | ④1人あたり懲役(月数) | ⑤1人・1社あたり罰金額(万円) |
| 4 | 61(2) | 61(2) | 100 | 3(1) | 4,700 | 13.5 | 1,200 |
| 5 | 83(5) | 83(5) | 100 | 9(2) | 5,800 | 15.6 | 1,500 |
| 6 | 99(13) | 99(13) | 100 | 13(7) | 5,900 | 15.7 | 1,500 |
※1(括弧内)の数字は、他の罪との併合事件を示しています。
※2 ➂~⑤は、他の罪との併合事件を除いてカウントしています。
また、「令和6年度・査察の概要」によれば、同年度の実刑判決13人のうち7人が消費税法違反を含む事案でした。
査察事件単独の最重刑は懲役2年6か月で、実際には輸出業務を行っていないにもかかわらず輸出免税制度を悪用し、架空の輸出免税売上や架空の課税仕入れを計上して不正に還付を受けた事案です。
さらに、所得税法違反と他の罪(詐欺・詐欺幇助)との併合事件では、最重刑が懲役9年となっています(詐欺による収入を除外するなどして所得税を免れた事案)。
よくある事例
脱税に関してよく見られる事例は、以下のとおりです。
所得隠しと申告漏れを分けるケース
所得隠しとは、意図的な不正行為によって税金を免れることを指します。
一方、申告漏れは、不正の意思はないものの、結果として税金を免れてしまう状態をいいます。
両者を分ける基準は、不正事実の有無です。
不正事実とは、事実の全部または一部を隠ぺいしたり仮装したりする行為を指します。
たとえば、二重帳簿を作成して利益を隠したり、売上伝票を破棄して売上を過少計上したりする行為が、不正事実に該当します。
不正事実がある場合には、重加算税(過少申告で35%、無申告で40%)が課されます。これに延滞税(納付期限翌日から2か月以内は原則7.3%、2か月経過後は原則14.6%)が加わるため、制裁は非常に重いものとなります。
また、不正事実がない場合でも、税務調査で申告漏れが判明すれば、過少申告加算税(要件により10%または15%)や延滞税などのペナルティが課されます。
逮捕となるケース
逮捕に至るケースとしては、一般的に次のような状況が挙げられます。
- 脱税額が数億円規模に及んでいる場合
- 架空会社を利用した取引や、海外口座を使った資金隠しなど手口が悪質な場合
- 長期間にわたり組織的な隠ぺい工作が行われている場合
- 帳簿の破棄や関係者への口裏合わせなど、罪証隠滅のおそれがある場合
これらの要因が認められると、捜査機関は逮捕の必要性が高いと判断しやすくなります。
脱税に該当するケース
以下のようなケースは、脱税に該当します。
- 実際の売上額よりも少ない額を意図的に申告することで所得額を少なく見せようとした場合
- 経費を差し引いた所得を確定申告するため、架空の経費を水増し計上して申告する所得を低く抑えた場合
- 事業で多額の収入を得ていたにもかかわらず、所得税の確定申告書を提出しないまま法定納期限を徒過させ、所得税を免れた場合
まとめ
脱税で逮捕された場合は、身柄拘束が継続する可能性が高く、公判請求となることも多いため、早期に弁護士へ相談することが重要です。
刑事事件に精通した弁護士であれば、脱税の内容に応じて適切な弁護方針を立て、今後の見通しについて具体的な助言を行うことができます。その結果、被疑者(起訴後は被告人)にとって有利な結果を得られる可能性が高まります。
脱税に関してお困りの際は、お早めに当事務所へご相談ください。

