名誉毀損罪で逮捕されたら

名誉毀損罪で逮捕されたら

名誉毀損罪で逮捕された場合、身柄拘束がどの程度続くのか、起訴・不起訴の処分はどうなるのかと、不安に感じる方も多いでしょう。

被疑者のご家族も、検察官の処分や裁判所の判断が少しでも有利になることを願い、刑事事件に精通した弁護士に相談したいと考えていることでしょう。

以下では、名誉毀損罪の内容名誉に対する罪の身柄状況名誉毀損罪で逮捕された後はどうなるのか名誉毀損罪の終局処理状況判例で問題となった事例などについて説明します。

なお、以下で引用する刑法の条文については、条文番号のみを掲げています。

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目次

名誉毀損罪の内容

以下では、名誉毀損罪の内容について説明します。

犯罪の成立

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立します(230条1項)。

名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。

保護法益

通説判例は、名誉毀損罪と侮辱罪とを区別せず、名誉犯罪によって保護される名誉とは、人に対して社会が与える評価としての外部的名誉(社会的名誉)であるとしています。

被害者となる名誉の主体は人であり、行為者以外の自然人のほか、法人およびその他の団体も含まれます。

公然

公然とは、不特定または多数人が認識できる状態をいいます。

不特定または多数人に直接摘示されれば、その時点で公然性が認められますが、摘示の直接の対象が特定かつ少数の者にとどまる場合であっても、直ちに公然性が否定されるわけではありません。

判例では、直接の対象が特定少数人でも、そこから不特定多数人に情報が伝播する可能性があれば公然性が認められる(伝播性の理論)とされているからです(最判昭和34・5・7刑集13巻5号641頁)。

同判決では、他人を放火の犯人と決めつける発言を自宅等で7名に行った事案について、噂が村中に伝播した事実も加味して公然性を認めた原判決が是認されています。

なお、インターネット上での名誉毀損における「公然性」については、次のように整理できます。

インターネット上で公然性が肯定される表現形態
  • 電子掲示板への書き込み
  • Webサイトの公開
  • Webログへの記事の投稿

これらはいずれも、多数の者がアクセス可能な状態に置かれるものであり、特定の相手と電子メールでやり取りする場合とは異なります。

そのため、不特定かつ多数の者に向けられたコミュニケーションであるといえ、「公然性」は肯定されることになります。

事実の摘示

事実の摘示の有無によって、名誉毀損罪と侮辱罪が区別されます。

「事実を摘示」するとは、人の社会的評価を低下させるに足りる具体的な事実を指摘することをいいます。

摘示される事実は、人の社会的評価を低下させるに足りるものでなければなりませんが、内容は悪事醜業に限られるものではなく、必ずしも非公知の事実である必要もありません

公知の事実であっても、それを摘示することにより、さらに人の社会的評価を低下させるおそれがある限り、名誉毀損罪が成立します。

また、230条の2が適用される場合を除き、摘示される事実は真実であってもよく、虚偽である必要はありません

摘示した事実が人の名誉を毀損するに足りると認められる限り、真実・虚偽・伝聞・無根を問わず、名誉毀損罪は成立します。

事実は、ある程度具体的な内容を含むものでなければならず、単なる価値判断や評価はこれに含まれません

そして、事実の摘示においては、対象とされる者が明示されている必要はありません

しかし、人の社会的評価を低下させるに足りるものである以上、表現の全体や行為当時の状況から、誰に関する事実の摘示であるかが明らかになっていなければなりません。

摘示の手段は、口頭だけでなく、文書、図画、漫画のほか、身振り等であってもかまいません。

名誉毀損罪は、摘示された事実が真実であるか否かにかかわらず成立します。

しかし、正当な目的のために公益に必要な真実の事項を発表した場合であっても、名誉毀損罪が成立し得ます。

そこで、名誉の保護と言論の自由との調整を図るため、真実性が証明された場合には名誉毀損罪の成立を認めないとする、230条の2の規定が設けられています。

230条の2第1項は、次の3つの要件を満たす場合に、名誉毀損について免責するものとしています。

230条の2第1項における免責の要件
  • 公共の利害に関する事実であること
    一般の多数人がそれを知ることが、公共の利益になると認められる事実であること。
  • 公益目的があること
    当該事実を摘示した主たる動機が、公益を図る点にあること。
  • 真実性の証明がなされていること
    摘示された事実について、真実であることの証明がなされていること。

これら3要件がすべて満たされる場合には、名誉毀損罪は成立しないとされています。

そのうえで、同条第2項は公訴提起前の犯罪行為に関する事実については①の要件を、同条第3項は公務員または公選による公務員の候補者に関する事実については①と②の要件を充足するものとしています。

そして、①②③の要件については、「疑わしきは被告人の利益に」という原則の例外として、被告人に挙証責任が転換されたものと解されるのが一般的です。

名誉

名誉毀損罪で保護される名誉は、上述したとおり、外部的名誉です。

名誉の対象については、原則として限定がなく、次のような価値が広く含まれます。

名誉の対象となる価値の例
  • 倫理的価値
  • 政治的価値
  • 社交的価値
  • 学問的価値
  • 芸術的価値
  • 身体的・精神的な資質
  • 職業
  • 身分
  • 血統

これらはいずれも、社会生活上、一定の評価の対象となる価値であり、名誉毀損罪による保護の対象となります。

毀損

毀損とは、人の社会的評価を低下させるに足りる行為がなされればよく、それが現実に害されることは必要ではありません。

また、故意があればよく、名誉毀損の意図や目的は必要ではありません。

親告罪

名誉毀損罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪です。告訴をすることができるのは、原則として被害者です(刑訴法230条)。

なお、告訴は犯人を知った日から6か月以内にしなければなりません(刑訴法235条)。

名誉に対する罪の身柄状況

2024年検察統計年報によれば、令和6年の検察庁既済事件における身柄状況(名誉に対する罪)は、下記表のとおりです(同年報「41 罪名別・既済となった事件の被疑者の逮捕および逮捕後の措置別人員」参照)。

罪名逮捕関係勾留関係
総数(A)逮捕されない者警察等で逮捕後釈放警察等で逮捕・身柄付送致(B)検察庁で逮捕(C)身柄率(%)認容(D)却下(E)勾留請求率(%)
名誉毀損・侮辱1,3711,225
(89.4%)
10
(0.7%)
136
(9.9%)
10.0124897.1
罪名名誉毀損・侮辱
逮捕関係総数(A)1,371
逮捕されない者1,225
(89.4%)
警察等で逮捕後釈放10
(0.7%)
警察等で逮捕・身柄付送致(B)136
(9.9%)
検察庁で逮捕(C)
身柄率(%)10.0
勾留関係認容(D)124
却下(E)8
勾留請求率(%)97.1

なお、身柄状況については、名誉毀損罪のみの統計が存在しないため、刑法第34章の「名誉に対する罪」の数字を用いています。

身柄率は(B+C)÷A、勾留請求率は(D+E)÷(B+C)により、それぞれ求めます。

ちなみに、2024年検察統計年報によれば、令和6年の起訴・不起訴に関する検察庁の終局処理人員は、刑法第34章の罪が1,316人(うち死者名誉毀損罪1人)とされています。

このうち、死者名誉毀損罪1人を除いた総数1,315人の内訳は、名誉毀損罪が1,044人79.4%)、侮辱罪が271人20.6%)です(同年報「8 罪名別・被疑事件の既済および未済の人員」参照)。

この割合からすると、名誉毀損罪の身柄率および勾留請求率についても、上記表の率(%)と大きな差はないものと推計できます。

上記の数値の推計から、名誉毀損罪を犯した者のうち、約9割(数値上は89.4%)は逮捕されておらず、逮捕された者は約1割(数値上は10.6%)にすぎないことが分かります。

一方で、逮捕され検察庁に送致された場合には、約9割(数値上は91.2%)が勾留されていることが、一応推認できます。

名誉毀損罪で逮捕された後はどうなるのか

上述した「名誉に対する罪の身柄状況」欄の推計によれば、名誉毀損罪で逮捕された場合、勾留請求率は97.1%、勾留認容率は94.0%であり、両者に大きな差はないものといえます。

したがって、逮捕された名誉毀損罪の被疑者のほとんどの者は、引き続き勾留されていることになります。

勾留期間は原則として10日間です。

ただし、次の事由がすべてそろっているなど、やむを得ない事情がある場合には、検察官の請求により、裁判官がさらに10日以内の勾留期間の延長を認めることがあります。

勾留期間延長が認められる主な事由
  • 捜査を継続しなければ、検察官が事件を処分できないこと
  • 10日間の勾留期間内に、十分な捜査を尽くすことができなかったこと
  • 勾留期間を延長することで、捜査上の障害が取り除かれること

名誉毀損罪の終局処理状況

2024年検察統計年報によれば、令和6年の名誉毀損罪の検察庁終局処理人員は、下記表のとおりです(同年報「8 罪名別・被疑事件の既済および未済の人員」参照)。

罪名総数起訴
起訴率
公判請求
起訴で占める率)
略式請求
起訴で占める率)
不起訴
不起訴率
起訴猶予
(不起訴で占める率)
その他
(不起訴で占める率)
名誉毀損1,044271
(26.0%)
64
(23.6%)
207
(76.4%)
773
(74.0%)
142
(18.4%)
631
(81.6%)
うち355(嫌疑不十分)
(45.9%)
うち175(告訴の欠如・無効・取消し)
(22.6%)
罪名名誉毀損
総数1,044
起訴
起訴率
271
(26.0%)
公判請求
起訴で占める率)
64
(23.6%)
略式請求
起訴で占める率)
207
(76.4%)
不起訴
不起訴率
773
(74.0%)
起訴猶予
(不起訴で占める率)
142
(18.4%)
その他
(不起訴で占める率)
631
(81.6%)
うち355(嫌疑不十分)
(45.9%)
うち175(告訴の欠如・無効・取消し)
(22.6%)

起訴率は「起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100、不起訴率は「不起訴人員」÷(「起訴人員」+「不起訴人員」)×100により算出した百分比を指します。

上記の数値から、起訴率よりも不起訴率の方が約3倍多いことが分かります。

しかも、不起訴の内訳を見ると、嫌疑不十分が5割近くを占めており、告訴の欠如(告訴がそもそもない場合)、無効(告訴期間経過後の告訴)、取消し(いったんした告訴を取り消す場合)が、全体の2割強を占めています。

また、起訴された場合には、略式命令請求が公判請求よりも3倍以上多いことも分かります。

名誉毀損罪の科刑状況(実刑や執行猶予の状況)について、これを直接示す統計資料はありません。

しかし、検察官の処分(起訴するか不起訴にするか)や、裁判所の量刑(どのような刑期とし、実刑にするか執行猶予にするか)の判断にあたっては、次のような事情が影響していると考えられます。

検察官の処分や裁判所の量刑に影響する主な事情
  • 被害者の被害感情
  • 告訴の有無
  • 名誉毀損の内容
  • 示談が成立しているかどうか
  • 謝罪や発言の撤回、投稿の削除などの措置を行ったかどうか
  • 前科・前歴の有無
  • 反省の態度

名誉毀損罪で逮捕された場合であっても、被害者との示談が成立すれば、告訴をしない、または告訴を取り消してもらうことにより、不起訴となる場合があります。

また、示談が成立せず、告訴が維持されたままであっても、謝罪や発言の撤回、投稿の削除などを行い、反省の態度を示し、前科がない場合には、起訴猶予による不起訴となることや、起訴された場合でも、略式命令請求となることが多いといえます。

公判請求され、正式裁判となるのは、一般的に、次のような事情がある事案であると考えられます。

公判請求となりやすい主な事情
  • 執行猶予期間中である場合
  • 前科がある場合
  • 名誉毀損の事実を否認している場合
  • 被害者に対する謝罪の意思がない場合

判例で問題となった事例

名誉毀損罪に関する判例で問題となった事例は、次のとおりです。

名誉毀損罪の「公然性」が否定されたケース

判例において名誉毀損罪の公然性が否定された事例としては、次のものがあります。

公然性が否定された事例
  1. 消防組役員会における役員8名に対する発言(大判昭和12・11・19刑集16巻1513頁)
  2. 取調室における検事および検察事務官の面前での発言(最決昭和34・2・19刑集13巻2号186頁)
  3. 自宅玄関内に居合わせた妻、母および家政婦のみに対する発言(最決昭和34・12・25刑集13巻13号3360頁)
  4. 教諭を中傷する文書の教育委員会委員長・校長・PTA会長への送付(東京高判昭和58・4・27高刑集36巻1号27頁)

①②④の事例は、上述した「名誉毀損罪の内容」に関する「公然」の項の最判昭和34・5・7と比べると、守秘義務を負うなど、適切な情報管理を行うべき者に対する摘示であったため、情報がさらに拡散する可能性が低かった点に特徴があります。

これに対し、③の事例は、発言が行われた場所が限定されていた点に特徴があります。

したがって、公然性が否定されるのは、ごく限られた場合にとどまるといえます。

個人利用者が虚偽の内容をインターネット上に掲載したケース

被告人は、フランチャイズ方式による飲食店「ラーメン甲」の加盟店募集や経営指導などを業とする乙会社に対し、自ら開設したインターネット上のホームページ内で、「あなたが『甲』で食事をすると、飲食代の4~5%がカルト集団の収入になります」、「まともな企業のふりしてんじゃねえよ」などといった、虚偽の内容を記載した文章を掲載しました。

最高裁は、従前、マスコミ等が主に担ってきた情報発信主体の役割が、インターネットの普及により個人にも分散しているという現実を踏まえ、その表現行為の信頼性について言及しました。

すなわち、インターネット上の情報であっても、「おしなべて、閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らない」と述べる一方で、「不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり、これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること、一度損なわれた名誉の回復は容易ではない」ことを指摘し、インターネットを用いた表現に対しても名誉を保護する必要性を説きました。

そのうえで、「インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても、他の表現手段を利用した場合と同様に、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって、より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきではない」と判示しました。

さらに、「インターネットの個人利用者が、摘示した事実を真実であると誤信していた名誉毀損行為について、その根拠とした資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあることなどの本件事実関係の下においては、上記誤信について、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があるとはいえない」として、上告を棄却しました(最決平成22・3・15刑集64巻2号1頁。罰金30万円の有罪判決が確定)。

インターネット上の匿名掲示板に会社情報を投稿したケース

妨害運転に起因する死傷事故に関する書き込みが行われていた掲示板において、その事故の犯人の父親が経営する会社や、犯人の勤務先について言及する投稿がありました。

この投稿を受けて、被告人は、「これ?違うかな」という文章に続けて、当該被害会社の情報が記載されたHPのURLを投稿しました。

その結果、あたかも同社が犯人の父親が経営する会社であり、かつ、犯人の勤務先であるかのような事実が掲載され、これがインターネットを利用する不特定多数の者に閲覧可能な状態となりました。

福岡高裁は、「本件投稿は事実の摘示にあたる。本件投稿を見た者が、犯人の勤務先であるとされた被害会社について、犯人の親が経営する会社が犯罪者を輩出する不十分な指導や監督しかなし得ない会社であるなどといったイメージを抱く可能性があることは明らかであり、本件投稿が被害会社の社会的評価を低下させるに足りるものといえる。不特定多数の者が閲覧可能な本件掲示板に本件投稿をした被告人は、本件投稿によって被害会社の社会的評価を低下させるかもしれないことを認識していたと認められ、名誉毀損の故意を認めた原判決に誤りはない」と判示しました(福岡高判令和3・5・26)。

最高裁は、インターネット上の匿名掲示板への投稿に関し、第三者の投稿を受けて、他人が経営する会社の情報が記載されたURLを示して投稿した被告人の行為について、名誉毀損にあたることを認めた原判決を是認しました。

そして、特段の理由を示すことなく、上告を棄却しました(最決令和3・9・6。罰金30万円の有罪判決が確定)。

まとめ

名誉毀損罪で逮捕された場合には、不安や心配が募ることと思われます。被疑者の早期釈放や不起訴を目指すためには、できるだけ早期に弁護士に相談することが重要です。

名誉毀損罪を犯した場合には、被害者との示談や謝罪などの措置が、被疑者の処分結果に影響します。

そして、被害者との折衝や示談交渉については、法律の専門家である弁護士に委ねるのが望ましいといえます。

弁護士は、事案の内容に応じた最適な戦略を立てるとともに、起訴・不起訴の見通しについても具体的なアドバイスを行うことができます。その結果、被疑者(起訴後の被告人)にとって有利な結果を引き出せる可能性が高まります。

名誉毀損罪に関してお困りの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

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