はじめに
「以前にも覚醒剤事件で有罪判決を受けている。」「執行猶予が終わった後、また覚醒剤を使用してしまった。」
「執行猶予中に再び覚醒剤で逮捕された。」
覚醒剤事件では、初犯だけでなく、過去にも覚醒剤事件で処罰されたことがある方からの相談も少なくありません。
覚醒剤には依存の問題が伴うことがあり、一度刑事処分を受けても再び使用してしまうケースがあります。
しかし、再犯の覚醒剤事件では、初犯と比べて刑事責任は重く評価されやすく、実刑となる可能性も高まります。
特に、
- 覚醒剤の前科が複数ある
- 前刑からそれほど期間が経っていない
- 執行猶予中に再犯した
- 過去にも実刑となったことがある
- 以前の事件後も継続的に覚醒剤を使用していた
もっとも、「再犯だから何をしても意味がない」というわけではありません。
再犯事件だからこそ、
- なぜ再び覚醒剤を使用したのか
- 以前の再犯防止策では何が足りなかったのか
- 今回はどのような治療を行うのか
- 家族がどのように支援・監督するのか
- 今後どのような環境で生活するのか
覚醒剤の再犯は初犯よりも厳しく処罰されるのか
一般に、過去に同じ種類の犯罪で処罰されたことがある場合には、初犯の場合よりも厳しく評価されやすくなります。覚醒剤事件でも同様です。
裁判所からすれば、 「以前の刑罰を受けても、再び覚醒剤を使用・所持した。」 ということになります。
特に、過去の事件で執行猶予付き判決を受け、社会内で更生する機会が与えられたにもかかわらず再犯した場合には、 「前回の処分による更生効果が十分ではなかった」 と評価される可能性があります。
また、過去にも覚醒剤事件で実刑となっている場合には、薬物への親和性や依存の程度、再犯可能性についてより厳しく評価されることがあります。
裁判例でも、同種前科があり、その後も覚醒剤の使用を繰り返していた事情から、覚醒剤への親和性・依存性が根深いとして実刑を選択した例があります。
覚醒剤事件の量刑に関する裁判例(裁判所ウェブサイト)
「再犯」といっても状況によって大きく異なる
一口に再犯といっても、事件によって状況は大きく異なります。例えば、
1回目の覚醒剤事件から長期間経過しているケース
十年以上前に一度だけ覚醒剤事件があり、その後長期間薬物と無関係に生活していたケースと、前刑終了直後に再び使用したケースとでは、評価は同じではありません。覚醒剤の前科が複数あるケース
同種前科が繰り返されている場合には、常習性や薬物への親和性についてより厳しい評価を受ける可能性があります。執行猶予中の再犯
前の覚醒剤事件について執行猶予期間中であるにもかかわらず再犯した場合には、特に厳しい問題が生じます。実刑終了後の再犯
過去に服役した経験があり、それでも再び覚醒剤事件を起こした場合にも、実刑の可能性を慎重に検討する必要があります。したがって、 「再犯だから懲役○年になる」 という単純な判断はできません。
前科の内容、前刑からの期間、今回の犯行内容、本人の薬物使用歴、更生環境などを総合的に検討する必要があります。
執行猶予中に覚醒剤で再犯したらどうなるのか
覚醒剤事件の再犯で特に問題となるのが、前の刑の執行猶予期間中に再び犯罪を犯した場合です。この場合、新しい事件について実刑判決となれば、前の執行猶予が取り消される可能性があり、結果として前刑と今回の刑の双方について刑務所で服役することになる場合があります。
そのため、 「前回の執行猶予がまだ残っている。」 という方の再犯事件では、通常の再犯以上に刑事処分を慎重に見通す必要があります。
もっとも、執行猶予中であることだけで自動的に結論が決まるわけではありません。
今回の犯罪内容や前刑の内容などを踏まえた個別判断が必要です。
ただし、同種の覚醒剤事件を執行猶予中に繰り返した場合には、裁判所から厳しく評価されることを前提として弁護活動を行う必要があります。
実際、同種の薬物前科が複数あり、さらに一部執行猶予期間中に覚醒剤を使用した事案について、裁判所が薬物への親和性・依存性や規範意識の低さを厳しく評価した例もあります。
一部執行猶予期間中の覚醒剤再犯に関する裁判例(裁判所ウェブサイト)
執行猶予が終わった後の再犯なら、また執行猶予になるのか
「前回の執行猶予期間はもう終わっているので、今回も執行猶予になるのではないか。」 と考える方もいるでしょう。しかし、執行猶予期間が終了しているからといって、次の事件でも当然に全部執行猶予が付くわけではありません。
裁判所は、
- 前回の事件からどのくらい期間が経過しているか
- その間、薬物を使用せず生活していたのか
- 今回再び使用するに至った経緯
- 過去の処分をどの程度受け止めていたか
- 今回の事件後にどのような更生策を取っているか
例えば、前回の事件から長期間薬物と無関係な生活を送っており、今回が一時的な再使用だったケースと、前回の裁判後も薬物使用を継続していたケースとでは、大きく事情が異なります。
したがって、前回の執行猶予期間が終了しているというだけで楽観視することはできません。
覚醒剤の再犯では実刑の可能性が高いのか
同種前科がある覚醒剤事件では、初犯の場合と比較して実刑となる可能性は高くなります。特に、
- 同種前科が複数ある
- 前回の事件から短期間で再犯した
- 執行猶予中の再犯である
- 過去に実刑となったことがある
- 長期間・反復して覚醒剤を使用している
- 治療や再犯防止策を取っていない
裁判例でも、薬物事犯の執行猶予中に再び覚醒剤の所持・使用に及んだ事案について、規範意識の低さなどを指摘した上で実刑とした例があります。
もっとも、再犯事件であっても、事件ごとに量刑事情は異なります。
そのため、 「再犯なら絶対に刑務所へ行く。」 と断定することも適切ではありません。
特に、前科の内容や経過期間、今回の事件の態様、更生に向けた具体的な取組などを検討する必要があります。
覚醒剤事件では「一部執行猶予」が問題となることがある
覚醒剤の再犯事件では、刑の一部執行猶予制度が問題となることがあります。一部執行猶予とは、言い渡された刑期の全部を刑務所で服役するのではなく、 刑期の一部について実刑とし、残りの一部について執行を猶予する制度 です。
例えば、一定期間は刑務所で服役し、その後、残りの刑期について執行猶予期間に入り、社会内で更生を目指すという形です。
制度の目的は、刑務所内での処遇だけで終わらせず、その後も社会内で継続して再犯防止・改善更生を図ることにあります。
法務省も、薬物事犯については、施設内処遇の後も薬物の誘惑がある社会内で処遇を継続することが有用であるとして、この制度を設けています。
法務省:令和2年版犯罪白書-薬物犯罪-
覚醒剤の再犯でも一部執行猶予になることがある
薬物事犯における一部執行猶予制度には特徴があります。覚醒剤などの規制薬物については、一定の使用罪・単純所持罪を対象として、いわゆる累犯者についても一部執行猶予を言い渡すことが可能とされています。
これは、通常の刑法上の一部執行猶予制度より対象が広く設定されています。
その背景には、 薬物依存からの回復には、刑務所内での処遇だけではなく、出所後も継続して治療や支援を受けることが重要である という考え方があります。
ただし、 「覚醒剤の再犯なら一部執行猶予になる。」 という制度ではありません。
裁判所が事件内容、前科、薬物依存の程度、再犯防止策などを踏まえて判断します。
また、薬物事犯について一部執行猶予が言い渡された場合には、猶予期間中、保護観察に付される制度となっています。
法務省:令和2年版犯罪白書-薬物犯罪-
全部執行猶予と一部執行猶予は何が違うのか
「執行猶予」という言葉が共通するため混同されやすいですが、両者は大きく異なります。全部執行猶予
刑全体について執行が猶予されるため、判決後すぐに刑務所へ服役することはありません。一部執行猶予
刑の一部は実際に刑務所で服役し、残りの部分についてのみ執行が猶予されます。したがって、一部執行猶予は、 「刑務所へ行かなくて済む制度」ではありません。
一定期間の服役を前提とした上で、その後の社会内処遇につなげる制度です。 この違いは、本人や家族にとって非常に重要です。
再犯事件では「反省しています」だけでは足りない
再犯事件では、 「今回は本当に反省しています。」 「二度と覚醒剤を使いません。」 という言葉だけで裁判所を説得することは難しい場合があります。なぜなら、前の事件でも同じように反省や更生を誓っていた可能性があるからです。
裁判所からすれば、 「前回もやめると言っていたのに、なぜ今回また使用したのか。」 という点が重要になります。
そこで、再犯事件では、
- 前回の再犯防止策のどこに問題があったのか
- なぜ治療が継続しなかったのか
- どのような場面で再使用したのか
- 今回は何を具体的に変えるのか
再犯事件だからこそ、単なる反省文ではなく、再犯に至った原因を分析した上で、それに対応する具体的な更生計画を作ることが重要です。
専門治療機関への通院は再犯事件で特に重要
覚醒剤の再犯事件では、専門医療機関への相談・通院の重要性がさらに高くなります。既に一度刑事処分を受けても再び使用しているということは、本人の意思だけで薬物をやめることが難しい可能性があります。
そのため、
- 薬物依存について専門的な診察を受ける
- 継続的に通院する
- 必要な治療やプログラムを受ける
- 自助グループや回復支援につながる
- 家族も依存症について理解する
再犯事件では、 「前回は病院へ行かなかったが、今回は行く。」 というだけではなく、 なぜ今回は治療を継続できるのか まで示せるようにすることが望ましいでしょう。
家族の監督も前回より具体的にする必要がある
再犯事件では、家族による監督についても、 「今後は家族がしっかり監督します。」 というだけでは足りない場合があります。特に前回の裁判でも家族が監督を約束していた場合には、 「なぜ前回の監督では再犯を防げなかったのか。」 という問題が生じます。
そこで、
- 本人と同居する
- 通院状況を家族が確認する
- 通院へ同行する
- 金銭管理を見直す
- 薬物関係者との交友を断つ
- 生活時間や交友関係を家族が把握する
- 本人の様子に変化があれば専門家へ相談する
重要なのは、形式的に監督誓約書を作ることではなく、実際に再犯を防ぐことのできる体制を作ることです。
保釈された場合は公判までの行動が重要
覚醒剤の再犯事件で起訴された場合でも、事案によっては保釈が認められることがあります。保釈された場合には、公判までの時間をどのように過ごすかが重要です。
例えば、
- 保釈後すぐに専門医療機関へ通院する
- 治療を継続する
- 家族と同居する
- 薬物関係者との接触を断つ
- 就労や生活リズムを整える
再犯事件では、裁判所も、 「今回こそ本当に再犯防止が可能なのか。」 という点を慎重に見ることになります。
そのため、公判直前に更生策を準備するよりも、早い段階から実際の行動を積み重ねることが重要です。
再犯事件で弁護士が確認すること
覚醒剤の再犯事件では、初犯事件以上に過去の経緯を詳しく確認する必要があります。例えば、
- 過去の覚醒剤事件はいつだったか
- 前回は使用か所持か
- 前回どのような判決を受けたか
- 執行猶予期間は終了しているか
- 過去に実刑・服役歴があるか
- 前回の事件後、どの程度断薬できていたか
- いつ再び使用するようになったか
- 再使用のきっかけは何だったか
- 前回の治療や更生策は何だったか
- 今回はどのような治療・支援を受けられるか
このような事情を整理しなければ、現実的な量刑見通しや弁護方針を立てることはできません。
再犯事件で弁護士ができること
過去の前科・今回の事件を踏まえた量刑見通しの検討
再犯事件では、前科の内容と今回の事件との関係を踏まえ、全部執行猶予が問題となるのか、実刑が強く見込まれるのか、一部執行猶予が問題となり得るのかを検討します。保釈請求
起訴後も身柄拘束が続いている場合には、保釈請求を検討します。帰住先、家族の監督、治療先、関係者との接触防止などを具体的に整えることが重要です。
専門治療への接続
本人の薬物使用歴や依存状況を踏まえて、専門医療機関や回復支援につなげます。家族との更生環境の構築
本人だけで再犯を防ぐのではなく、家族を含めた支援体制を検討します。公判での情状弁護
治療状況、再犯原因への理解、家族の支援、就労・生活環境などについて、資料や情状証人を通じて裁判所へ示します。「実刑が避けられないなら何もしなくても同じ」ではない
再犯事件で実刑の可能性が高いと説明されると、 「結局刑務所へ行くのであれば、治療を始めても意味がない。」 と思う方もいるかもしれません。しかし、そのように考えるべきではありません。
量刑判断では、刑の長さや一部執行猶予の可否などが問題となることがあります。
また、それ以上に重要なのは、刑事裁判が終わった後も本人の生活は続くということです。
覚醒剤事件を繰り返しているのであれば、刑罰だけで問題が解決するとは限りません。
服役する可能性が高い事件であっても、薬物依存の問題を認識し、出所後を見据えて治療・支援につながることには大きな意味があります。
よくある質問
Q 覚醒剤の再犯なら必ず実刑ですか。
必ず実刑になると断定することはできません。ただし、同種前科がある場合には、初犯と比較して実刑の可能性は高くなります。
前科の回数、前刑からの期間、執行猶予中かどうか、今回の犯行内容、治療状況などを個別に検討する必要があります。
Q 前回の執行猶予は既に終わっています。それでも実刑になりますか。
執行猶予期間が終了していても、前科自体は量刑上考慮されます。特に前回の事件から短期間で再犯した場合や、同種前科が複数ある場合には、実刑の可能性が高まります。
一方、前回から長期間経過し、その間薬物と無関係に生活していたなどの事情も考慮されます。
Q 執行猶予中にまた覚醒剤を使用しました。どうなりますか。
非常に厳しい状況となる可能性があります。新しい事件で実刑判決となった場合には、前の執行猶予が取り消される可能性もあります。
できるだけ早い段階で前刑と今回の事件の内容を確認し、弁護方針を検討する必要があります。
Q 一部執行猶予なら刑務所へ行かなくて済みますか。
いいえ。一部執行猶予は、刑期の一部について実際に服役し、残りの部分について執行を猶予する制度です。
全部執行猶予とは異なります。
Q 覚醒剤の再犯でも一部執行猶予になる可能性はありますか。
一定の場合にはあります。覚醒剤などの使用罪・単純所持罪については、薬物事犯に関する特別な一部執行猶予制度があり、一定の累犯者も対象となり得ます。
法務省:令和2年版犯罪白書-薬物犯罪-
ただし、当然に一部執行猶予となるものではなく、事件内容や前科、再犯防止策などを踏まえて裁判所が判断します。
Q 再犯でも治療を始める意味はありますか。
あります。むしろ再犯しているからこそ、本人の意思だけに頼らず、専門的な治療や回復支援につながる必要性が高いと考えられます。
刑事裁判上の情状だけでなく、実際の再犯防止という意味でも重要です。
まとめ
覚醒剤の再犯事件では、初犯と比較して実刑となる可能性が高くなります。特に、
- 同種前科が複数ある
- 前回から短期間で再犯した
- 執行猶予中に再犯した
- 過去に実刑・服役歴がある
- 長期間・反復して覚醒剤を使用している
一方で、再犯だからといって、 「もう何をしても意味がない」 ということではありません。
再犯事件ではむしろ、
- なぜ前回の処分後に再犯したのか
- 前回の再犯防止策の何が足りなかったのか
- 今回はどのような専門治療を受けるのか
- 家族がどのように支援するのか
- 薬物から離れた生活環境をどのように作るのか
また、覚醒剤などの使用罪・単純所持罪については、一定の場合に一部執行猶予制度が問題となることもあります。
当事務所では、覚醒剤の再犯事件についても、逮捕・勾留中の接見、起訴後の保釈請求、専門医療機関への通院を含む再犯防止策の検討、家族による監督体制の構築、公判での情状弁護などを行っています。
本人や家族が、
「再犯だから実刑になるのではないか。」
「執行猶予中にまた逮捕されてしまった。」
「前にも服役しているので、今回はどうなるのか。」
と不安を感じている場合には、過去の前科と今回の事件を確認した上で、できるだけ早く具体的な見通しと対応方針を整理することをおすすめします。