はじめに
「覚醒剤を使用して逮捕された。初犯でも刑務所に行くのか。」「家族が覚醒剤所持で逮捕されたが、これまで前科はない。」
「初犯なら執行猶予になると聞いたが、本当なのか。」
覚醒剤事件で逮捕・起訴された本人やその家族にとって、特に大きな不安の一つが、実刑となって刑務所へ行くことになるのか、それとも執行猶予となる可能性があるのかという点でしょう。
覚醒剤事件は決して軽い犯罪ではありません。
一方、初犯の覚醒剤自己使用や自己使用目的の単純所持の事件では、事案によっては執行猶予付き判決となることがあります。
もっとも、
「初犯だから必ず執行猶予になる。」
「少量しか持っていなかったから大丈夫。」
と単純に判断することはできません。
刑事裁判では、前科の有無だけでなく、覚醒剤の使用状況、所持量、事件に至った経緯、薬物との関わりの程度、本人の反省、家族の支援、再犯防止に向けた具体的な取組など、さまざまな事情が考慮されます。
特に覚醒剤事件では、単に「反省しています」「二度と使いません」と述べるだけでなく、専門医療機関への通院や家族による監督など、再び覚醒剤を使用しないための具体的な環境を作ることが重要です。
当事務所でも、覚醒剤の初犯事件について、逮捕・勾留段階から、起訴後の保釈請求、公判での情状弁護まで取り扱っています。
本記事では、覚醒剤事件の初犯ではどのような刑罰が考えられるのか、執行猶予となる可能性や、刑事裁判までに準備しておきたいことについて解説します。
覚醒剤の初犯でも犯罪は成立する
「今回が初めてだから、それほど重く処罰されないのではないか。」 と考える方もいるかもしれません。しかし、初犯であることと、犯罪が成立するかどうかは別の問題です。
覚醒剤の使用や所持について犯罪の成立が認められるのであれば、前科がないからといって処罰されないわけではありません。
「初犯」という事情が特に重要になるのは、主としてどの程度の刑を科すかという量刑の場面です。
したがって、 「初犯だから無罪・不起訴になる」という問題と、「初犯だから執行猶予となる可能性がある」という問題は分けて考える必要があります。
覚醒剤の初犯は不起訴になるのか
初犯であっても、覚醒剤の使用・所持について十分な証拠が存在する場合には、起訴される可能性があります。例えば使用事件で、
- 尿から覚醒剤成分が検出されている
- 本人も覚醒剤を使用したことを認めている
- その他の客観的証拠も存在する
所持事件でも同様です。
本人が覚醒剤であることを認識しながら所持していたことについて十分な証拠が存在する場合には、前科がないという事情だけで当然に不起訴になるとはいえません。
もっとも、犯罪の成立自体に問題がある事件は別です。
例えば、
「発見された覚醒剤は本当に本人が所持していたといえるのか。」
「本人はそれが覚醒剤であることを認識していたのか。」
「使用について故意が認められるのか。」
などが争点となる事件では、初犯かどうかとは別に、証拠関係を検討する必要があります。
覚醒剤の初犯なら執行猶予になるのか
覚醒剤の初犯事件について、多くの方が最も気にされるのがこの点でしょう。初犯の単純使用・自己使用目的の単純所持事件では、事案によっては全部執行猶予付き判決となることがあります。
執行猶予付き判決となれば、判決で言い渡された刑について直ちに刑務所へ収容されるのではなく、一定期間、その刑の執行が猶予されます。
ただし、初犯であるという一点だけで執行猶予が保証されるものではありません。
裁判所は、事件そのものの内容だけでなく、被告人の生活状況や事件後の対応なども含めて量刑を判断します。
したがって、覚醒剤事件では、「初犯だから大丈夫」と考えて公判まで何もしないのではなく、事件後にどのような再犯防止策を講じるかが重要です。
使用事件ではどのような事情が量刑で問題となるのか
覚醒剤使用事件では、単に「覚醒剤を一度使った」という事実だけを見るわけではありません。例えば、
- 覚醒剤を使用するようになった経緯
- 使用期間
- 使用頻度
- 覚醒剤への依存の程度
- どのような人間関係の中で使用していたのか
- 事件後に薬物との関係をどのように断つのか
- 治療を開始しているか
- 家族等の支援を受けられるか
仮に今回が初めての刑事事件であっても、実際には長期間・頻繁に覚醒剤を使用していたのであれば、薬物との関係が深いと評価される可能性があります。
反対に、事件後すぐに専門機関へ相談し、治療を開始するなど、具体的な再犯防止策を講じているのであれば、その事情を公判で示すことが考えられます。
所持事件では覚醒剤の量も重要になる
覚醒剤所持事件では、所持していた量や所持の目的も重要です。自己使用のために少量を所持していた事件と、大量の覚醒剤を所持していた事件とでは、当然ながら事件の評価は異なります。
また、
- 単純な自己使用目的の所持なのか
- 第三者への譲渡等が疑われる事情があるのか
- 覚醒剤以外の薬物も所持していたのか
- 使用事件も併せて問題となっているのか
具体的な事件内容を確認する必要があります。
「反省しています」だけでは十分ではない
刑事裁判では、本人の反省も考慮される事情の一つです。しかし、覚醒剤事件では、
「深く反省しています。」
「もう二度と覚醒剤には手を出しません。」
という言葉だけでは、再犯防止策として十分とはいえない場合があります。
覚醒剤を使用するようになった背景に薬物依存の問題があるのであれば、本人の意思だけで再使用を防ぐことには限界があります。
そこで重要になるのが、 「なぜ覚醒剤を使用するようになったのか」 「再び使用しないために何を変えるのか」 を具体的に考えることです。
例えば、
- 覚醒剤を使用していた交友関係から離れる
- 生活環境を見直す
- 家族と同居する
- 家族が生活状況を確認する
- 専門医療機関を受診する
- 薬物依存からの回復支援を継続して受ける
刑事裁判への対応だけを目的として形式的に準備するのではなく、実際に再び覚醒剤を使用しないための環境を作ることが重要です。
専門医療機関への通院は情状弁護に役立つのか
覚醒剤事件では、薬物依存について専門的に取り扱う医療機関等への相談・通院を検討することがあります。本人が、 「自分には依存症はない。」 「もう使わないと決めたから病院へ行く必要はない。」 と考えることもあります。
しかし、今回の事件をきっかけとして、自分と薬物との関係を専門家に評価してもらうことには意味があります。
実際に薬物依存の問題があるのであれば、適切な治療や支援につながることが再犯防止のために重要です。
また、刑事裁判という観点でも、
- 事件後速やかに専門機関へ相談した
- 継続的に通院している
- 医師等の指導を受けている
- 今後も治療を継続する予定である
もっとも、通院さえすれば必ず執行猶予になるというものではありません。
重要なのは、本人が薬物の問題に向き合い、実際に治療や支援を継続することです。
家族の監督・支援はなぜ重要なのか
覚醒剤事件では、家族による監督や支援も重要となることがあります。例えば、
- 釈放後は家族と同居する
- 家族が生活状況を把握する
- 通院に家族が協力する
- 薬物関係者との交友を断つよう支援する
- 本人に問題が生じた場合には家族が専門機関へ相談する
公判では、家族に情状証人として出廷してもらう場合もあります。
その際も、 「家族なので今後はしっかり監督します。」 という抽象的な話だけではなく、 誰が、どこで、どのように本人を支援・監督するのか を具体的に説明できることが重要です。
また、家族が薬物依存について正しい知識を持つことも大切です。
本人をただ叱ったり監視したりするだけではなく、必要に応じて医療・回復支援につなげることが再犯防止につながります。
保釈後の期間をどのように過ごすかも重要
覚醒剤事件で起訴された後、保釈が認められる場合があります。保釈された場合、 「裁判まで自由になった。」 というだけではありません。
公判までの期間は、再犯防止のための環境を整える重要な期間でもあります。
例えば、保釈後すぐに専門医療機関を受診し、その後も継続して通院することが考えられます。
また、
- 家族との同居
- 生活リズムの改善
- 就労の継続・再開
- 薬物関係者との関係の見直し
- 回復支援への参加
公判直前になって初めて、 「これから治療します。」 と述べる場合と、保釈後から継続的に行動している場合とでは、再犯防止への取組として示せる内容も異なります。
そのため、起訴後に保釈された場合には、刑事裁判を待つだけではなく、その期間を更生のために活用することが重要です。
仕事を続けられることは有利になるのか
覚醒剤事件では、仕事や生活基盤についても確認されることがあります。安定した仕事があり、事件後も勤務を継続できることは、更生環境を考える上で一つの事情となり得ます。
もっとも、 「仕事があるから執行猶予になる。」 という単純なものではありません。
重要なのは、
- 安定した生活基盤があるか
- 薬物から離れた生活を継続できるか
- 家族や周囲から支援を受けられるか
- 治療等と仕事を両立できるか
勤務先へ事件を伝える必要があるかどうかについても、職業や事件の状況によって異なりますので、個別に検討する必要があります。
初犯でも実刑の可能性が高くなるのはどのような場合か
初犯であっても、事件の内容によっては実刑の可能性を慎重に検討しなければなりません。例えば、
- 所持量が多い
- 営利目的が問題となっている
- 覚醒剤の譲渡・販売等を伴う
- 薬物との関わりが非常に深い
- 他の犯罪も併せて起訴されている
特に、覚醒剤を利益目的で譲渡したり、その目的で所持したりする事件は、自己使用を中心とした事件とは区別して考える必要があります。
「初犯」という言葉だけで安心せず、何の罪で、どのような事実について起訴されているのかを確認することが重要です。
覚醒剤事件の初犯で弁護士ができること
覚醒剤事件では、逮捕直後から公判まで、事件の段階に応じて弁護活動を行います。逮捕・勾留中の接見
本人と接見し、事件の内容や取調べ状況を確認します。使用・所持を認めている事件なのか、それとも事実関係を争っている事件なのかによって弁護方針は異なります。
身柄解放に向けた活動
勾留の必要性に争いがある場合には、早期の身柄解放に向けた活動を検討します。起訴後も身柄拘束が続く場合には、保釈請求を検討します。
専門医療機関等への接続
本人が釈放・保釈された場合には、できるだけ早い段階で薬物依存を取り扱う専門医療機関等への相談を検討します。必要なのは、「裁判のために一度だけ病院へ行く」ことではなく、本人に必要な治療・支援を継続することです。
家族による監督体制の構築
家族から事情を聞き、釈放後に誰が本人を支援するのか、どこで生活するのか、通院をどのように継続するのかなどを整理します。公判での情状弁護
公判では、- 本人の反省
- 事件に至った経緯
- 治療状況
- 再犯防止への取組
- 家族による支援・監督
- 仕事や生活環境
覚醒剤の初犯事件では、事件が起きてしまったことだけでなく、事件後に本人が何をしたのかも重要です。
「裁判になってから治療を始めればよい」のか
治療や再犯防止策について、 「まだ裁判の日程も決まっていないから、後で考えればよい。」 と思う方もいるかもしれません。しかし、覚醒剤事件では、可能であれば早い段階から再犯防止に向けた取組を始めることが望ましいでしょう。
早期に専門機関へ相談することには、
- 本人自身が薬物との関係を見直せる
- 必要な治療を早く開始できる
- 家族も今後の対応について学べる
- 一定期間継続して取り組んだ実績を公判で示せる
刑事裁判で良い結果を得るためだけではなく、再び覚醒剤事件を起こさないためにも、事件をきっかけとして生活そのものを見直すことが重要です。
よくある質問
Q 覚醒剤の初犯なら必ず執行猶予になりますか。
必ず執行猶予になるとはいえません。もっとも、初犯の単純使用・自己使用目的の単純所持事件では、事件内容によっては全部執行猶予付き判決となることがあります。
具体的な見通しは、使用状況、所持量、他の犯罪の有無、本人の生活状況、再犯防止への取組などを確認して判断する必要があります。
Q 初犯でも起訴されますか。
起訴される可能性があります。覚醒剤使用・所持について十分な証拠が存在する場合には、「初犯である」という事情だけで当然に不起訴となるわけではありません。
Q 初犯で少量の所持なら大丈夫ですか。
所持量は重要な事情の一つですが、それだけで刑の結論が決まるものではありません。所持目的、使用の有無、薬物との関わり、その他の事件の有無などを含めて判断されます。
Q 病院へ通えば執行猶予になりますか。
専門医療機関へ通院したという事実だけで執行猶予が保証されるものではありません。もっとも、薬物依存に向き合い、継続的な治療を受けていることは、再犯防止への具体的な取組として情状弁護上重要な事情となることがあります。
Q 家族は裁判で何ができますか。
家族による監督・支援体制を整えることが考えられます。また、事案によっては家族が情状証人として出廷し、釈放後の生活や今後の監督・支援について証言する場合もあります。
Q 初犯でも弁護士を付けた方がよいですか。
初犯であっても、逮捕・勾留への対応、保釈請求、治療先の確保、家族による監督体制の構築、公判での情状弁護など、検討すべき事項があります。特に身柄事件では、早い段階で今後の方針を整理することが重要です。
まとめ
覚醒剤事件では、初犯であることは量刑を考える上で重要な事情です。初犯の単純使用・自己使用目的の単純所持事件では、事案によっては全部執行猶予付き判決となることがあります。
しかし、 「初犯だから何もしなくても執行猶予になる」 と考えるべきではありません。
覚醒剤事件では、
- どの程度薬物と関わっていたのか
- なぜ使用するようになったのか
- 薬物関係者との関係を断てるのか
- 専門的な治療・支援を受けているか
- 家族による監督・支援を受けられるか
- 安定した生活環境を確保できるか
当事務所でも、覚醒剤の初犯事件について、逮捕・勾留中の接見、起訴後の保釈請求、専門医療機関への通院を含む再犯防止策の検討、家族による監督体制の構築、公判での情状弁護などを行っています。
家族が突然逮捕された場合や、本人が覚醒剤事件で逮捕・起訴され、「初犯でも実刑になるのではないか」と不安を感じている場合には、早い段階で弁護士へ相談し、事件の見通しと今後準備すべきことを整理することをおすすめします。