はじめに
「家族が覚醒剤事件で逮捕され、そのまま勾留されている。」「起訴されたが、いつになったら出てこられるのか。」
「覚醒剤事件でも保釈されることはあるのか。」
覚醒剤事件で本人が逮捕・勾留されている場合、家族にとって大きな関心事の一つが、いつ身柄を解放してもらえるのかという点です。
覚醒剤事件では、使用・所持の経緯、覚醒剤の入手先、関係者とのやり取りなどについて捜査が行われるため、逮捕後も勾留が続くことがあります。
また、起訴後も自動的に釈放されるわけではなく、そのまま勾留が継続するケースがあります。
もっとも、覚醒剤事件だから保釈されないというわけではありません。
起訴後には保釈を請求することができ、事件内容や本人の状況、家族による監督、帰住先、証拠隠滅や逃亡のおそれなどを踏まえて、保釈が認められる場合があります。
覚醒剤事件では、単に「家に帰りたい」「仕事がある」というだけではなく、
- どこで生活するのか
- 誰が本人を監督するのか
- 薬物関係者との接触をどのように避けるのか
- 再び覚醒剤を使用しないために何をするのか
- 専門医療機関への通院をどのように行うのか
当事務所でも、覚醒剤事件について、逮捕・勾留段階からの接見、起訴後の保釈請求、家族による監督体制の構築、専門医療機関への通院を含む再犯防止策などを取り扱っています。
本記事では、覚醒剤事件で保釈が認められる可能性、保釈請求を行う時期、家族が準備しておきたいことについて解説します。
保釈とは
保釈とは、刑事事件で起訴された被告人について、一定の条件の下で身柄を解放する制度です。逮捕・勾留されたからといって、刑事裁判が終わるまで必ず留置施設や拘置所にいなければならないわけではありません。
保釈が認められれば、被告人は裁判を受けながら社会生活を送ることができます。
例えば、
- 自宅で家族と生活する
- 仕事へ復帰する
- 専門医療機関へ通院する
- 弁護士と公判準備を行う
ただし、保釈されたからといって事件が終わったわけではありません。
その後も刑事裁判は続き、裁判所から指定された条件を守りながら生活する必要があります。
保釈はいつから請求できるのか
保釈を請求できるのは、原則として起訴された後です。逮捕された直後や、起訴前の勾留中に「保釈請求」をすることはできません。
したがって、
逮捕
↓
勾留
↓
捜査
↓
起訴
↓
保釈請求
という流れになります。
起訴前の段階では、勾留そのものを争ったり、勾留の取消し等を求めたりする別の身柄解放手続を検討することになります。
そのため、
「家族が逮捕されたので、すぐ保釈してほしい。」
という相談では、まず現在が起訴前なのか起訴後なのかを確認する必要があります。
覚醒剤事件でも保釈されるのか
覚醒剤事件でも、保釈が認められることはあります。「薬物事件だから保釈されない。」
「覚醒剤だから裁判までずっと拘置所にいる。」
というわけではありません。
もっとも、覚醒剤事件では、
- 覚醒剤の入手先
- 売人や共犯者との関係
- 一緒に使用した人物
- スマートフォン等の証拠
- 自宅等に残された物
- 関係者との供述の食い違い
そのため、特に事件関係者が複数いる場合や、まだ重要な証拠が残っていると考えられる場合には、証拠隠滅のおそれが問題となることがあります。
一方、既に捜査が相当程度進んでおり、主要な証拠が押収されている場合や、本人が事実関係を認めている場合などには、保釈判断における事情も変わってきます。
保釈が認められるかどうかは、「覚醒剤事件だから」という一点ではなく、個々の事件状況によって判断されます。
覚醒剤の使用だけの事件なら保釈されやすいのか
覚醒剤の自己使用のみが問題となっている事件と、覚醒剤の譲渡・営利目的所持・多数の関係者が存在する事件とでは、保釈判断で問題となる事情も異なります。例えば単純な使用事件で、
- 尿鑑定が既に終了している
- 本人も使用を認めている
- 関係者への働きかけのおそれが低い
- 家族の監督が期待できる
- 安定した帰住先がある
一方で、
- 覚醒剤の入手経路を争っている
- 売買関係者が多数いる
- 共犯者との供述関係が問題となっている
- 営利目的が争点となっている
したがって、
「使用だけなら必ず保釈される」
というわけではありませんが、事件の内容によって保釈請求の組み立ては大きく異なります。
保釈では何が審査されるのか
保釈では、主に、- 逃亡のおそれ
- 証拠隠滅のおそれ
- 事件の内容
- 被告人の生活状況
- 帰住先
- 家族等の監督状況
覚醒剤事件では特に、
「釈放した場合に関係者と接触し、証拠へ働きかけるおそれがないか」
という点が問題となることがあります。
また、
「保釈後に再び覚醒剤を使用しない環境が整っているか」
という点も、実際の保釈請求を考える上では重要です。
法律上、再犯可能性それ自体だけで保釈が決まるというものではありませんが、本人の生活環境を具体的に整えることは、裁判所に対して安定した社会生活が可能であることを示す一つの事情となります。
帰住先を決めることが重要
保釈請求では、保釈された後にどこで生活するのか
を明確にする必要があります。
例えば、
- 両親の自宅
- 配偶者と暮らす自宅
- その他家族の自宅
特に、事件前に一人暮らしをしており、その住居で覚醒剤を使用していたような場合には、同じ環境へそのまま戻すことが適切なのかを検討する必要があります。
薬物関係者とのつながりがある地域や住居を離れ、家族と生活することが再犯防止の観点から有効な場合もあります。
単に住所を記載するだけではなく、
- 誰と同居するのか
- 家族は本人をどの程度監督できるのか
- 日中はどのように過ごすのか
- 通院はどこで行うのか
家族による監督は重要なのか
覚醒剤事件では、家族による監督体制を準備することが重要です。例えば、本人の両親や配偶者などに、
- 保釈後は本人と同居する
- 裁判所の指定した条件を守らせる
- 裁判期日には必ず出頭させる
- 薬物関係者との接触を避けさせる
- 専門医療機関への通院に協力する
- 生活状況を把握する
保釈請求では、家族から監督を約束する書面を提出する場合もあります。
ただし、
「家族が監督します。」
と一言書けば十分というわけではありません。
特に過去にも覚醒剤事件があり、その際にも家族が監督していた場合には、
前回の監督でなぜ再犯を防げなかったのか
を考える必要があります。
再犯事件では、前回より具体的な監督・支援体制を作ることが重要になります。
専門医療機関への通院予定を準備する
覚醒剤事件では、保釈後に専門医療機関へ通院することを予定する場合があります。例えば、
- 薬物依存を専門的に扱う精神科・心療内科
- 依存症専門医療機関
- 薬物依存からの回復支援を行う団体
法務省も、薬物事犯者については、刑罰だけでなく依存からの回復に向けた継続的な治療・支援が必要であるとしています。
法務省:主な罪名別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望
そのため、保釈後について、
「自宅で反省します。」
というだけではなく、
「保釈されたらこの医療機関へ通院し、治療を開始する予定である」
という具体的な計画を立てておくことには意味があります。
可能であれば、保釈請求前の段階で家族が医療機関へ問い合わせるなど、実際に受診可能な状態を準備しておくことも考えられます。
仕事があることは保釈に有利なのか
勤務先があり、保釈後に復職できることは、安定した生活基盤を示す事情の一つとなり得ます。例えば、
- 勤務先が本人の復職を認めている
- 保釈後すぐに就労できる
- 勤務先から身元を確認できる
- 規則正しい生活を送れる
もっとも、
「仕事があるから必ず保釈される」
というわけではありません。
逃亡や証拠隠滅のおそれなどを含め、事件全体の事情を踏まえて判断されます。
また、事件によっては勤務先へ刑事事件について説明するかどうかも問題となるため、本人・家族だけで判断せず、弁護士と相談して対応する方がよいでしょう。
覚醒剤事件では関係者との接触を避けることが重要
覚醒剤事件で保釈後に特に注意すべきなのが、事件関係者との接触です。例えば、
- 覚醒剤を購入した相手
- 一緒に使用した人物
- 共犯者
- 事件について事情を知っている人物
事件によっては、これらの人物との接触を禁止することが保釈条件となる場合があります。
また、保釈条件として明示されていない場合でも、事件関係者へ連絡し、
「こう話してほしい。」
「警察にはこう言ってほしい。」
などと働きかければ、証拠隠滅を疑われる原因になります。
保釈された後も、刑事裁判が続いていることを忘れてはいけません。
保釈保証金はいくら必要なのか
保釈が許可される場合には、裁判所が定めた保釈保証金を納付する必要があります。金額は一律ではなく、
- 事件の内容
- 被告人の経済状況
- 逃亡を防止するために必要な金額
そのため、
「覚醒剤事件なら必ず○万円。」
という基準があるわけではありません。
家族が保釈請求を希望する場合には、保釈保証金をどのように準備するかも早めに検討しておく必要があります。
保釈保証金は、保釈条件を守り裁判へ適切に出頭していれば、原則として事件終了後に返還されます。
一方、逃亡した場合や保釈条件に違反した場合などには、保釈が取り消され、保証金が没取されることがあります。
保釈請求は一度却下されたら終わりなのか
保釈請求が一度認められなかったからといって、その後一切保釈できなくなるわけではありません。刑事裁判が進むことで事情が変化することがあります。
例えば、
- 重要な証人尋問が終了した
- 関係者の供述が既に確保された
- 証拠調べが進んだ
- 家族の監督体制が整った
- 帰住先が確保された
- 治療先が具体的に決まった
保釈が認められなかった理由を検討し、その後の事情変更を踏まえて再度保釈請求を行う場合があります。
したがって、
「一度駄目だったからもう無理だ」
と決めつける必要はありません。
否認事件でも保釈されるのか
覚醒剤事件で本人が使用・所持を否認している場合でも、保釈が認められる可能性はあります。もっとも、否認事件では、裁判所から証拠隠滅のおそれをより慎重に見られる場合があります。
例えば、
- 共犯者や関係者の供述が重要
- 誰が覚醒剤を所持していたかが争点
- 関係者との供述が食い違っている
だからといって、
「否認しているから保釈されない」
というものでもありません。
既にどの証拠が収集されているのか、どの人物との接触を避ければよいのか、監督体制をどのように作るかなどを具体的に検討する必要があります。
初犯と再犯で保釈の難しさは違うのか
初犯か再犯かも、事件全体を評価する際の一事情となります。初犯で、安定した家庭・仕事があり、本人が事件を認め、主要な証拠も既に確保されている事件では、比較的保釈請求を組み立てやすい場合があります。
一方、再犯で、
- 過去にも保釈中や執行猶予中に問題を起こした
- 薬物関係者との交友が続いている
- 帰住先が不安定
- 家族の監督が期待しにくい
ただし、再犯であっても、
- 家族と同居する
- 専門医療機関へ通院する
- 交友関係を見直す
- 安定した生活環境を確保する
保釈された後こそ治療を開始する
覚醒剤事件で保釈が認められた場合、保釈後の期間は非常に重要です。単に、
「裁判まで自宅で待つ。」
という期間ではありません。
特に薬物使用を認めている事件では、
- 専門医療機関への通院
- 薬物依存に対する治療
- 自助グループ等への参加
- 家族による監督
- 就労・生活環境の安定
- 薬物関係者との関係の整理
法務省も、薬物依存がある者について、保護観察期間だけではなく、その後も治療・支援を継続する必要があるとしています。
法務省:保護観察所
公判で、
「今後治療します。」
と述べるだけの場合と、
「保釈後から既に治療を開始し、継続している」
という場合とでは、裁判所へ示せる事情も異なります。
その意味でも、保釈は単なる身柄解放ではなく、更生に向けた準備期間という意味を持ちます。
保釈中に覚醒剤を再使用したらどうなるのか
保釈中に再び覚醒剤を使用した場合には、極めて深刻な問題となります。新たな犯罪として捜査される可能性があるだけでなく、保釈が取り消され、再び身柄を拘束される可能性があります。
また、刑事裁判の量刑においても、
起訴され、保釈という機会を得たにもかかわらず再び覚醒剤を使用した
という事情は非常に不利に評価される可能性があります。
そのため、保釈後は本人の意思だけに任せるのではなく、家族・医療機関等を含めた支援体制を整えることが重要です。
家族は保釈請求のために何を準備すればよいのか
家族ができることとして、まず次のような事項を整理するとよいでしょう。- 保釈後に本人を住まわせる場所
- 誰が本人と同居するのか
- 誰が監督するのか
- 本人の仕事はどうするのか
- 通院できる専門医療機関
- 裁判所への出頭を誰が支援するのか
- 薬物関係者との接触をどのように避けるか
- 保釈保証金をどのように準備するか
「早く帰してほしい。」
という気持ちが強いと思います。
しかし、保釈請求では、単に身柄を解放してほしいと求めるだけではなく、
「釈放しても逃亡・証拠隠滅のおそれが低く、安定した生活を送れる環境が整っている」
ことを具体的に示すことが重要です。
覚醒剤事件の保釈請求で弁護士ができること
事件内容・証拠関係を確認する
まず、何が起訴事実となっているのか、本人が認めているのか否認しているのか、どの証拠が既に収集されているのかを確認します。証拠隠滅のおそれについて検討する
関係者や証拠がどの程度残っているのかを確認し、保釈しても証拠隠滅のおそれが低いことを具体的に主張します。家族による監督体制を整える
誰が監督するのか、どこで生活するのかなどについて家族と協議します。必要に応じて、家族から監督に関する書面を作成します。
医療機関への通院計画を準備する
覚醒剤使用事件では、保釈後に専門医療機関へ通院できるよう、家族と協力して受診環境を整えることがあります。裁判所へ保釈請求書を提出する
事件内容や本人の事情を踏まえて保釈請求を行います。裁判官から確認を求められた場合には、追加資料の提出や説明を行うこともあります。
保釈後の生活について本人へ説明する
保釈条件や、事件関係者との接触を避ける必要性などを本人へ説明します。保釈を得ることだけでなく、保釈後にその状態を維持しながら公判を迎えることも重要な弁護活動です。
よくある質問
Q 覚醒剤事件でも保釈されますか。
される場合があります。覚醒剤事件であるという理由だけで保釈が否定されるものではありません。
事件内容、証拠関係、本人の生活状況、家族の監督体制などを踏まえて判断されます。
Q 逮捕直後に保釈請求できますか。
原則としてできません。保釈は起訴された後の被告人について利用する制度です。
起訴前には、勾留そのものを争うなど別の身柄解放手続を検討します。
Q 覚醒剤の初犯なら保釈されやすいですか。
初犯であることは一事情ですが、それだけで保釈が決まるものではありません。証拠隠滅や逃亡のおそれ、帰住先、家族の監督などを総合的に検討する必要があります。
Q 本人が覚醒剤使用を否認していても保釈されますか。
可能性はあります。もっとも、否認事件では証拠隠滅のおそれが問題とされる場合があるため、事件関係者との接触を防ぐ方法などを具体的に示すことが重要です。
Q 保釈されたら仕事に行けますか。
保釈条件に反しない範囲で勤務できる場合があります。もっとも、勤務地や事件関係者との関係などによっては個別の検討が必要です。
Q 保釈保証金は戻ってきますか。
保釈条件を守り、裁判へ適切に出頭した場合には、原則として事件終了後に返還されます。一方、逃亡や重大な保釈条件違反等があれば、没取される場合があります。
Q 保釈が一度却下されました。もう請求できませんか。
再度請求することは可能です。その後に証拠調べが進んだ場合や、監督体制・治療環境など新たな事情が整った場合には、それらを踏まえて再度保釈を求めることがあります。
まとめ
覚醒剤事件で逮捕・勾留された場合でも、起訴後には保釈を請求することができます。覚醒剤事件だからといって、刑事裁判が終了するまで必ず身柄拘束が続くわけではありません。
保釈請求では、
- 証拠隠滅のおそれがどの程度あるか
- 逃亡のおそれがあるか
- どこで生活するのか
- 誰が本人を監督するのか
- 事件関係者との接触をどのように避けるのか
- 安定した生活を送ることができるか
また、覚醒剤事件では、身柄を解放すること自体が最終目的ではありません。
保釈された後には、
- 専門医療機関への通院
- 薬物依存への治療
- 家族による支援・監督
- 就労や生活環境の安定
- 薬物関係者との関係の見直し
法務省も、薬物事犯者の再犯防止について、薬物依存からの回復には継続的な治療や地域での支援が必要であるとの考え方を示しています。
法務省:主な罪名別に見た再犯防止施策の課題と今後の展望
当事務所では、覚醒剤事件について、逮捕・勾留中の接見、起訴後の保釈請求、家族による監督体制の構築、専門医療機関への通院を含む再犯防止策、公判での情状弁護などを行っています。
家族が覚醒剤事件で起訴され、現在も身柄を拘束されている場合や、
「覚醒剤事件でも保釈できるのか。」
「家族として何を準備すればよいのか。」
と不安を感じている場合には、できるだけ早い段階で弁護士へ相談し、保釈請求に向けた準備を始めることをおすすめします。
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